Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    銀鳩堂

    ここには草稿をポイポイあげて、溜まったら整えてpixivやカクヨムに移植しています。
    ツイステ二次創作小説の長編案が降りてきたので現在は主にそれを書いてます。
    pixiv⇨https://www.pixiv.net/users/68325823

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 55

    銀鳩堂

    ☆quiet follow

    ヤンクロ第二部22話。
    後のクロウリー学園長=大鴉のディアヴァルの物語、美しき女王編の22話。老婆に扮した女王は森の小人の小屋へと向かった…。(本文約3000文字/今回、豆知識はお休みです)

    #ツイステファンアート
    twistedFanArt
    #ディア・クロウリー
    dearCrowley.
    #クロウリー学園長
    crowleyPrincipal.

    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部㉒話「姫と老婆」 女王とディアヴァルは、森の奥へ奥へと進んでいった。
     深い森には太くねじくれた木々が鬱蒼うっそうと茂り、空はほとんど見えない。地面には分厚く苔がむし、足音も吸い込まれて響くことはない。聞こえてくるのは、どこか遠くで鳴く鳥の声と、吹きすぎる風がこずえを揺らす音くらいだ。そんな風景の中に、細い踏み分けが通っている。その細い獣道か人の道かも定かではない踏み分けを、一人の老女が歩いていた。曲がった腰に長い木の杖をつき、片手に籠を抱えている。誰が見てもみすぼらしい老婆にしか見えないそれは、女王の変装した姿だった。
     どれほど歩いただろうか。太陽が天高く上がりそろそろ昼も近いと見えた頃、やっと森の木々がまばらとなり、一人と一羽は開けた空き地へと歩み出た。
     空き地には、小さな二階家が立っていた。人間の家にしては小さな作りで、ドアは大人なら背を屈めなければ通れないほど低く、窓も膝くらいの高さについている。
     女王扮する老婆は、その家の前にゆくと扉をコツコツと木こぶのある杖の頭で叩いた。
     家の中で何かが動く気配。だが、耳を澄ませても答えはない。
     老婆は大きくため息をつくと、窓の下のベンチに座り、大きな声で独り言を言い始めた。
    「ああ、ああ、疲れた。森の中をたくさんあるいて、足が棒のようだよ。喉は乾いてカラカラだ。水の一杯もあれば元気が出るだろうに、ここには誰もいないようだね。でももう歩いていく元気なんて出ない。どうしようかねぇ……」
     心底困ったような老女の繰り言くりごとだけが、無人の空き地に響く。
     と、め殺しの窓の奥で何かが動いた。
    「誰か助けてくれる人がいたら良かったのに。誰もいないなんて、わたしゃツイていないねぇ」
     ここぞと老婆が嘆く。
     と、ギィ……ときしむ音がして、扉が細く明けられた。
    「おや! 人がいたのかい? ありがたい、この哀れな老婆に水を一杯めぐんではくださらんか」
    「少し待って下さい。いまお水を持ってきますから」
     と、よく通る若い娘の声が答え、ドアが締まった。間違いなく、スノーホワイトの声だった。
    「ああ、ありがたい。親切な娘さんに出会えてわたしゃ幸運だ」
     一度閉じたドアはすぐまた開き、細い隙間から小さな白い手が素焼きのジョッキを差し出した。
    「ありがとうよ、親切な娘さん」
     そう言うと老婆はジョッキを受け取ったが、手が滑って落としてしまった。玄関前の敷石に落ちたジョッキは派手な音を立てて砕け散ってしまった。
    「ああ! 私はなんてことを! せっかく親切にして頂いたのに……」
     そう叫ぶと、老婆は大事に抱えていたかごを脇へ置き、這いつくばって破片を拾い始めた。
    「おばあさん、だめよ、危ないわ!」
     娘はそう叫ぶと、ドアを開けて家から出てきて自分で破片を拾い始めた。
    「ああ! なんて親切な娘さんなんだろう! それなのに私ときたら……!!」
    「いいのよ、おばあさん、気にしないで下さい。ジョッキは他にもあるわ。お怪我はありませんでしたか?」
    「大丈夫だよ。親切な娘さん、本当にありがとう。貴女は良い子だねぇ」
     老婆は両手を揉みしだいてお礼を言った。
