半宵 兄弟二人が入ると満員の、まあるい琺瑯製浴槽の岸辺には、満ち潮が寄せている。もう間もなく冬至の日の半宵の刻を迎えるという頃合いの水面には、雲間の星の如く、大小さまざまな形の柚子が囁くような香りを浮かべている。
【半宵】
雪の綿布団が、繰り返す夏の陽射しで灼けた煉瓦に早々と積もる様になる季節を迎えた。
少し前の、蜜柑の香りが昂る高い空をとうに忘れ、降り始めた雪の下に、寒さを溜め込む。そんな底冷えのこの村での冬は、等しく厳めしい態度で各戸に身を隠す人間を探して回っている――一挙に冷えが進む、この時期を苦手とする彼も含めて。
百之助は目頭に張り付いた相変わらず長い睫毛と、一日の内に積もった小さなカスを除くように目元を湯で流した。仕事の妨げにならぬ様、神経質に整えられた丸い爪が、ゆるゆると頬を撫で降り、両の顎にかけて薄い影が描いた縫合痕――にも、留まりも、沁み込むでもない湯を含ませた。
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