「ヤング・クロウリー ~始まりの物語~」出会い編ある日、茨の魔女の下僕ディアブロは本来の姿、大鴉に戻り空を飛んでいた。
と、目の隅にキラキラと美しい光が映った。
ディアブロは鴉族の例にもれず光り物に目がない。その光はとてもとても美しく、彼を惹きつけた。
風に揺れ、さんざめく光の群れ。
あれはなんだろう。本当に美しい。もっと近くへ。もっと、もっと!
漆黒の翼の限り羽ばたいて、たどり着いたのは小さな民家だった。
家の周りの木々には、大小の鏡が吊るされて光を反射している。
なんと美しい光景だろう…。
彼は木の一本に降り立つと、降り注ぐ光を浴びてうっとりと黄色い目を細めた。
と、家の中から一人の人間の娘が現れた。
その娘を見た時、ディアブロの下嘴がかくんと落ちた。
口を開けたまま、呆けたようにただただその美の化身を見つめ続けた。
今や、彼の目に煌めく鏡の光は届いていなかった。
ただその娘の光り輝くような美しさだけが、その瞳に映っていた。
大鴉のディアブロは、たったひと目で恋に墜ちたのだ。
その恋は後に、彼を時空を越えた遠大な計画へと導くことになる。
そして彼はディア・クロウリーの名の下に、とある学園の学園長となるのであった。
これは、そのはるか手前のお話。
人間の娘に恋をし、そして失った、一羽のカラスの物語。
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以下、資料とフレーバーメモ。
『みんなが知らない白雪姫 なぜ女王は魔女になったか』 (講談社KK文庫)より。
◆茨の魔女エピ該当シーン
P25「ドラゴンになった魔女のお話を(白雪姫に継母王妃が)何度も聞かせました」
P125「おとぎ話を思い出しました。それはドラゴンに変身できる魔女の物語。誰とも付き合おうとしない孤独な魔女は、なんだか今の自分に似ているような気がします」
※「美しき女王」の時代には、「茨の魔女」はお伽噺になっている。
◆黄色い目のカラス登場シーン
P125(女王が魔術の研鑽をしようと地下室に降りた時)
「窓を開け少し空気を入れると、黒い大きなカラスが窓辺にとまっているのが見えました。
一羽のカラスが待っていたように窓から飛び込んでくると、黄色い目でグリムヒルデを見つめました。グリムヒルデはカラスの頭をなでてやりました。なぜかこのカラスを気に入っているのです。カラスはカァと満足そうな鳴き声を上げました」
※この黄色い目のカラスは、茨の魔女の部下ディアブロであり、後の学園長ディア・クロウリーでは?
◆鏡を吊るすシーン
冒頭近くで、後の「美しき女王」グリムヒルデが鏡職人の父亡き後に家中の鏡を外に持ち出し、木々に吊るすシーンがある。
※学園長のボイスでは、鏡がキラキラと美しくいつまででも眺めていられると言っている。これもカラスを思わせる。その性質を今回書いた話しのフックに使ってみた。
◆「美しき女王」の夫=王様はさくっと戦死していた。なので、前回UPしたお話は要訂正。