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    shi_ho_do_

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    shi_ho_do_

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    ・マイ武前提モブ武
    ・捏造に次ぐ捏造
    ・名前付きのモブ(サラリーマン)が武と出会い、恋愛対象として興味のなかった武に恋心を抱くまでのお話
    ・今後モブ武での性描写の予定あり
    ・別ジャンル(HQ)のことに少し触れてますが、知らなくても問題なく読めます

    #マイ武
    #モブ武
    mobWarrior
    ##フラッグシップの恋だった

    フラッグシップの恋だった③side:七海side:七海
     遅いな、と思った時には大抵何かに巻き込まれている。それをここ最近でいいだけ知った。

     今日は仕事を早く切り上げられそうだったので武道と会う約束になっていた。
     例の懇親会の時に知ったのだが、意外と映画に詳しい彼と話が盛り上がり、現在上映中の話題作を一緒に観に行くはずだったのだ。

     なぜ会合に誘ったのかは正直自分でもわからない。父が件の銘柄を相当数所持しているため、招待状は毎年父宛てに送られる。しかし当人は面倒なのか、まぁ当然のように行かず、決まってこちらに回されるためいつも余分に一枚あった。
     七海の元にも同じ理由から届いており、そんな二枚にほんの場当たり的な考えだった。





     ようやく携帯が繋がったのは随分経ってからだ。
     案の定手負いだと言う武道の元へ急げば、ビルの間に身を潜めるようにして固い呼吸に肩を震わせている。
    「武道君、大丈夫────」
     と聞きかけ、やめた。それに武道が少し笑い、口内の傷に触れたのかギュッと眉間を寄せる。

     映画は日を改めることを前提として、七海と武道、どちらの家へ送った方が都合が良いかを尋ねたのは、彼の家族への配慮からだった。
     怪我の程度はいつも通りだが、だから問題がないかと言えば別の話で、息子が頻繁に生傷だらけで帰ることを心配しない親はいない。
     しかし武道はそれに曖昧に首を振った。
    「今日はこのあと、イヌピー君のところにも寄る予定だったんです……」

     聞けば、依頼していたバイクの修理が今日にでも終わる連絡を受けていたという。
    「その怪我でバイクで帰るのか……?」
     少々無茶なように思えた。そしてバイクに乗るのも意外だった。

     ここで出来る手当てなんて限られているが、大雑把に体をあらためてみると頬と左脚の打撲が目立つ。武道は特に脛の痛みを強く訴えた。靴のまま爪先を脛の方へ軽く押せば、それだけで表情が苦悶に歪む。チェンジペダルの操作はとても無理そうだ。
    「武道君、一度俺の家に────」
     そう提案しようとした矢先、武道の携帯が鳴った。

    「イヌピー君だ」





     男の働くバイク屋の距離は知らないが、随分早い到着に思えた。
     電話で事情を説明した武道に、その男が迎えに来るということで話は纏まったらしいが……

    ────また随分と派手な容姿の男だった。

     バイク屋というイメージだけで勝手に男むさい奴を想像していたが、実際はその真逆に近い。
     夜桜と満月を乱反射煌めく逆光のなか背負い、春風に金糸を靡かせるその男はフォトジェニックな背景にも負けていない。意味ありげな顔の痣すら美貌を損なうには至らず、むしろミステリアスさに拍車をかけていた。
     触れたら凍てつきそうな二つの青磁色を一瞬こちらに向けるも、すぐに興味を失ったようにして逸らされる。

     対して武道を捕らえるその熱は何だろう。

     表情こそ変わらないものの、その内に宿る熱い迸りが虹彩をゆらゆらと陽炎のように揺らしては、愛惜の念が滲み出ていた。
     庇護欲、恋慕、忠誠心、そのどれにも当て嵌まる灼熱とこちらに投げかける研ぎ澄まされた氷。

