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    はまおぎ

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    はまおぎ

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    ご→う、withし

    外堀 数カ月ぶりに庵と飲む席を整えることが叶った家入は、緊急以外の用件をすべて明日以降の自分に任せて定時退勤を果たした。庵とのサシ飲みで定番となっている居酒屋に向かえば、庵も一足先に任務を終えてカウンター席でおかみさんと話していた。家入の到着予定を告げるメッセージを受けて、最初の一杯は待ってくれていたらしい。
     庵は生ビールを、家入はハイボールをそれぞれ頼んで、あとは気の向くまま赴くままだ。庵はひいきのサッカーチームの戦績が最近芳しくないのだとため息をつき、家入はそれでもホームゲームのチケット買おうとしちゃうんですねと苦笑をこぼし、そうして女だけの夜を過ごすはずだった。
    「歌姫、広島まで一人旅すんの? さっびしー」
     家入の同期の男が現れるまでは。
    「それは東京人の感覚だろうが。京都も広島も西日本! 東京に出てくるより広島に行く方が時間かかんないんだから!」
    「ほんの三十分程度の差だろ」
     どこで聞きつけたのか、どこから聞いていたのか。家入の反対側に空いていた席にすとんとその身を収めて、流れるようにおかみさんにオレンジジュースを頼んでいる。女子飲みに闖入してくる五条という状況にはおかみも慣れたもので、ジュースの瓶とグラスをさっとカウンターにそろえた。
     手酌でジュースを注いだグラスを庵の目の前に揺らして、「ほら歌姫、カンパーイ」なんて言っている五条の姿を見るのは何度目だろうか。楽しい観戦計画をいじくられた庵がその呼びかけに答えるわけがない。グラスをぎゅうぎゅうに握りしめる手は力が入りすぎて少し震えている。割れちゃわないかな、グラス。
    「ビール、ぬるくなっちゃいますよ」
     声をかけると、庵は思い出したようにグラスを握る手を緩め、そしてまたつかんでひと息に飲み干した。ビールが八分目まであったグラスは空である。
    「お代わり」
     その若干据わった目を見て、今日の庵の酔いは早そうだぞ、と家入の脳裏に黄信号がともった。
     あれから一時間ほどたっているだろうか。すっかりできあがった庵は五条への撃にかかりきりになって、家入とは反対側に意識がいきがちになっている。
     ただ、ときどき思い出したように家入へと泣きついてくる。今もしなだれかかってきた頭を片手で抱えてよしよししてやれば、庵を挟んだ向こう側から視線が刺さる。ちらと見れば目がバチリと合ったので、わざとその瞬間にくっと口角を上げてみせた。五条のこめかみがピクリと動く。
    「だいたいさ、歌姫が行くスタジアムとかドームとかってなんであんな辺鄙なとこなわけ? 東京ドームとか神宮とかハマスタとか見習いなよ、超街中だよ。同じ広島だってマツダスタジアムはあんなに駅近じゃん」
    「うっさいわね! 駅あるでしょうが! 街歩いてて唐突に出てくんのもウワーッ、ってなるけど、時間かけて行くのだってジワジワ感情が高まって乙なもんなんだよ!」
     がばっと庵が身を起こして家入の腕の中から出ていってしまった。おまえに何が分かる、とポコスカ振り下ろされる庵の拳は、不思議なことに五条の腕に届いてどすどすと鈍い音を立てていた。
     そういうとこだよ、君。
     この男、無限の間隙に守られて攻撃を受けることがないという触れ込みで実際に最強の名をほしいままにしているが、何でもかんでもはじいているのかというとそんなこともない。オートでもマニュアルでも、はじく対象は取捨選択できるし、している。
     戦闘中の五条が敵の打撃を受けるなんてことはない。しかし今、庵の殴打にはされるままになっている。体格差があるので当たったところでダメージなど知れたものだろうが。
     オートで対象外になっているのなら、ずいぶんと懐に入れたものである。
     マニュアルで対象外にしているのなら、これまたずいぶんひん曲がった文字通りの受容である。
     庵はというと、五条が接触を許すことは脅威と見なさないことと同義だと思っていると言っていた。つまり私をナメてかかってるんでしょう、とは酔いのないときに彼女に尋ねてみたら返ってきた見解だ。
     こんなところでまで、この二人にはズレがあるらしい。どこまでも反りが合わないように思える一方で、ここまでくるといっそ新手のシンクロナイズにも見えてくる。
    「じゃあ今度の試合、連れてってよ。本当にワクワクするか確かめてやるから」
    「言ったわね!」
     気づけば五条がしれっと二人での観戦の約束を取りつけていやがった。スマートフォンでチケットサイトを開いて、次のホームゲームだよね、ここの席でいい? じゃあ二枚とるよ、あとで一緒にコンビニで発券しようね、なんて言って庵に笑いかけている姿はまるで観戦好きのカップルの片割れだが、その正体はサクサクと外堀を埋めている男だ。
     家入が呆れている横で五条は庵に予定をメモするように急かしている。このあと庵が酔いつぶれて記憶を飛ばす可能性をしっかり考慮に入れているところが、この男の抜け目のなさだ。
    「スケジュール登録した? うん、オッケー。観戦楽しみだね、歌姫」
    「そうね、首洗って待ってなさい」
     庵は観戦予定をメモしたスマートフォンを見せつけて、五条に啖呵を切っている。あれこれ言っても二人で時間を過ごすこと自体を拒まなかったのは庵だ。そこを嫌がっていたのなら、家入もちゃんとストップをかけた。
     ねえ。そういうとこですよ、先輩。

    (2112101730)
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