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    さんじゅうよん

    @kbuc34

    二次創作の壁打ち。絵と文。

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    POIPOI 108

    さんじゅうよん

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    突然五そっくりの子供が訪ねてきて疑問に思いつつも一晩泊めてあげる歌の話

    ##五歌

     深夜。
     任務を終え、部屋に戻ると、何故だか玄関前に見知らぬ子供が待ち構えていた。
    「……」
    「あんた、庵歌姫?」
    「…………そっちこそ、誰よ」
     なんだこの、クソ生意気なガキンチョは。
     思わず顔を顰めるも、こんな夜更けに、知り合いでもない小さな子供が部屋の前で待っているなど只事ではない。明らかに訳ありである。
     しかもこの子供、フードを目深にかぶって隠してはいるもののちらりと覗く毛先は純白で、私を睨む目は淡く透き通った空色をしていた。
     ────どこからどう見ても、あの馬鹿、そっくり。
    「っ」
    「取り敢えず、中、入んなさい。寒いでしょ」
    「……」
     小さな胸を反らして踏ん反り返る子供にお構いなしでがちゃりとドアを開き、真っ暗な玄関の中を顎で指せば、奴はむっとしたように口を尖らせながらも無言で敷居を踏み越えた。



     子供は名乗らなかった。
     が、「五条」と氏だけは中途半端に口に出したので、やはりあの馬鹿の縁者なのだと思う。
     のだが。
    「……」
    「…………繋がらないわね」
     三度目のコール、長い呼び出し音の後に「おかけになった電話番号は」とお決まりの文句を聞かされて、舌打ちをしながら途中で通話を終えた。
     留守電にもならないなんて、もしかして、何かあったのだろうか。
     仕方がないのでメールに切り替えて、端的に用件を打ち込み送信した私は、だんまりを決め込む子供の方を振り返った。
     奴は、私が出したホットミルクをちびちびと啜っている。
    「……それ飲んだら、歯磨いて寝なさい。もう遅いし、今日は泊めてあげる」
    「……」
    「その代わり、明日起きたらすぐ、親御さんに連絡するのよ。いい?」
     きっと心配してるわよと、そう言うと、子供は不愉快そうにそっぽを向いて「別に平気だし」と不貞腐れた。
    「俺、強いから。ガキ扱いやめろよ、オバサン」
    「おば……っ。…………」
     初対面の目上相手に躾がなっていないあたりもそっくりそのままである。
     ぴく、とこめかみの辺りの血管が浮いて痙攣するのがわかったが、何とか堪えた。相手は子供だ。それも、恐らく五条の親類で、まだ幼いと言うのにこんな夜中になるまで私を待っていた。何だか知らないが余程の事情があるのだろう。つまらない苛立ちで、曲がりなりにもようやく口を開いた子供の心を完全に閉ざしたくない。
     怒りを抑えようと、温かなコーヒーを口に含む。本当であればビールの一杯でも呷りたいくらいには荒んだ胸中であるが、流石に、見たところ小学生くらいだろう子供の前で酒を飲むのは気が引ける。
     口の中に広がる丁度良い苦味に少しだけ冷静さを取り戻して、深く、呼吸をした。
    「…………で。あんた、私に何の用なの」
    「……」
    「どうやって調べたんだか知らないけど、こんな時間にわざわざ家まで押し掛けて、私に会いにきたんでしょ」
     聞きたいことでもあるんじゃないの、と問い掛けると、小さな手でマグカップを握っていたその子供は、細く湯気を立てているそれをテーブルの上に置いた。
     ことり、という音は可愛らしいものの音を立てた当人は不機嫌に顔を歪めてこちらを睨んでいる。
     殺気立った気配すらしていた。
     一体何がそんなに気障りだったのか知らないが、何の変哲もないワンルームに、場違いなまでの緊張感が満ちる。
     二人、静かに睨み合った。
     先に折れたのは、子供の方である。真っ向から睨み合う私に、これまた不服そうに溜息を零して、視線を逸らした。
     そして、こう言う。
    「…………た、から」
    「は?」
    「他に、何も、覚えてなかった、から。……あんた見たら、なんか思い出すかな、って」
    「…………」
     記憶喪失、らしい。
     思ってもみない台詞に唖然とする。いや、全部、鵜呑みにするわけじゃあないのだけど。でも。
     もしもそれが本当なのだとして、こんな小さな子が、僅かな手掛かりに縋る思いでここまでやって来たのかと思うと、その事実を哀れに思った。
    「………………それで? 何か、思い出せた?」
    「何も」
    「そう」
    「……。けど」
     ぶつり、と不自然に言葉を区切った子供は、改めて私を見上げるとこう言った。
    「なあ、今日、一緒に寝ていい……?」
    「……」
     頭の中で、警鐘が鳴る。
     きゅ、と眉間に皺を寄せ、目元を赤らめ恥ずかしそうに強請る幼気な姿は見せかけかもしれない。本人が申告したようにこの子供の呪力は私を遥かに凌いでいて、見知ったあの男ほどではないにしろ、あいつと同じ術式をそれなりに使い熟しているのを確認した。さすがアレの血縁者とでも言うべきなのか、この子もまた、天才だ。決して信用すべきではない。
     信用してはならない、そう、思いはするのだけれど。
    「……いいわよ」
    「っ」
    「その前に、それ、早く飲んじゃって。そしたら、お風呂、行きましょ?」
    「ぇ………………あ。うん」
     頭を撫で、髪を梳いて微笑む私に何故だか子供がぼーっと呆けた顔を披露したその瞬間に、タイミングよく給湯機が間抜けにメロディを奏でた。



