世話人はそれに逆らえない! その日、イロンデールは謎の高揚感に悩んでいた。
異形のものを討伐しに出かけ、予定通り任務を遂行したことが原因かと思っていたのだがどうにもいつもと感覚が違う。
――体が熱い……。
汗が頬を伝い、首へと流れ落ちていく。体を動かしたからではない。どちらかというと発熱の時に近い現象だ。
とはいえ、イロンデールにはその状態になるようなことの心当たりがまるでなかった。剣士として修行を始めてからは健康体そのもので昨日も一昨日もその前も感冒症状はなかったのだ。
――くそ……。
心の中で悪態をついたイロンデールに声をかけたのはアイリスだった。
「大丈夫か? 熱があるのではないか?」
「熱? 俺がか?」
極めて平然を装ったが体の方は限界を訴えていた。呼吸も荒くなるし何よりも困るのは下肢の違和感だ。
とぷりと蜜が溢れ、下着を濡らす。
それは断続的ではあるが確実に流れ出て、イロンデールを不快な気分にさせた。
「日差しのせいじゃないか?ここは他よりも照りつけが厳しいからな」
「それは確かにそうだが……」
訝しがるアイリスとこの会話を続けても立場が悪くなるだけだ。
「さっさとサイファ様に報告しちまおうぜ」
無理矢理会話を終わらせたイロンデールはサイファの元へと急いだ。実際、体調はどんどん悪くなるばかりだ。
だから後ろを歩くアイリスが呟いた一言は耳に届かなかった。
「なんだ……この香りは……?」
「以上が今回の報告です」
アイリスの報告を待つ間、体が震えた。歯を食いしばらないとガチガチと鳴ってしまいそうだった。目が回るし、よくわからない感情が湧き出てくる。
「わかった。今日は十分に体を休めてくれ」
サイファの言葉に安堵する。
これで一先ず我慢をしなくても良くなる。
そう思っていたところに。
「あぁ、イロンデール。お前は残れ」
サイファの声が降ってきてイロンデールは体を強張らせた。
「は……? 残る……だと?」
じとりとサイファを睨みつけたイロンデールの横でなんとなく状態を察しているアイリスが遠慮がちにサイファに視線を送った。
「大丈夫だ、アイリス。早く壱番隊の者たちにも休息を告げてきなさい」
「はっ!」
促されたアイリスが去ったそこはサイファとイロンデールの二人きりになった。
「さて……」
仕切り直したサイファが側に重ねてある書類を手にして目を通し始める。
「おい、サイファ様。俺だって討伐してきたんだぜ? 今日は休みたいんだが……」
「まぁ、待て……」
一分でも、一秒でも早くこの場から立ち去りたい。
そう願うイロンデールを他所にサイファが動いたのはアイリスが去ってから五分後。その間にもイロンデールを蝕む熱は徐々に侵食を続け、皇王の目の前にあるのはその場で立っていられなくなった剣聖の姿であった。
「……っう……あ……」
体の至る所が痺れるような感覚だ。
衣服が擦れるだけでも刺激になるので自身で体を抱き、刺激を少なくするしかない。
「それにしてもすごい匂いだ……」
ようやく玉座から立ち上がったサイファがイロンデールに歩み寄った。
一歩、また一歩と近付く足音にどうしたわけか全身が戦慄く。それでもなんとか声を振り絞った。
「匂、い……ってなん、だ?」
覇気のないイロンデールの問いに、サイファは答えなかった。
「……行こうか、イロンデール。別に部屋を用意してある」
「っ……は、話しならっ…………ここ、で……」
「ここではできない、特別な話だ」
「なんだと……?」
イロンデールは促された先を確認した。どれ程の距離があるのかわからない。
歩けるのか。否、歩かなければならない。
ゴクリと唾を飲んで気合いを入れようとしたその時だ。
「歩けとは言わん。お前がこうなるのを待っていたからな」
「な……」
「そうでもせんとお前はくだらないと一蹴してここを去っていただろう。そうなっては何かと厄介なのだ」
