🎴🎍🦋「アイス食べたい。鶴蝶買ってこい」
それはイザナの家で、鶴蝶とゲームをしていた時の事だった。諸事情により汗をかきシャワーを浴び終えたイザナが、勢いよくリビングのドアを開けながら言ってきた。
腰にはタオル一枚で、大変目のやり場に困る。武道が一人慌てる中、命じられた鶴蝶は呆れた顔をしていた。
「イザナ、服を着ろ」
「どうせすぐ脱ぐだろ」
「オマエが急にシャワー浴びるって言い出したから終了したんだぞ?」
「止めるなんて言ってないじゃん。続きするけどその前にアイス」
盛大に溜息をつきながらも、鶴蝶は立ち上がると財布を手にとる。
「武道はなに食べるんだ?」
「あ、オレ一緒に行くよ」
「は? ダメに決まってるだろ。ガキじゃないんだから一人で買い物くらいできるだろ」
「はいはい。武道は昔よく食べてたヤツでいいな?」
「あ、うん……」
呆れた顔をしつつも、鶴蝶は言われた通り買い物へと出ていく。なんだかんだ言いながらも、イザナには甘いなと、少し胸がモヤっとした。
武道にはあれはダメこれはダメと言うのに、イザナの命令には絶対服従なのだ。別になんでも言うことを聞いて欲しいというわけではないけれども、少しくらいその優しさを分けてくれてもいいと思う。
そんなことを考えている武道の隣に、イザナが腰を下ろす。
「ブサイク」
「……だって、カクちゃんイザナ君ばっかり」
「そりゃ下僕なんだから王を一番にするのは当たり前だろ」
二人には二人にしかわからない絆があるのは知っていて、それに嫉妬をするなんて馬鹿げているのはわかっている。
それでもモヤモヤしてしまうのだ。
動かなくなった画面を見つつ、コントローラーを手放す。あと少しでクリアだったのに、それを簡単に手放してどこかへ行ってしまう。
でもそれが鶴蝶なのだと、納得するしかないのだ。彼の一番はイザナで、どうすることも出来ないのだと。
「なんだよ。不満か?」
ニヤリと笑う顔は楽しそうで、テンションがどんどん下がっていく。彼は武道より優先されることを好んでいるように見える。
ムッとした武道は、唇を突き出した。
「……べっつに。そもそもカクちゃんが大事にしてるイザナ君に愛されてるんだから、それはつまりオレも大切にされてるってことだもん」
鶴蝶が大切にしてるイザナに愛されているということは、武道も大切にしてもらっているということになるはず。そんなとんでも理論を口にすれば、イザナは片眉を上げた。
「なに当たり前のこと言ってんの?」
「……ぅぇ」
「オレが命令したけど、そもそもオマエにも食わせたいと思ったから行ったんだろ。じゃなきゃあんなすぐ行かねぇよ。普段ならこんな時間にアイスなんてーって文句ばっか言うぞ?」
そうなんだと驚きながらも、否定されなかったことに顔が熱くなる。三人でお付き合いを始めてから、まだ日が浅いためこう言ったことには慣れていないのだ。
「まあ、愛されてる自覚あるならいいんじゃねぇの?」
「……へぃ」
「じゃあこの話は終わりな。続きするぞ」
「今から!? アイスは?」
「遅い」
「いやちょ、まっ!」
ソファーに押し倒された武道は、アイスを買って帰ってきた鶴蝶に助け出されるまで半泣きで抵抗したのだった。