ハロウィンとか相談所(32)「ゴホンッ…えーーー…お邪魔だとは思いますが…」
その時、二人の後ろからわざとらしい咳払いが聞こえ、二人は慌てて寄せ合っていた体を引き離した。
二人の後ろに立っていたのはテルキだった。
「ハロウィンの呪いについてご報告に伺ったんですが…忙しいですか?」
「お、おおっ、大丈夫!ヒマだ、思いっきりヒマだぞ、テル…!」
「で、二人はいつの間にそういう関係だったんです?」
「おう、テル坊!ついさっきからだ!」
いや、まだそういう関係というには何も言ってないんだけど!?と霊幻が慌ててエクボの口を塞ぐ。
「よし、ちょっとそこの喫茶店で話そうか!なんでも好きなものを頼んでいいぞ、テル!その代わり…」
「ああ、口止め料ですか?」
察しのいいテルはそう言ってにっこりと微笑み、店で一番高いパフェを頼んだ。
「で、ハロウィンの呪いのことですが」
「ハロウィンの呪い?」
「今ネットではそういう風に呼ばれてるんですよ」
「そのことなんだがな。どうやら、やっぱり俺とエクボに関わりのあることみたいなんだ」
大人二人の前には店で一番安いコーヒーが二つ並んでいる。さっき高校生に見られてはいけない姿を見られてしまった霊幻は小さく座席に縮こまりながら、フゥフゥとコーヒーを冷ましていた。
「お前さん猫舌なんだからアイス頼めよ」
「いや、俺はコーヒーはホット派なんだ」
「じゃあ話してる間、俺様が冷ましといてやろうか?」
「え?うん、お願い…」
「ゴホン…ッ!話の続きをお願いします」
霊幻とエクボはいつも通りのつもりなのだが、テルから見れば付き合ってほやほやのカップルがイチャついているようにしか見えない。いや、まだ確定には至らないからモブを始め仲間たちには黙っていて欲しい、と口止め料としてこのパフェを奢って貰ったわけだが、自分が喋らずとも周りにバレるのは時間の問題では…とテルは思った。
「最近…俺以外の世界の俺がこっちの世界に干渉してくるんだ。一体…どこからなのか分からないんだが…」
「ああ、それはパラレルワールドですよ」
パフェの一番上に乗ったマスクメロに豪快にかぶりつきながら、テルはこともなげに言った。
「僕なりに調べてたんですよね。いくつか魔法陣を見てみたら、力が流れ込んでいるのを感じて。で、入ってみたんです」
「入った!?」
「ええ。島崎さんに教わってテレポートを会得したんです。で、魔法陣の上でその能力を使うと、こことは全然違う世界に飛ぶことが分かって」
「一人で!?」
「もちろんこっちに戻る手立ては考えてますよ」
テルはあの後、ショウを通じて島崎に連絡を取りこの魔法陣捜査に協力を要請した。あくまでも観測のみが仕事である島崎だが、ショウの頼みも断りづらく結局テルを手伝うことになったのだ。
テルが向こう側に飛び、もし自力で戻れない場合は島崎がこちら側にテレポートさせる。そうやって役割を決め、テルは何度か魔法陣に飛び込んだ。
「色んなとこに行きましたよ。どこの世界にも僕もいて、影山くんもいて。絵本みたいな綺麗な森の中では僕は白兎でした」
そこで分かったことがある。どの世界でも霊幻とエクボの姿だけがなく、話を聞いて回ると全て非業の死を遂げているというのだ。
「その世界の中の影山くんはアリスで、ブルーのワンピース着て可愛かったなぁ…。で、影山くんが言うんです。師匠は世界を恨んで死んだって。僕も最初は信じられなかった。霊幻さんが世界を恨むなんて想像出来ないですからね。で、どこの世界でも霊幻さんはそこのエクボと一緒に消えていた」
───思い出せ。俺様たちの悲願を…
あの白い部屋で聞いたエクボの声を二人は思い出した。
「俺たちも…会ったんだ。その別世界の俺たちに」
「え?こっちに来てるってことですか?じゃあ、あの魔法陣はそのための通路なのかな?」
「けど…霊幻は止めようとしてたよな…俺様…たちを」
幻のような姿だったが霊幻はエクボを止めようとしていた。世界を恨んで死んだ別世界の霊幻が、わざわざ凶行を止めようとするだろうか?
「向こうの二人は…こっちの二人にどうして欲しいんですかね?」
巨大なパフェを底まで食べ終わると、テルはそう呟いた。
ただくっ付けばいいと言うなら、あの部屋であのままいたせば良かったはずだ。だが何かを訴えるために向こうの世界の二人は現れたのだ。
「何を…願ってるんだろうな?『俺たち』は…」
霊幻は既に冷え切ったコーヒーを胃の中に流し込んだ。