つまりあの五分はイロンデールがサイファから逃亡するために残された最後のチャンスだったわけだ。
「く……」
歯を食いしばったイロンデールにサイファが苦笑した。
「こういうのは相手の手法に嵌った方が負けだ。以前教えただろう?」
余裕の笑みともとれなくない表情の彼は、外套を取り、イロンデールの体を軽々と肩に担いだ。
「なっ……お、降ろしてくれサイファ様!」
担がれた瞬間、背中にぞくりと何かが走った。そして抑えていた栓が抜けてしまったかのようにイロンデールの中心部からそれはドプドプと溢れ出す。
「んっ……っ……!」
前からだけではない。
排泄器官としてのみ使用し、それまで性行為のために使用したことのないそこからも何かが出ている。
「あっ……うぁ、ぁ……」
こうなってはサイファに抵抗している場合ではない。身を固くするイロンデールにサイファが溜息を吐いた。
「……刺激が強すぎたか。少し我慢してくれ」
外套でイロンデールの体を包んだサイファはそのまま人気のない廊下を歩き、皇王の居室の更に奥まで足を進めた。耳を澄ますと、重厚な扉の音が聞こえる。
――こんな奥に部屋を用意するなんてどういう了見だ? それに、この扉……。
音が外に漏れ出ないように作られており、鍵も複雑な構造のようだ。明らかに他の部屋とは違うそこに足を踏み入れたサイファがイロンデールを降ろした先はベッドの上であった。
「……?」
小さな箪笥がベッドの横に備え付けられ、反対側にはテーブルも用意されている。大きめのゴミ箱が傍に置いてあり、ベッドの上だけで生活できそうな配置だった。
「サ、サイファ……様。いい、かげ、んっ……せ、説明を……」
「説明よりもまずは体をなんとかしなければならないのではないか、イロンデール?」
「……っ! こんなのは寝て起きれば……」
「治らんよ。最低でも三日三晩はこのままだ」
自身の台詞を遮った言葉にイロンデールは目を見開いた。
なんだそれ。
聞いたことがない。
この状態で三日も過ごすなんてそんな馬鹿げた話があるわけがない。
「……っ」
「戸惑うのも無理はない。発情期は初めてだろう?」
言葉を失ったイロンデールにサイファがまた一つ新たな言葉を放った。
「発情期……?」
「体が強制的にその状態になることだ」
サイファが指した先はイロンデールの恥部だ。
「私に抱えられた時に達してしまったのではないか?」
「な……にを……」
言い当てられた瞬間、どろりとした何かが分泌された。
「私の香りに当てられたのだろう。きっと今もその感情は健在な筈だ」
「違うっ……俺は、そんな……」
湧き上がってくる衝動にイロンデールは膝を擦り合わせる。
――サイファ様の……が欲しいなんて、そんなこと……!
意識してしまえばそれは目を背けることができない強烈な欲望だ。
「く……うぅっ……!」
「――脱ぎなさい。少し相手をしよう」
「い、嫌だ……!」
「出さないとお前がつらいだけだ」
あくまでも事務的な処理だ、とサイファが念を押し、イロンデールの下衣の中に手を入れた。
「ふっ……」
力が入らない。
サイファを拒みたいのに体が言うことを聞かない。
「あぁ、こんなに硬くして……。痛かっただろう?」
やわやわと扱かれただけでイロンデールのそこは容易く性を吐き出した。
「あっ……あぁっ……!」
最早ベッドの上で体を震わせているのは『剣聖イロンデール』ではなく一人の青年だ。
「ひ……ぐ……」
目元にうっすらと涙を浮かべたイロンデールは熱い息を吐く。
「どうだ、少し楽になったか?」
先程こちらの中心を把持していた手を外に出したサイファは箪笥にしまってあったタオルで精液を拭った。
「……んなわけ……ないだろ」
むしろ状況は悪化したと言える。
前だけでなく、後ろにも刺激が欲しくなり、秘部が収縮し始めたのだ。
イロンデールの返事にサイファが頷く。