    「おばあさん、お水をもういっぱい汲みますね」
     娘はそう言うと、また家の中へと入っていき、すぐに戻ってきた。
    「はい、お水をどうぞ」
     娘はドアから出てくると、しっかりと老婆に向き合ってジョッキを支えながら差し出した。
    「ありがとうよ。こんなみすぼらしい老婆に親切にしてくれる人なんてめったにいないよ」
     そう言いながらジョッキを受け取った老婆は、美味しそうに水を飲み干した。
    「ああ、美味しかった。お前さんにはお礼をしないといけないね。そうだ、ここに良いものがある。ごらん……」
     老婆はかたわらに置いたかごを取り上げると、中からあの赤いリンゴを取り出した。
    「ほうら、美味しそうだろう。これをお前にあげよう。良いんだよ、他にもリンゴはあるからね。ほんのお礼だよ」
    「まあ! 美味しそう……。でも、私だけ美味しいものを食べるなんて、みんなに悪いわ」
    「おや、家には他にも誰かいるのかい?」
    「ええ、七人の小人さんと暮らしているの」
    「まあまあ、そうだったのかい。優しい子だねぇ。大丈夫だよ。リンゴはほら、他にもある。お礼にこれも上げるから、みんなにも食べさせてお上げ」
    「まあ、そんなに沢山! いいんですか? たった一杯のお水のお礼には多すぎるわ」
    「いいんだよ。こんな親切を受けたのは久しぶりだよ。わたしゃ嬉しくて涙が出た。これはそのお礼だよ。だから、これはお前さんがお食べ」
    「でも……」
    「このリンゴはね、特別な物なんだ。他のリンゴも美味しいけれど、これは一個だけしかない願いのリンゴなのさ。これを食べれば願いがかなう。わたしゃ、お前さんに親切にされたのだから、お前さんに恩を返したいのさ。だから、さ、これをお取り。おまえさんの物だ。願いを唱えて、一口食べれば、それで願いが必ずかなうんだよ」
    「まあ……。そんな大事なものをもらってしまって良いのかしら」
    「いいのさ、お前さんにだから上げるんだよ。このリンゴは、きれいな心の娘にしか効き目がないのさ」
    「まあ! そうなの?」
    「そうさ。だから、さあ、お食べ。今すぐ願いを唱えて、ひとくちかじってご覧。願いは必ずかなうだろう」
     スノーホワイトはリンゴを捧げ持って見つめた。リンゴはつやつやと赤く輝き、爽やかな甘い香りを放っている。彼女は息を吸い込むと、願いを唱えた。
    「あの方が迎えに来てくれますように」
     そして、リンゴに赤い唇をよせて口づけると、一口、かじり取り……。
     そのままその場に崩折くずおれた。
     スノーホワイトの手から力が抜け、リンゴがコロコロと土の上を転がった。
     老婆はそれを見ると破顔はがんした。そして両手を上げると叫んだ。
    「天も地もご覧あれ! 敵はたおれた!! これで我が国は安泰じゃ!!」
     空き地に彼女のヒステリックな笑い声が響き、森の中へと吸い込まれていった。
     その時、ディアヴァルの目の片隅に動くものが見えた。
     木陰で棒立ちになった鹿。藪の下からこっそり覗き見しているウサギ。木の上から覗き込む小鳥たち。みな、目をまんまるにして怯えた顔をしている。次の瞬間。動物たちが一斉に消えた。ディアヴァルの耳には、彼らが一斉に走り去る物音が聞こえてきた。みな、同じ方向を目指している。
     気になったディアヴァルは空へ舞い上がり様子を見てみた。動物たちの走り去った方向には、ドワーフの鉱山があるはずだ……。まずい。彼らがこの様子を見たら、女王を許しはしないだろう。
     ディアヴァルは舞い降りると、女王ふんする老女の服の裾をくわえて引っ張った。(頼む、気づいて下さい!)と願いながら。
     女王はひとしきり笑い終わると、脱力したようにその場に座り込んだ。
     そして、ディアヴァルがしきりに服を引っ張っていることに気がついた。
    「どうしたの、お前?」
    「ニゲテ! ニゲテ! テキクル!!」
     ディアヴァルは、人間の言葉で叫んだ。
    「まあ、それは本当なの?」
     女王の問に、ディアヴァルは必死にうなずき、また服を引っ張った。
     女王は半信半疑の様子で立ち上がると、森の中へと入っていった。
     その頃、ドワーフ鉱山では、突然現れた大量の動物や小鳥たちにうながされた七人のドワーフたちが異変に気づき、小屋へと戻ろうとしていたのだった。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    銀鳩堂

