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    ekri_relay

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    書いた人→ひづき

    ハロウィンとか相談所(17) 一週間前。
     霊幻はエクボから、吉岡さんがハロウィン開催前まで俺の専属ボディガードになる話を聞かされた。(といっても、実際はその体の中にエクボが入っていて、吉岡さんは寝ているだけで金が入ると喜んでいた)なんでも市長たっての推薦らしく、吉岡さん自身にも何故自分が選ばれたのかよくわからないそうだ。「実は市長の親戚すじで、いつまでも定職に就かずにプラプラしている吉岡を心配して」とかでは無いらしい。
     また、同席したテルからホールで会ったという島崎との話も聞かされた。ここ一週間、調味市内のあちこちに現れる奇妙な魔法陣。その原因の一端が霊幻にあるというのだ。今の所たいした被害は出ていないが、日を追うごとに目撃情報は増えている。そのせいで『霊とか相談所』の仕事量は通常の1.5倍だ。この魔法陣、能力の無い人間にも目視できるというのが問題だ。人間、自分の理解出来ないものには恐怖の感情を抱く。魔法陣のせいでテストが赤点だった。魔法陣のせいでスカートの中身を盗撮しようとしているのがバレた。魔法陣からすすり泣く声が聞こえる……等々、バリエーションは様々だが、まぁ、ひっきりなしに相談の電話がかかってくる。モブや花沢にも祝日返上で手伝ってもらった程だ。
    「世界が消える……ねぇ」
     そんな事を突然言われても霊幻には全く実感がわかない。『愛する者と結ばれなかったから、世界を呪うという』というほどの情熱を今まで霊幻は誰かに対して持った事が無かった。というか、大半の人間がそうだろう。
    「でも――」
     今はどうだろうと、霊幻は思う。もし、なんらかの理由でエクボと結ばれる事が絶対に出来ないとなったら?いつもの考える時のクセでフニフニと唇を触る霊幻。そもそも同性同士、更に人間と悪霊という初めから見込みがほとんど無い恋だ。諦める気は無いが、いまいちピンとこない霊幻であった。



    「あれ、今日って誰かの誕生日だったか?」
     芹沢と二人、出張除霊から帰ってきた霊幻は事務所のテーブルに並べられたケーキを見てそう訊ねた。
    「お誕生日じゃない日おめでとう……です」
     そう答えたトメが歌う。
    ♪誕生日は1年に一度きり
     でも、お誕生日じゃない日は364日
     さぁ、なお誕生日じゃない日おめでとう
    「えっと、不思議の国のアリス?」
    「本当は、期末試験が終わったお祝いだそうですよ」
     給湯室から、モブこと影山茂夫が顔を出す。
    「お、モブも来てたのかぁ!」
    「先輩とすぐそこでバッタリ会って、折角だから一緒に慰労しましょうって」
    「霊幻さんは知らないと思いますけど、私たち2学期制なんで、夏休み明けたらすぐ期末テストなんですよ!?もう、テストが気になって全然夏休み満喫できなかったぁ」
     トメはそう言うが、なんだかんだ言って友達を遊びに行っていたのをここに居る全員が知っている。
    「モブは、今回のデキはどうなんだ?」
    「んー。まぁまぁでしたかねぇ」
    「影山くんは、夏休み中も図書館で頑張って勉強してたもんね」
     この後予約も入っていないので、看板を「本日の営業終了しました」に変える。トメの事だ、予約が無い事を知っていてここを訪れたのであろう。
    「それにしても、なんであのお茶会って食器がだしっぱなしなんだ?」
    「え、霊幻さん知らないんですか」
     トメの中では、霊幻新隆という男は『歩くウィ〇ペディア』なのだろう。打てば響くように答えが返って来るので勘違いしがちだが、実際は流石の霊幻もそこまで全てに精通している訳では無い。確かに、そこら辺を歩いている一般人よりは知識が豊富だし、そう”見せている”面はある。この商売『知らない』『わからない』では仕事にならない。客に気持ち良くしゃべってもらう為には、例え知っていたとしても時に無知を装い、逆に知らなかったとしてもその道のプロを名のれるぐらいでなければいけない。
    「実は、このお茶会の出席者の一人、帽子屋って人はハートの女王の怒りに触れて時間がずっとお茶の時間で止まってるんです」
    「帽子屋……」
     そのセリフを聞いた瞬間に、霊幻の胸の中で何かがザワリと音を立てた。不思議の国のアリス……改めて読んだ事は無いが、そのおおまかな概要は流石に知っている。特に思い入れのある話でも無いのに、何故か頬をつぅっと一筋の涙が零れ落ちた。
    「師匠、どこか痛いんですか?」
     そう言われて、霊幻は初めて自分が泣いている事に気が付いた。
    「いや、目にゴミでも入ったかな」
     無理矢理笑みを作る霊幻。何か悪い物に憑かれているのでは無いかとモブは霊幻を除き込むが、特に変わった様子は見当たらなかった。
    「さ、お茶が冷めちゃわない内に頂きましょう!」
    「あ、霊幻さんはもうちょっと冷ましてから飲んだ方がいいかもしれませんよ」
    「オイオイ、いくら俺だってそう何度も……って熱ぃ!!」
     いつもの光景がそこにはあった。モブも考え過ぎかと頭を振り、美味しそうなケーキを頬張る事にした。



     その夜、霊幻は不思議な夢を見た。おとぎ話の中に出て来るお姫様が眠るような天蓋付きの豪華なベッドに横になっている。そして、霊幻に覆いかぶさる男の顔は――
    「エクボ?」
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