     面倒だからと一緒に風呂に入ったのだが、小さな五条は妙にかちんこちんになって背中を丸めていた。
     私のことだけ憶えていた、なんて言っていたが私の方に記憶はないし、顔見知りといえども所詮は他人の距離感だったのだろう。よく知らない大人と一緒に入浴するのではかえって気が休まらなかったのかもしれない。
     悪いことをしたな、と内心思いつつ、努めて気にしてもいなければ気付いてすらいないふりをして、石化している子供を全身石鹸塗れにするとお湯で流して湯船に浸けて、湯中りする前に風呂を出るとタオルで水気を拭き取ってやった後ドライヤーで髪を乾かした。
     生憎、子供用の服なんてない。取り敢えず私のTシャツとハーフパンツを着せると紐を絞った。だぼだぼとしているが、何も着ていないよりはましだろう。着ていた服は洗濯機に放り込んで乾燥までセットしておく。これで取り敢えず、明日の着替えには困らない。
    「電気消すわね」
    「ん」
     反抗的な態度は何処へやら、終始されるがままだった子供はこの時も神妙な顔つきで、奇妙なくらいしおらしく頷くと、電気を消してベッドに潜り込んだ私にぴったり擦り寄ってくる。
     小さくて、柔らかい、温かな体。
     妙に庇護欲を唆られて、抱き締めた。
     子供はちょっと笑ってしまうくらいにぴくりと跳ね上がったものの、すぐにもぞもぞ体を動かして私の腕の中の収まりの良い位置に潜り込んだ。
     ほ、と小さな吐息が胸元に染みる。
     私は柔らかい旋毛に鼻先を押し付けて、丸くなった背中を撫でた。
    「大丈夫よ」
    「……」
    「明日になったら、何か、思い出してるかもしれないし。そうじゃなかったら、これからどうするか、一緒に考えましょ」
    「…………あんた、さあ……」
     よしよし撫でてやっているとむくれた声が聞こえたので、「何よ」と文句を返したところ子供はちらりとこちらを見上げて呆れた顔をして見せた。
     しかしそれも一瞬のこと、すぐに私の胸の上に顔を伏せて、「なんでもない」ともごもご呟く。
    「いい。もう、ねる」
    「あっそ。おやすみ」
    「……おやすみ」
     挨拶はきちんと返す辺り、育ちが良さそうでこれがまたそこはかとなく腹立たしい。顔立ちもそうだが、表情も、仕草も、何もかもがいちいちあの男にそっくりなのだ。親戚、なんて言葉で括るにはいささか不足を感じる程に、よく似ている。
     ────やはり、隠し子、なのか。
     記憶喪失なんて嘘なのだろう。きっと、もっと明確な目的があって、私の元にやって来た。幼気な素振りでは隠し切れない鋭い爪が、喉元を覆うのが、わかる。
     それでも私は、素知らぬふりで目を閉じた。
     何も知らない子供のふりで私に縋るその手の小ささは本物だったから、私も、この夜くらいは、母親の役を演じてやろうと思ったのだ。