    PROGRESSヤンクロ第二部23話。
    後のクロウリー学園長=大鴉のディアヴァルの物語、美しき女王編の23話。七人の小人たちが小屋へ戻ってくる!女王の扮する老婆は危機を告げるディアヴァルに促されてその場を逃げ出したが…。(本文約2600文字/今回、豆知識はお休みです)
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部㉓話「老婆と七人の小人たち」 ディアヴァルにかされて、老婆にふんした女王は森の中へと走り込んでいった。
     ディアヴァルが空に舞い上がって偵察してみると、木立の隙間からちらちらと、小人ドワーフたちが転んだり滑ったりしながらも家を目指して走っているのが見えた。あいつらあんなに足が短いくせに、なんであんなに早いんだ? それなのに、老婆の姿の女王は早く走ることが出来ない。早くも息をはずませて、苦しそうに走っている。ディアヴァルは女王の直ぐ側まで舞い降りると、枝から枝へと飛び移りながら女王の後を付いて行った。
     女王は森の踏み分け道を走って戻っていく。その後ろから、大声で叫ぶ怒った小人ドワーフたちの声がかすかに聞こえ始めた。このままでは追いつかれてしまう! どうすれば良いのだろうか? ディアヴァルは女王のそばを離れ、小人ドワーフたちの方へと戻っていった。
    2646

    related works

    銀鳩堂

    PROGRESSヤンクロ第2部第3話
    後にクロウリーが学園長となるカラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第三話です。
    今回は王とグリムヒルデ(後の美しき女王)の結婚式のシーンです。
    本文約1450文字+カラス豆知識約740文字のおまけ付き。今回の豆知識はカラスがお互いを確認する方法「コンタクトコール」についてです(資料リンクあり)。
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部三話「結婚式」 五月のよく晴れた朝、王城は晴ればれとした雰囲気に包まれていた。
     城のすべての尖塔に美しい三角旗がはためき、城門は春の花々を編み込んだ花綱で飾り立てられて開放されている。城門からは次々と来客が流れ込み、城はかつてない賑わいに沸き立っていた。
     今日は、この国の王が新たな王妃をめとる、その結婚の式典が催されるのだ。城の庭園は民草にも開放され、たくさんのご馳走と飲み物が振る舞われる。
     麗々しい式典のクライマックスは、正午の結婚の誓いだ。国の最も高位の聖職者がやってきて王と新たな王妃の誓いに立ち会い、この結婚に祝福を与えることになっている。
     その場には、もちろんディアヴァルも訪れていた。なにせ不吉とされてしまうカラスの身、あまりおおっぴらに姿を表すことはしなかったけれど、物陰から人々を観察し、ちらりとでもグリムヒルデの姿が見えないかと期待していたのだ。
    2210