     相反する二つの感情を両眼に携えた男はタンデムシートに恭しく武道を乗せると、その腕を丁重に自分の腰に巻き付け、振り返ることなく排気に薄紅の花弁を吹き上げた。





     病院の手術部門では、周術期を管理するシステムが導入されていることが多い。
     小さなクリニックなどでは未だ麻酔記録を手書きし会計に電卓を叩く施設も少なくないが、HISヒスといった外部システムとのネットワーク連携の利便性が追い風となり、大きな病院では大抵取り入れられている。

     術前の入院から始まり、術中、術後の回復に至るまでの全期間を管理するそんなソフトウェアの開発とユーザーサポートを七海は主な業務としており、近々弊社システムを導入している病院に対し大規模なテコ入れ作業が控えているのだが、これがまた難儀であった。

     通常の業務の範囲であれば仮想サーバーで十分事足りるのだが、今回はその範囲を逸脱している。
     現地の病院で実際に稼働しているDBサーバーのマシン名、もしくはIPアドレスが必要になり、その両方を取得するため百以上ある該当病院をリモートで片っ端から繋がなければならなかった。中には情報部に事前申請をしなければならない病院も少なくなく、骨の折れる作業だったがそれは事前準備のほんの一部にすぎない。

    「ここの病院への接続端末名、載っていませんね」
    「あぁ、記載されてないだけだよ」
     会議室からオフィスに戻れば、隣の席の高橋から声をかけられる。どのリモート端末でも問題ない旨伝えた。リモート接続を管理する資料の穴を高橋は指摘したのだ。
    「結構抜けが目立ちますね」
    「編集できる権限を持ってる人間が限られているからね」
     どの部署でも必要になる共通資料はサーバーに上がっているが、物によっては編集制限がかかっているため、七海はそういったものの不足情報はローカルで管理した。
    「七海さんは今日は仕事の後、デートでしたっけ」
    「友人と映画に行くだけだよ」
    「すなわちデートですね」
     それに目を細めて返事とする。
     
     デスクワークですっかりなまってしまった身体を、座る前に一度ぐっと反らす。そして両腕を前に強く押し出せば、じわじわと血が巡っていくのを筋肉の間で感じた。
     その清涼感に後押しされるように首も回せば、全面ガラス張りで見晴らしの良いその先で青い空が覗く。麗らかな陽光が降り注ぐ、清々しい天気だった。

     仕事は嫌いではない。ロジカルな性格はこの職業にも向いていた。それでも知らず溜まった疲労と運動不足に、心身がスッキリとしない日が続くことも確かにあった。けれど。

     目の前のはめ殺しは開けることが叶わない。それでも外を吹き抜ける緑したたる皐月の風は煌めくようで、街路樹を柔らかに揺らし、どこかの田圃たんぼの幼苗を祝福に揺らし、そしてどうしてだか七海にもその恩恵の一端を授けるようだった。





     武道の怪我が回復するのを待った日取りで、改めて映画を観た帰り、二人はコーヒーショップへと寄った。

    『こないだのお詫びに今日の映画はオレが奢ります!』と意気込む武道に既に買っておいたチケットを渡し、途中で立ち寄ったこのカフェでは『ここのコーヒー代はオレが持ちます!』と息巻く彼に席を確保しておくよう頼み、二人分のカップを手にして戻った。

    「高校生に奢られるのは趣味じゃない」
    「スマートすぎて逆に嫉妬もしないですね……」
    「俺に惚れるなよ?」
    「それはないですね〜」
    「下の名前で呼んでくれるのは構わないよ」
    「それもないっスわ〜」

     しぶといのと元気なことが取り柄です! と常日頃から言っているそれらが要因かは知らないが、武道の回復は早かった。口元の痣は青から薄い黄に色を変え、完全に消えるのもじきだろう。

     そんな口を忙しなく動かしながら語る彼の映画の解釈は面白かった。
     直情的に勧善懲悪に喜ぶ一方、ヒールの表には出ないやむにやまれぬ情状を想像しては、その気持ちに寄り添う姿勢を見せた。
    「情緒が忙しいね」
     何となく、悪のボスに対する同情心の方が強いように思われた。