    「ばぁか」
     霞んだ「記憶」の中に残っているよりもずっとずっと、この女はお人好しだ。突然家まで押しかけて来た得体の知れない子供相手に、騙されているかも、と勘付きながら絆された。
     宥めるように優しく抱き締められて、風呂上がり、念入りに肌へと染み込ませていた化粧品の甘い香りにくらりとする。腹の底が滾るように熱くなって、このままでは少々具合が悪いと、後ろ髪を引かれる思いでふんわりと心地よい谷間から顔を上げ、体を起こした。
     ずるり、と今は小さな体の上を、女の細腕が滑り落ちた。
     しかし、それでも彼女は起きない。気を抜き過ぎだろ。そりゃ確かにちびだけど、俺、一応男なのに。
     少々……いや、かなり、面白くない。
    「うたひめ」
     名前を呼んでみる。
     何だかとてもしっくりくる。
     歌姫、と自分より一回りも二回りも歳上の女に向かって呼び掛けて、頬を突いた。
     すると彼女は、うっすら目を開いた。
     今度こそ起きたかと思ったが、こちらを睨むと鬱陶しそうに目を細め、閉じて、唸るように呻いて手を伸ばす。
    「む」
    「ばっか、ごじょう……ねてんの、よ、っ……じゃま、すんな、つの……」
    「……」
    「ん……」
    「…………」
     寝た。
     ぺち、むに、と顔を叩くように押した掌が、ぱたりと落ちる。
     邪険にされたにも拘らず、唇に押し当てられた温かな掌の感触に唖然とする。何だこいつ。何だよほんと。人の顔に掌底食らわせといて、馬乗りにされても、お構いなしにぐうすか寝るし。
     こっちの気も知らないで。
    「大人の俺、シュミ、わっる…………」
     何でこんなオバサンなんか、と思う一方、遠慮のない言動と髪を撫でる優しい手つきを反芻している。持て囃すでもなければ過剰に恐れるでもない。あからさまに迷惑そうにするのが、かえって気安いくらいだった。今も間抜け面晒して熟睡だし。
     こんな大人、「俺」は、知らない。
     ────ああ、わかるなあ、とその時思ってしまった。
     それにしたってこんな弱っちくて隙だらけの、大した美人でもない年増女、ありえない、とも思うのだが。
     でも。
     何だか、こう、無性に虐めたくなる。
    「……もっと、用心しろよな。大人のくせに。じゃないとあんた、すぐ、殺されちゃうよ?」
    「ん」
    「…………。ばぁか」
     やっぱこいつむかつくな、と思い新たに先程から寸分違わず安らかな女の寝顔を見下ろしつつも、やはりここに来たのは正解だったと、甘い吐息の余韻の残る唇を舐めて短く荒く息を零した。
     みし、と体の内側で、骨の軋む音がする。
     ──────西洋の御伽話と乙女的思考に準拠するのであれば、古来、呪いとは、真実の愛とキスによって解けるものだと相場が決まっている。






     朝だ。
     アラームが鳴るにはまだ早い筈だが、スマホがぶうぶうと姦しく喚き立てている。
     仕方なく腕を伸ばし、ぶるぶる震える平たい筐体を捕まえた。
    「ん、はい、庵……、ッ。もぉ、ちょっと伊地知、うるさぁい……」
     金切り声で叫ばないでよ、と眠い目を擦りながら呻くと、スピーカーの向こう側で酷く慌てた様子の後輩が泣きの入った声で平謝りしつつも早口に捲し立てる。
     私は欠伸混じりに眉を顰めた。
    「朝っぱらから何よ……は? 五条? それなら私も昨日連絡したけど、繋がんな……。…………、え? じゃなくて、子供? ……ああ、それなら今、隣で」
     寝ている。
     筈、だったのだが。
    「………………………………ぇ」
     ぽかんとして、ぱちりと瞬く。
     信じられない光景が、目の前に、あった。
     傍らで膨らむ布団を捲り上げると、さらりとした手触りの、白い髪がシーツの上に垂れるのが目に入った。ここまでは、想定通りである。問題は、私の腕の中に収まる程度の背丈だった生き物が、骨組みのしっかりした成人男性へと一晩でサイズ変更していることだ。
     もぞ、と男が身動ぎをする。
     緩慢な仕草で顔を上げ、髪をかき上げ、欠伸と共に涙を滲ませゆっくりと目を開く。
    「ふぁ……ったく、朝っぱらからうるっさいなあ……」
    「………………………………ご、じょう……?」
    「ん……おはよ歌姫……電話、誰ぇ?」
    「────き」
     きゃああああああああ、と、到底自分の物とも思えない高く細い悲鳴が喉から迸った。
     仕方ないと思う。
     だってあいつ、全裸だったんだもん。