    銀鳩堂

    PROGRESSヤンクロ第2部第8話
    後のクロウリー学園長=カラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第8話です。
    王妃と再会したディアヴァルは、ずっと側にいて欲しいと言われて幸福に酔いしれるのだった。そこへ誰かがドアを開けて入ってきた…。(本文約1630文字/豆知識は今回はお休みです。支部移植字に話数が減る予定なので今回はそれを見込んでの調整です)
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部八話「命名」 ディアヴァルが王妃グリムヒルデに背中を撫でられて恍惚こうこつとなっていたその時、部屋のドアがキィっと開く音がした。
     誰か来た?! まさか追い払われたりはしないだろうか。王妃に魔女の疑いがかかってしまったりしたらどうしよう……。
     そんな心配が頭の中を駆け巡る。
     だが、次の瞬間、部屋に飛び込んできたのはスノーホワイト姫だった。
    「おかあしゃま、あのね……」
     そう言いかけた姫の顔はたいそう寂しげで、ディアヴァルはこんな小さな女の子がこんなにも寂しげな顔をするなんて、と胸を痛めた。が、次の瞬間、姫の顔がぱっと輝いた。
    「あっ!! カラスしゃん!! カラスしゃんだ!!」
    「そうよ、カラスさんが遊びに来てくれたのよ」
    1634

    銀鳩堂

    PROGRESSヤンクロ第二部1.5話「出会い」後編
    構想が固まらず止まっていた二部ですが強引に再起動。試運転的に出会いシーンの続き、王とグリムヒルデ(後の美しき女王)の出会いを書きました。
    アニメ版「白雪姫」には無いシーンで「みんなが知らない白雪姫」の筋立てとも違っていますが書きやすい方向に進んでみます。最後にカラス(鳥類)の豆知識(異種族恋愛事情)付き。豆知識は恒例にしたいです☺(本文1327文字)
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部1.5話「王との出会い」(第一話前半はこちら⇨https://poipiku.com/3625622/6059932.html)


     大鴉おおがらすのディアヴァルは、美しい乙女の姿に見惚みほれていた。
     なんと美しい髪の毛。瞳も、顔も、何もかも完璧な美の化身としか思えない。いくらでも眺めていることができる。
     彼のこれまでの生涯で、こんな気持ちになるのは初めてのことだった。
     心臓がドキドキして胸が苦しく身体は熱くなって、クロウタドリの様に歌いたいような、ハヤブサの様に飛翔したくなるような、得も言われぬ心地がする。
     この奇妙な心地は何なのだろう。まるで何か魔法にでも掛かったみたいだ。そう思っているその時、乙女の家の門の前に立派な馬に乗った男が供を何人も連れて通りかかった。
    2445

    銀鳩堂

    PROGRESSヤンクロ第2部第4話
    後のクロウリー学園長=カラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第4話です。
    今回は王妃グリムヒルデと白雪姫の仲睦まじいティータイムにディアヴァルがお邪魔します。こんなにも仲睦まじい二人がなぜあんなことになってしまうのか、それは今後のお楽しみ…。(本文1940文字)

    ※今回の豆知識はWIRED誌から、鳥の「名付け」について。そう、鳥たちも「名前」を持っているのです……!
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部四話「小さなお茶会」 華やかな結婚式から数日後。王城の庭園で虫を漁っていたディアヴァルは、新王妃グリムヒルデと小さな女の子がやってくるのに気がついた。女の子は、結婚式でドレスの裳裾もすそを持っていたあの子だ。参列者からは姫と言われていた。年の頃は6歳かそこらだろうか。どうも人間の子どもの年齢はわかりにくい。
     グリムヒルデは、幼い姫の手を引いて庭園の東屋あずまやをめざしているようだ。片手にはバスケットを下げている。
    「東屋についたらおやつを頂きましょうね」と、グリムヒルデは小さな姫に声をかけた。
    「はい、おかあしゃま!」と元気よく姫が答える。
     ディアヴァルには、その声や口調は、見た感じの年齢より少しばかり幼く感じられた。だがその幼さは姫をより愛らしく見せているとも思った。
    3128

    recommended works