     そして話題は自然とこないだの件に移る。
    「あの彼が例の元彼かい?」
    「イっ! イヌピー君は違います!!」
     そう真っ赤になって反論し、今更処女でもあるまいに何故か武道はウブな反応を見せた。冗舌だった口をつぐみ、大して減っていない季節限定のフラペチーノを誤魔化すように飲み始める。

     その様子に、変な話だがようやく武道が年相応に見えた気がした。
     不思議と気が合う彼は何だかその歳より成熟した面を持っているようで、高校生を相手にしている割に会話は楽しかったし気楽だったのだが、それはそれでまぁいいとして、

    ────元彼ではないイヌピーという美麗な男に、どうやら過剰反応を示す何かがあるようだった。



    「今更ですけど、大丈夫ですか?」
     気まずい話題を誤魔化すように「それ」と武道が視線で指してくるのは、七海の手にするプラスチック。自分ではまずオーダーしないであろうそれだった。

     まだ店に入る前のことだ。
     武道は道すがらフラペチーノが好きだと語った。七海があまり頼まない種類だと知った彼は、甘すぎないものを教えてくれたのだ。

     それがこのアフォガードで、エスプレッソの芳醇な香りと甘すぎないほろ苦さは、確かにこうしてちょっと休憩する時にはちょうどよかった。
     この微細な氷を最後に口にした日も覚えていないが、食感だけは懐かしく思い「教えてもらってよかった」と、気に入ったことを感謝の言葉と共に伝える。
     そうすれば武道が腑に落ちないという顔でストローを歯で遊び始めた。
    「……七海さんて絶対に面倒なタイプなのに、案外怒りっぽくないんですよね」
    「今の流れで怒る要素はなかっただろ?」
    「今と言うか、普段から割と思ってたことなんですけど」
    「ん……? つまり俺は、普段からそういう目で見られていたってことかい? こいつ怒りやすそうなクセに中々怒んねぇなって?」
     なんか、少しショックである。
    「それも違うか……気難しい? いや、気まぐれ……気まま……着の身着のまま……」
     後半は最早頭文字しか合っていないが、しっくりくる言葉を彼は顰めた眉にまだ手探りしている。
     それを手伝うわけでもないが、七海が口を開いたのと武道が散らかった言葉の引き出しから探し当てたのは同時だった。

    「「気分屋」」

     武道はスッキリした顔で、七海は複雑な心境に苦笑いを浮かべる。
     内心はともかく、対外的な礼は弁えているつもりで、そこまで勝手気ままに生きてもいない。自由に見せかけてこれで案外苦労しているのだが、どうも少年の目にはそうは映らないようだ。

     しかし、それは敢えてそう見せていることでもある。

     心労が絶えない人間と思われるより余程いい。
     仕事でもプライベートでも、大変な時こそ努めて冷静になるよう己を律してきたつもりだった。
     確かに色んなことに興味を引かれ、現在片想いしている少年についても好きになったのは掘り下げればそれが一因なのだが、相手の意向を無視はしない。
     身勝手な恋なりの、自分で決めたルールだった。

     そしてそんな自分が『相手の話は、基本的にまず一度受け入れる』を信条としていると知ったら武道はどんな顔をするだろうか。
     気になったので、何故か再び釈然としない顔に戻っている彼にそのまま伝えた。

    「でもそれって、全部を相手の言う通りにしてたらしんどくないっスか?」

     こんな歳上の男を相手にしても、武道は出会った当初から気後れすることは一度もなかった。
     物怖じするふうもなく、必要以上に相手の顔色を窺うこともしない。オブラートの厚さを使い分け、気持ちを偽ることなく表現する術に長けたその少年は、少しだけ思い違いをしていた。
    「それはちょっと認識が違うかな」
     人を不快にさせない線引きを心得て、相手の警戒心の皮を剥ぐのが上手い高校生の誤解を解くべく、二つ瞬きをした時だった。

     ジャケットの内側で震える携帯に、このタイミングで表示された発信者の名前に思わず端末を握り締めたまま動きが止まる。



    ────翔からだった。



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