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    さんじゅうよん

    @kbuc34

    二次創作の壁打ち。絵と文。

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    さんじゅうよん

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    五が思ってた程鈍くなかった歌に、五がまんまと誘惑される話。
    歌視点で続きを書くと思う多分。
    直接描写なしベッドインありなのでご注意。

    ##五歌

     朝。
     ガキの頃からずっと好きだった女が、腕の中で、眠っている。
    「……」
    「…………ん、んん……」
     カーテン開けっ放しだったんだな、と窓から差し込む柔らかい光も眩しがってむずがる彼女を見てぼんやり思う。閉めてやった方がいいのでは。それとも起こしてしまうべきか。どうしたものかと考えて、次から次へと選択肢が頭に浮かんでゆくもののどれも実行に移すまではいかない。ただただ、目の前の光景に釘付けだった。
     シンプルだが案外寝具は可愛らしく揃えてあった。パステル系の甘い色合いに、黒い髪がさらりと絹糸のように広がっている。朝日を弾いて艶めく様が目の眩むほど綺麗だった。そんな、嫋やかな髪を纏うようにして、女が白い肌を晒したまま呻いている。
     歌姫だ。
     間違いない。僕が焦がれて止まなかった、唯一。
     あまりにも都合の良い景色に夢か幻かと疑ったのだが、僕の腕を枕にする温もりが、これが現実だと訴えかけている。
     苦しげに眉を顰めている仕草ですら可愛らしくて頭がどうにかなりそうだった。きゅ、と不機嫌そうに尖った唇はほんのりと赤く、どことなく腫れぼったい。昨夜、散々に吸い付いたのを思い出す。ふっくらと柔らかなその口唇だけではない。首筋、鎖骨、胸元、脇や腕、足も。口には出せないような場所にまで、しつこく唇を押し当てて痕をつけた。
     白地を飾る黒と赤の対比は、この上なく刺激的で蠱惑的だ。食い付きたくて堪らない。
     しかし一方で、無防備な寝顔が愛おしい。寝かせておいてやりたい。僕の腕の中で、すっかり気を抜いている、というのがとてもいい。起こしたくない。
     動機は不純一直線ながら正反対の要望の板挟みに遭い、僕は指一本動かせずに固まった。取り敢えず、今のこの、奇跡的な状況は目にしっかり焼き付けておかねばなるまい。食い入るように見詰め、瞬きをやめた。
     呼吸も忘れて見入っていたところ、結局爽やかな太陽光の攻撃に敵わなかったらしい彼女が睫毛を揺らし、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
    「ん……あれ、ごじょ……?」
    「おはよ」
    「おはよう……早いわね……」
     眠そうにふわりと欠伸をして、歌姫は、当たり前のように僕に擦り寄ってくる。
     甘えた猫のような仕草に唖然とした。待ってくれ。これはちょっとばかり供給過多が過ぎる。塩どころかハバネロを塗したような辛口への対応経験しかないのだが。夢にまで見た瞬間だが、突発的な過剰摂取は急性中毒を引き起こしかねない。精神衛生上宜しくない。
     しかし、だからといって、拒むなんてこともあり得ない。
     欲に忠実な体は自然と彼女を抱き締めた。そして、躊躇いなく、黒い旋毛に鼻先を擦り寄せる。
     しとりとした汗の匂いが甘かった。
     体の芯が、かっと熱くなる。
    「んっ……ちょっと。くるし」
    「ごめん」
    「…………もう。先に起きたんなら、起こしなさいよ。馬鹿」
     最早、聞き慣れた悪態ですら、優しい。
     何のつもりか、華奢な腕が背中に回って、あやすように撫でてくる。
    「まだ寝る?」
    「寝ない。……けど、起きたくない……」
    「どっちなのよ……まあ、いいけど」
     自分が眠たかったらしい歌姫は僕を抱き締めたままさっさと二度寝してしまって、僕はというと柔らかい感触に色んな意味でかちんこちんとなりながらも、彼女がもう一度目を覚まして風呂に入りたいと言い出すまで、そのままずっと深く抱き込んでいた。