    「不可抗力だって。そんな怒んなよ」
     寝ている間に元の大きさに戻り、首が締まって息をするにも窮屈だったので脱いだそうである。下も。諸々食い込みがきつくてとにかくそのまま着ていられなかったのだと、奴は供述する。
    「だからって、裸でそのまま人の布団に潜って寝るって、どうなのよっ……!」
    「だって寒かったし、眠かったしさ。いいじゃん、別に、どうともなかったし」
    「……」
    「あ、それとも、手ぇ出して良かった?」
     にかっと笑ってとんでもないことを言い出す。
     私は怒鳴った。
    「ッなわけあるかこの馬鹿!!」
    「わ」
    「……とにかくっ、今、伊地知が着替え持ってこっち向かってるらしいから。私もう仕事に行くけど、あんた、大人しく留守番してなさいよ」
     正直自宅にこいつ一人置いていくのは不安である。妙な悪戯を仕掛けられそうだ。が、もう時間がない。遅刻するわけにもないし、どうしようもない。
     私は五条に自宅の鍵を押し付けた。
     そしてそのままばたばたと玄関の方へ駆け込む。
    「出てく時、戸締まりしなさいよ。閉めたらそれ、ポストに入れておいて」
    「はーい」
    「妙なことすんじゃないわよっ。じゃあね!」
     今度会ったら詳しいことちゃんと説明しなさいよと小声で怒鳴ると、私はマンションを飛び出した。



     慌てて玄関を飛び出していった女の背中を笑顔で見送り、がちゃん、と扉が閉まるのを皮切りに僕は溜息をこぼした。
    「…………説明、今度でいいのかよ……」
     しかも、ぐだぐだ言う割には鍵まで預けていった。信用されてるんだが、されてないんだか。ていうかやっぱり、そもそも男として見られていない気がする。
     子供に戻っていた僕に「二十八年生きていた五条悟」としての意識はなかったが、今の僕には子供返りしてしまっていた時の記憶も僕自身のものとして地続きにばっちり残っている。
     ただの子供扱いに照れつつも大層ご不満だったようだが、安心しろよ二十年前の僕、大人になっても大差ないから。
     ああ、本当、むかつく。
    「仮にも裸で一緒のベッドに寝てたんだぞ……もっと意識しろよ……」
     知ってはいたが随分と頭のおかしな女である。最初こそ真っ赤な顔でぎゃあぎゃあ騒いで枕を僕に投げつけてきたものの、隠すものを隠してリビングに移動してからは、顔こそ熱ったままだったが「何だか知らないけど元に戻ってよかったわね」くらいの態度だった。異性、程度の認識はありそうだがいくらなんでも僕を舐め腐り過ぎではないのか。普通に勃ってたんだけど。めちゃくちゃ柔らかかったし良い匂いだしやっぱ我慢とか柄にもないことせずに襲っときゃよかった。少なくとも、寝ぼけたふりでキスくらいはかましてやるべきだったのだ。
     そうしたら、いくらあの鈍感女でも、身の危険を理解しただろうに。
    「くそ……覚えてろよ馬鹿姫……」
     お陰で雑魚が去り際に呟く定番の台詞を吐く破目になった。最悪だ。屈辱である。僕、最強なのに。
     この借りはいつか必ず、倍、いや百倍にも千倍にもして返してやる。
     決意も新たに拳を握ったその後で、僕は、情報収集も兼ねて、こんな機会でもなければ滅多にお目にかかれない歌姫の自宅を隈なく探検することにした。
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