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    ラク🚔🚬

    スダだったりダスだったり、ともあれツインズ推し

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    ラク🚔🚬

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    ダス。コメディタッチのスパイ映画っぽく
    スの生い立ち捏造しまくり。

    「伯爵令嬢」 すでにロックを壊されていた屋上のドアを蹴破り開け、ここぞというときのお気に入りのリボルバーをダニエルは構えた。
     そこに見たのは予想通りの、期待外れの人影だった。
    「――どんなセクシーなボンドガールが待ってるのかと、いろいろと盛り上がってたんだぜ。それなのにどうしてくれる」
    「勝手に期待して膨らましてたんでしょ」
    「うるせぇ、《伯爵令嬢》なんてコードネーム付けやがって」
    「僕だって好きで名乗ってたわけじゃありませんよ」
     屋上の縁に片足を掛け、飄々と笑ってみせるボンドガールならぬボンド張りのセクシーな男の言い草に唾棄してダニエルはハンマーを起こした。
     しかし男は両手を上げることなく、反対に脚を下ろして一歩ダニエルへと近付く。相手が決してトリガーを引かないことを知っていたから。
    「動くな」
    「ねぇ、警部補。少しお話しませんか」
    「自白なら聞く」
    「似たようなものです」


     僕の父はね、本当に伯爵なんですよ。今となっては名ばかりですけど。それでもそれなりに古い家系で、血凍道を継承し続けてきた。
    「それを絶やさないためにも男子の誕生は責務なわけですが、幸い母は一子二子と続けて男児を儲けて我が家は安泰となりました」
     そして第三子を身籠ったとき、母は女児を望んだんです。男は技の習得のため幼いうちに家を出てしまう。女なら嫁ぐその日まで長く共に過ごせると。
     しかし生まれたのはまた男。そう、僕です。
    「一時は落胆した母でしたがこの子を女として育てようと考えたのです。男の血ならもう二人分差し出していましたから周囲も黙認しました」
     幼い僕は長く伸ばした髪を綺麗に結い上げられ、殊更に可愛い服を着せられて。憚ることのない母のお人形でした。
    「でもあるとき僕は当然のように自分が男であることを自覚した。そして激しく母に反発して兄たちと同じように、いやそれ以上に血凍道を極めんと邁進したんです」
     ですが時すでに遅し。“男”として存在を認められていなかった僕は、どれだけ才を示そうと担い手としての資格は得られなかった。
    「唯一許された道は、飽くまで“女”として補佐に徹すること」
     要は裏方です。兄たちの任務が滞りなく仔細なく完璧に遂行されるよう、僕は必要な情報を入手し障害となるものを排除する。
    「その役目を果たすのに、皮肉にも母による“淑女としての嗜み”の教えが役立ちました」
     ターゲットとなる男たちに近づくため、どのように振る舞えば目を引くか、どのように接すれば気を許すか、僕はその手管を知っていました。


    「そうしていつしか《伯爵令嬢》などと呼ばれるようになったわけです」
     自分の半生を語る相手にダニエルは照準を合わせ、怒りと失意とで震える指をトリガーにかけた。
    「スターフェイズ!!」
     ダニエルはもはや全身を震わせ力の限り叫ぶ。今夜ダニエル率いるHLPDは完全にしてやられた。見当違いの現場に導かれ、もぬけの殻のこのビルに突入したのだ。
     輸出禁止物質の取引日時と場所を報せたのは“伯爵令嬢”と名乗る謎の“女”だった。眉唾物のそんな情報をダニエルがそれでも信じたのは、その信憑性をスティーブンが保証したからだ。
     しかしそれは自作自演の三文芝居に過ぎなかった。ダニエルは見抜けなかったことを、いつのまにかその言葉を信用するようになっていた自分に腹を立てた。これまでの二人の関係もまたそのお膳立てに過ぎなかったのだとしたら。
    「スティーブン……」
     あの甘やかな囁きも穏やかなぬくもりも嘘だったとおまえは言うのか。確かにあった二人の日々を思い返し、ダニエルはついには銃を下ろし力なく項垂れた。
     スティーブンはそんなダニエルの姿を目に収めると一歩後ろへと足を引いた。
    「でもそんな《伯爵令嬢》とも今宵を限りにお別れです」
     さよなら、ロウ警部補。
    「なに――、やめろ!!」
     顔を上げたダニエルの視界にビルの縁を蹴って中空へと身を投げるスティーブンが映った。
    「スティーブン!!」
     駆けつけて覗き込んだそこにダニエルが見たのは、ただ漆黒の闇ばかりだった。


    数日後。


    「――――てめぇ、なんで居るんだ」
    「ちょっと、呼びつけておいてそれはないんじゃない?」
     BBと思しき異型の出現に仕方なくダニエルはライブラに応援を要請した。新たな窓口としてレオナルドに連絡を取り招集をかけたのだった。
     が。
    「だって、おまえ、あのとき、」
    「もしかして死んだとでも思った?」
    「思うか! ただ、その、」
     そう、ビルの屋上から飛び降りるくらいで“こいつら”が死ぬなどとはダニエルも思ってはいなかった。ただ、永訣のような言葉を残し去っていったのだ。もう二度と自分の前に現れることはないのだと覚悟していたのだった。
     驚きと、怒ればいいのか喜べばいいのか決めかねてしどろもどろと赤面するばかりのダニエルにスティーブンは手を差し出した。
    「お別れは《彼女》としてです、あれが最後の任務だったんです。あれでやっと家との縁が切れました。これからはライブラの副官一本でやっていける」
     目の前で握り返されるのを待つスティーブンの手をダニエルはじっと見つめた。今の言葉を信じていいのか。俺はまた騙されるだけではないのか。
     固く拳を握りしめたままのダニエルに、それでもスティーブンは手を引くことなく静かに呼びかけた。
    「警部補……、ダニエル。許してくれとは言わない、ただやり直させてくれないか」
    「やり直す?」
    「うん。もう一度、僕に口説かれてほしい。その先は君に任せる」
    「ずいぶんと健気じゃねぇか」
    「自信があるからね」
     と、スティーブンは自らの大言壮語に笑う。しかし確かに自信はあるのだった。
     ダニエルとの日々で偽りを口にしたのは《彼女》の言葉を裏付けたあのときだけだ。それ以外の時間は偽りなくスティーブンとして語り接してきた、ダニエルの心を動かしたのは飽くまで自分自身の心なのだ。
     穏やかな微笑みで返事を待ち続けるスティーブンの手を、ダニエルはしかし力強く平手で叩き返した。
    「人の純情もてあそびやがって! 一生かけて償いやがれ!」
    「――うん!」
    「話は後だ、とっととアイツを片付けろ!」
     スティーブンはダニエルの頬へ掠めるようにキスをして、すでに始まっていた戦闘へと駆け出していった。


    (オワリ!)
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