     さて。まずは、記憶のおさらいをしようと思う。
     京都に出張だったので、仕事終わりに歌姫を飯に誘った。誘うというか、自分で言うのもなんだがあれはほぼ拐かしたようなものだった。授業が終わり、終礼の鐘が鳴るのと同時に学生たちの前で引っ捕まえて連れ去ってのである。
     当然、歌姫は怒った。
     が、高い酒を奢ってやるというとひとまず溜飲も下がったようで、暴れるのをやめ大人しくついてきた。現金な女である。あれだけ怒っていたのに大好きな酒が飲めるとあって、怒るに怒れなくなったらしい。まあ、手放しに喜ぶことも出来ないあたり不器用だが。そんなところが可笑しくて、可愛い。
     せっかく京都まで来たというのに歌姫を鑑賞していかないなんて、僕の中ではナンセンスだ。昔は会おうと思えばいつでも会いにいけたけれども今となってはそうもいかないし。最初こそぶうぶうと文句を垂れていたものの、アルコールが入って次第に陽気にかつ面倒臭くなっていく酒乱をにやにや眺めて夕食のおかずにした。
     そう。そこまでは、いつも通り。
     問題はここからである。
    「………………そういや、あんたまた彼女できたの?」
    「は」
    「あのねえ、どうでもいいけど、私につっかかってくるのやめさせなさいよ。めちゃくちゃ迷惑なんだけど」
    「いやんなもんいねえし」
     そもそも、また、ってなんだ。僕が好きなの、お前なんですけど。
     十年しつこく想い続けているのに振り向いてくれるどころか気付きもしないで、挙げ句の果てに他に女がいると思い込むなんて幾らなんでも酷過ぎやしないか。
     ……まあ、多少、遊んではいたが。しかし特定の相手など一度も作ってはいない。
     僕は顔を顰めた。
     不愉快過ぎて鼻の頭に皺を寄せる。
     すると歌姫は、赤らんだ顔できょとんとした。
    「え? 違うの? じゃあ何なのよあの女」
    「知らねえよ。マジで誰?」
    「…………あんたんとこの、分家の女よ。この間こっちの高専に来て、態々呼び出して人のこと散々扱き下ろしてから帰ってったんだけど」
    「ふーんへえーそおー」
     興味のないふりでスプーンを噛む。がち、と口の中で金属と骨がぶつかる嫌な音がくぐもる。心当たりはないものの、分家の女、というだけでも大体のところ察しはつく。まったく、どこの誰だか知らないが、僕に黙って随分な勝手をしてくれたものだ。お灸を据えなきゃ。根も歯もない噂を吹聴する程度ならまだしも、歌姫相手に直接噛み付くとは許し難い。
     お仕置きの内容は追々考えるとして、僕は頬杖を突き、向かいで酒をかっ喰らう歌姫を見詰める。珍しく僕の否認をあっさり飲み込んだ彼女は、先程よりもいくらか明るい表情で、ご機嫌に酒を嗜んでいた。何だろう。いつもより、少しペースも早い。大丈夫かな。
     酒は好きでも強くはない歌姫は、僕の懸念通り、しばらく経たないうちに酔い潰れた。卓の上に伏せてすやすや寝入って起きやしない。
     仕方がないので、会計を済ませたあと、歌姫を送っていくことにしたのだ。住所が辛うじて復唱できる程度のへべれげの女を、タクシーに乗せてはいさよなら、はあまりにも不安だったのでマンションの部屋まで連れて行った。
    「歌姫、着いたよ」
    「ん……」
    「ほら、鍵出して。開けて」
    「ん…………ぅ」
    「……もう。仕方ないな……」
     バッグを漁って鍵を取り出すと、ドアを開き、ぐでんぐでんの歌姫をそっと玄関先に下ろす。
     そして、ぽやっとして、目が開いているだけで碌に頭が回っていない様子の歌姫の顔を覗き込み、声をかけた。
    「歌姫、僕帰るよ。家着いたし、一人で平気?」
    「……かえ、る?」
    「そ。もう帰──────、!」
    「っ……だめ」
     いかないで。
     全身をほんのり赤く熱らせて、僕の苦手なアルコールの匂いを漂わせて、歌姫が僕を押し倒したのだ。



