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    はまおぎ

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    POIPOI 112

    はまおぎ

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    ご→う。
    五先生は一石を投じきれなかった。手ごわい。

    見直し「歌姫のその『先輩後輩』へのこだわりって、なんなの」
     応接セットのソファーにそれぞれ腰掛けて、向かい合っていた。五条の言葉に「事実を言ってるだけでしょうが」と庵の目尻が吊り上がる。彼女が手に持っているしょうゆせんべいは、袋を開ける前に握り潰されてかなり細かく砕けていた。
    「上なのは歳ばっかりで、それを敬えったってもねえ」鼻で笑ってみせた。「ここらで一丁、見直してごらんよ。僕と歌姫の、カンケイ」
     五条の言葉を受けて一層眉をしかめた庵は、首を少し傾げて瞑目し、沈黙した。鏡のように五条も同じ方向へ首を傾げて、こちらは庵を見つめたまま返答を待つ。
     五条の首が痛くなってきたころ、ついに庵が姿勢を正して口を開いた。
    「私とアンタから『先輩後輩』取っ払ったら、何も残らないと思う。焼け野原」
    「歌姫って実は薄情者なんじゃないの」
     傾げた首の重力に逆らうのをやめた五条の体が、ソファーのアームレストに沈む。
     はあ、と庵がわざとらしいほどに大きく息をつくのが聞こえた。意味不明な言動に呆れています、と大書きされているような表情だ。五条は五条で庵の想像力の貧弱ぶりに呆れているところなので、おあいこだろう。
     『先輩後輩』という枠を外して庵と五条を見たとき、例えば母校を同じくするとか、ともに呪術師であるとか、それこそ男と女であるとか、そこに残るものが何もないということはないはずだ。それを足掛かりにすれば、さらに新しい関係性だって結んでいくことができるのに、庵の視野にはそれがないのがよく分かる。
     五条は一歩でも二歩でも、この先に行ったって構わないと思っているのだが。
     頬に触れる革のひんやりとした温度を感じながら五条は「冷てえ……」とつぶやいた。そんな五条の姿に庵がさらに呆れたようにひとつ息を吐く。
    「……良くて同僚でしょう」
    「同僚ねえ」
    「一応、同じ『高専の先生』ってことで」
     五条は寝転がったまま、ミニテーブルの上の箱に手を伸ばす。出張がてら庵が差し入れたせんべい詰め合わせから、ざらめせんべいをチョイス。
    「同僚、同僚かあ」
     袋を開けて、かじりついた。せんべいもろとも、同僚というフレーズを嚙みしめる。
    「同僚……オフィス……うーん、火ドラ感」
    「なんの話してんの」
    「今後の展望の話ってとこ」
     五条の助言なしでも庵が『先輩後輩』以外の関係性の存在に気づいたことは前進としたい。問題はここからこの先、どう展開していくかだ。
     まあ、五条は庵の手の中で粉々になったしょうゆせんべいの扱いも気になっているのだけれど。

    (2111050445)
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