「異形のものが確認できるようになった頃から、我がジダ皇国では『第二の性別』というものが確認され始めた」
「……急に、何の話だ?」
「まぁ、聞けイロンデール。単刀直入に言うがお前はオメガ……――今伝えた第二の性別を持ち合わせている」
言いながらサイファは纏った服を一点ずつ脱いでいく。
「オメガ性を持つ者は発情期と呼ばれる期間があり、男であろうと子を成すことができる」
サイファのしなやかな肉体が露わになる。イロンデールはそれをベッドの上でただ眺めていた。
サイファの話についていけないというわけではない。理解はしたがどうにも納得ができない。
しかしこれから目の前の皇王に抱かれるのだということはなぜか納得してしまっている。嫌悪感がないのも皇王が言っていたオメガという性によるものなのだろうか。
「発情期の間は常時性的な興奮状態となり、繁殖以外に何も考えられなくなるらしい。サンプルが少なくてはっきりとはわからないが……」
「なぁ、サイファ様。そ、んなのはいい……」
「イロンデール……」
「おかしなことを……言っている、のはわかってる……が、あんたのが欲しくて……たまらない……」
「大事なことなんだがな……」
サイファは困ったように言いながらもイロンデールの希望に沿うようにベッドに上がった。重みでベッドが沈み、ギシリと音が響く。
「甘くて蕩けそうな匂いだ、イロンデール」
告げるサイファの表情からは余裕が消えていた。
「さっきも……匂いって言ってたな。――っ……なん、なんだ……それ?」
サイファの体を足の間に招いたイロンデールは問いながらシーツに爪を立てた。サイファの膝が恥部をグリグリと押し、刺激を加えてくる。
「あっ……んぁ……」
少しでも気を抜くと甘い声が出てしまう。
「オメガはフェロモンという甘い香りを出して私のようなアルファ性を誘うのだ。腹に子を宿すという本能故で、本人にはどうすることもできん」
「……」
「アルファのフェロモンを感じればそれはより強い香りとなる。だから、気をつけるんだ。薬を飲んでおかないとどこの誰とも知らないアルファの子を簡単に身籠る」
「は……」
答える間も無く、錠剤が口に押し込まれる。
「避妊剤だ、飲んでおけ」
言われた通りにそれを胃に収めれば、
「よし……」
と褒められ、こめかみにキスを落とされる。
その少し低いサイファの声は鼓膜を通してイロンデールの体を更に昂ぶらせた。下衣に手をかけられ、ずるりと下ろされると頭を持ち上げた性器が晒される。
「これは随分と重くなってしまったな。相当我慢していたか……」
下着などとうの昔にその役目を果たさなくなった。溢れ出た分泌物が下衣とイロンデールを繋いで細い糸の架け橋を作る。
「こんな……厄介なことだとは……おもわ、ない」
「そうだろうな」
サイファの指がイロンデールの秘部に触れた。
「あっ……」
声こそあげたが体は正直で、触れられたそこからもっと刺激を得ようと腰が動く。
その度にくちゃ、くちゃ、と濡れた音がするのが嫌だった。
「とても柔らかい。分かるか? 私の指を簡単に飲み込んでいく……」
「あっ……うぅっ……」
「……前立腺が腫れているな。発情期特有の症状なんだそうだ。こうすれば……」
サイファの指がそこをグリ、と押す。
「――っああぁぁああ‼」
堪らず、声を上げたイロンデールから大量の白濁が放たれた。尻からもどぷ、と何かが溢れたのが分かる。
「うぁっ……あぁっ……」
ビクビクと痙攣する体はもう自分のものではない。
「気持ちがいいか、イロンデール?」
イロンデールの片足を掲げ、見えやすくされた秘部にはまだサイファの指が収まっている。
「やめ……やめて、くれ……サイファさま……」
「そんなことを言って……」
ゆっくりと出し入れされるサイファの指が今度は優しく前立腺を撫でた。
「んぁっ……や……ぁああ……」
声が抑えられない。
気持ちいいのがずっと続いて頭がおかしくなりそうだった。