     酔っ払いが相手だと、油断していたのは、ある。
     玄関を照らす小さなLEDの灯りを真正面に眺めていると、それを遮るように歌姫が僕の上に跨った。
    「帰らないでよ。五条」
    「…………それ、イミ、解って言ってんの?」
     送り狼になるつもりはなかった。それでも、こんなふうに、乱暴に引き留められて、欲を出さない程に僕は紳士なんかじゃない。そうなれば、そんなつもりじゃなかったなんて、酔いを言い訳にもさせてやらない。
     なんて女だ。
     僕の気も、知らないで。
     けれども今ならまだ許してやれるから、考え直せというつもりでそう言ったのに、歌姫ときたら不満そうに顔を歪めてこう言うのだ。
    「なによ、嫌なの? 私のこと、好きなくせに」
    「……………………………………。は?」
    「ばぁか、バレてないとでもおもってた? ちゃんと、知ってるんだから。今回だって、それで、思い上がんなって、あんたの親戚の馬鹿女に散々罵倒されたし。いい迷惑よほんと」
    「…………」
    「……ねえ。今、誰とも付き合ってないんでしょ。だったら、いい加減、私に決めなさいよ」
     怯えたように震える声と拳とで、胸倉を掴み上げる仕草が、まるで縋るようだと錯覚した。
     僕は、目を瞠いたまま、動けなくなる。
     十年越しの片思いが、よりによって、散々鈍感だと罵り続けてきた本人に筒抜けになっていたという事実もそうだが、何より、それを分かった上で、懸命に僕を誘惑しようとしている歌姫が目の前にいることが信じられない。
     おずおずと、手を、伸ばした。
     真っ赤な頬を両手に包む。
     歌姫は逃げずに僕の手の中に収まって、それどころか僕の手に自分の手を重ねて、ほっとしたように目を伏せた。
    「ん」
    「……歌姫、本気?」
    「冗談で、こんなこと、しない」
    「……」
    「ねえ、どうなのよ。私のこと、欲しくないの……?」
     今なら全部、あげるのに。
     ゆっくり瞼を持ち上げた歌姫が、潤んだ目をして、僕を睨む。
     拗ねたように口を尖らせるのが堪らなかった。思わず引き寄せて、柔らかな口唇に、噛み付く。
    「────っ、あ!」
    「馬鹿姫。後で、言い訳……すんなよっ」
    「ふ、そ、れ……わたしの、せり、ふ……! ん!」
     今しかないなら、逃すわけにはいかない。
     夢中で貪った。
     赤く熟れた口内は、つまみもそこそこに辛口の酒ばかり呷っていた所為で、食べ頃の果実のような見た目にそぐわず苦くて舌が痺れるようだった。しかし、それでも、止まれなかった。
     欲しがれば欲しがっただけ与えられた。僕が触れるたびに、蕩けた笑みで、甘く咽ぶ歌姫が、続きを強請って名前を呼んでくれる。この瞬間の喜びに、どれほど焦がれてきたことか。手に入るとも、手に入れようとも考えたことはなくて、なのにそれが、今目の前にある。あまが真っ白になっていた。訳もわからず、ただ一心に、欲をぶつけた。
     すき、と告げると、照れたようにはにかんでくれるのが、泣きたいくらい嬉しくて。
    「歌姫。すき」
    「あ、あ、あっ────!!」
     ……。
     つまりだ。
    「つまり、酔った勢い……ッてえ!」
    「失礼ねほんとあんたって奴はッ…………仕方ないでしょ! あんたに告るとかトチ狂ったこと、相当助走つけないと無理だったのよ! 酒で勢いつけて悪いか!!」
     失礼なのは一体どっちだろう。僕の頭を叩き、自棄を起こして叫ぶ歌姫は、顔を真っ赤にしている。
     僕は、ちょっと唖然とした。
    「……昨日、やけにペース早いなって思ったけど、あれ助走だったわけ? 僕に告白する為に?」
    「ゔっ」
    「歌姫、僕のこと好きだったの?」
    「ッ…………そっ、そう、だけどそれが何か!?」
    「何でキレてんの」
     風呂上がり、ソファの足元で、畳んだ膝をお互い突き合わせて反省会じみた行為をしているのが途端と馬鹿馬鹿しくなった。怒っているのか恥ずかしがっているのか、膝の上で拳を握って、赤い顔でぶるぶる震えている歌姫を抱き締める。
     思った通り、歌姫は暴れた。
     無視した。
     ぎゅう、ときつく引き寄せて、崩した膝の上に抱える。
    「ちょっと五条──」
    「ねえ、いつから?」
    「っ」
    「いつ、歌姫は、僕のこと好きになったの?」
    「…………。知らない、今でもあんたのこと、普通に嫌いだし」
    「おい」
    「けど、だって、性格悪くてもお調子者でも、自分の役割の為に、あんたは笑って命懸けられるでしょ。……格好いいじゃない。腹立つけど。そんなの、惚れるなって言う方が無理じゃないの」
    「……」
     何だろう。一つ誉める前にまずは貶さなきゃならないローカルルールでもあるんだろうか。
     僕は、ふう、と溜息を吐いた。
    「天邪鬼だなあ……」
    「わ……笑ってんじゃないわよ!?」
    「いやいや、無理でしょ。嬉しいもん。好きな子が、僕のこと好きだって、一生懸命説明してたらこうなるって」
    「……ッ!」
    「あーでも、ちゃんと告白して欲しいなあ。こういうの、最初が肝心でしょ?」
     こうなったからにはどう転ぼうと絶対逃す気はないのだが、言質は取っておくに限る。
     お願い、と迫る僕に歌姫は暫く抵抗していたものの、最後には根負けしたように、物凄く小さな声で「すき」と耳元で囁いてくれた。
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