ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部 第一話「出会い」 マレフィセントと共に過ごした十数年は、大鴉のディアヴァルを何も知らない若者から賢くタフな大人の鴉へと成長させていた。
彼は、自分でも気づかぬうちにマレフィセントを深く愛していたが、その愛情は自分を救ってくれた主への敬愛の念だった。
だが、マレフィセントは絶望に蝕まれ、ドラゴンと化して討ち取られてしまった。主を喪ったディアヴァルは失意を胸に放浪の旅へと出たのだった……。
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ある日、ディアヴァルが空を飛んでいると、目の隅にキラキラと美しく輝く光の群れが映った。
ディアヴァルは鴉族の例にもれず光り物に目がない。その光はとてもとても美しく、彼を強烈に惹きつけた。
風に揺れ、煌めく光の群れ。
あれはなんだろう。本当に美しい。もっと近くへ。もっと、もっと!
漆黒の翼の限り羽ばたいて、たどり着いたのは小さな民家だった。
家の周りの木々には、大小の鏡が吊るされて光を反射している。
なんと美しい光景だろう……。いつまででも眺めていられそうだ……。
彼は木の一本に降り立つと、降り注ぐ光を浴びてうっとりと黄色い目を細めた。
と、家の中から一人の人間の娘が現れた。
光の滝のように波打つ金の髪。アメジストのように煌めく紫の瞳。唇は熟したリンゴのように紅く、抜けるように白い肌には薄く薔薇色がさしている。すっきりと背筋を伸ばし、所作のひとつひとつから優美さがこぼれ落ちる。着ている服こそ粗末だが、その美貌は神々しいまでに光り輝いていた。
その娘を見た時、ディアヴァルの下嘴がかくんと落ちた。
口を開けたまま、呆けたようにただただその美の化身を見つめ続けた。
娘は、家の中から次々と鏡を持ち出しては、家の周りのリンゴの木に吊るして行った。様々な形の鏡が次々に現れ、枝に吊るされて美しく光を反射する。
だが今や、彼の目に煌めく鏡の光は届いていなかった。
ただその娘の光り輝くような美しさだけが、その瞳に映っていた。
大鴉のディアヴァルは、たったひと目で恋に墜ちたのだ。
この恋は後に、彼を時空を越えた遠大な計画へと導くことになる。
そして彼はディア・クロウリーの名の下に、とある学園の学園長となるのであった。
これは、その遥か手前のお話。
人間の娘に激しい恋をし、そして失った、一羽のカラスの物語。
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【豆知識】
現実でもカラス類は長命で、ワタリガラス(大鴉・RAVEN)の寿命は、野生の個体で10年~15年程度と言われています。飼育された場合は30年以上、一部では60年という記録もあるそうです。
長年妖精の魔法の影響下にあったディアヴァルが更に長命だったとしても不思議はないかな、という想定でこのお話を書いています。(それ以上に長く生きることになる理由は、シリーズ後半で明かされます。お楽しみに!)
そんなわけで、第二部でのディアヴァルのお年頃は、人間で言うなら二十代後半からアラサー位のイメージで書いています。
【お知らせ】
第一部完成版をpixivで連載開始しました。
https://pixiv.net/novel/show.phpid=16864440