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    sabacanz

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    sabacanz

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    12/11新刊の昭和の食堂パロ【端境につがう】より、Twitter用サンプルです。
    兄弟は舟i屋を改造した店舗兼住宅に住み始めた後、段々ひとに囲まれる様になってきました。
    その中で、客人を世話していたのですが……

    端境につがう【双手の揺籃-一九四九-前編】抜粋サンプル 一緒に夕食を取った二人が離れへと休みに下がった頃、明日の朝餉の支度を手短に済ませながら、百之助がぽろりと呟いた。

    「しかし勇作さん、短い間に此処はホントに賑やかになりましたな……あんたツバメだったんですかい。みぃーんな、お仲間引き連れて、ねえ?ったく、巣に籠る暇もありもせんな…」
    「えっ、あ、申し訳ございません、そんなつもりじゃないんですが……‥‥」
    「…ほお……じゃあ、確かめてみねえといけませんなあ‥…」
     調理器具をもとの位置に戻して、前掛けで手を拭く。一日使い倒してきて、すっかりくたくたになっている布地は、五分ほどしか水気を拭えない――限界だ。
    まだ水気を含んだ指先がぎゅう、と勇作のシャツを握る。その指から先―掌から、唇迄をじわり沁み込ませてしまう様に、開襟の胸部分に口付けた。すう、と息を吸い込むと、、勇作の過ごしてきた一日が、百之助の知らない分まで肺一杯に広がった。
    「っん、兄様……」
    「―――明日は、店が休みなのですよ。攫ってはくださらんのですか。」
     厚い胸板に吸い付いて、ぽつ、ぽつ、と火を点ける。狐火の如く、ごく微かで、近寄らぬとさやかには見えない程度のものだ。
    「……ッ……!で、では、攫わせて頂きます。さあ、どうぞ。」
    腰を落とし、兄の前に背中を向ける。
    「……はは。邪魔するぜ、と。」
    遠慮ひとつせず、そそくさと弟の背中におぶさる。

    (あったけえな)

     温かくて広い。この背には、俺の知り得ないたくさんのものを背負っているのだろう。それでもなお、俺をも共に負ってくれる。
    ――きっと混じりっけない本物だから、だな。こいつがやり過ぎるほどの愛とやらをやってのけられるのは。自分にはない、広い背中も、温かい胸も、触れると心地よい。されば、ついこうして誰にも見えないようにすっかり覆って隠しておきたくなってしまう。

     百之助には、年長者に『甘えた』記憶などない。自分よりも大きくて、本来幼い自分を保護してくれる立場の『誰か』は、常に現実を生きていくための教えを乞うべき相手であった。同時に、教えを受ける中で、自らの幼い手を目いっぱい差し出してやっと何かが与えられる絶対的な存在でもあった。
     彼らは――母は。幼かった自分を背にただ目の前の生業に向かって進んでいく。顔が向いた側には上客の立場を越えた父もいたのだろうが、それでも母は身体を張って客らと渡り合っていくのだから、格好もよかった。
    であるが故に、その背におぶさる選択肢は自ずと最初からなかった。――甘えなど、邪魔になるから。俺に見せていた通り、同情などない厳しい世界をただ前進していくその背を無心で追う営みの中で、ただ自分なりに出来ることをして過ごしてきたように思う。
     だからこそ、こうして現実の糧を物理的に生ずる関係―というよりも、ただ生きているだけの自分へとまっすぐ差し出される不思議な手に、負ってやる、抱きしめてやると立ち止まって出迎えてくれる背と胸に、離れがたい愛着を感じるのだ。
     そうしてひとたび掴むと、目一杯この陽射しの温かさを吸い込んでみたくなる。今この瞬間もまさしくそうで、この場で何処かに囲って封じ込めて――独り占めしたくなってしまった。
     おぶさるだけでは飽き足らない、なんて。所詮、誰かと一つ屋根の下に共に暮らしていたとしても、他者でしかない。幼い時分から、此の世の理としてよくよく身に沁み込ませてきた筈である。にもかかわらず、浮ついていたとしても『唯一』とひとたび言われてしまったら、こんな欲が出てくるものなのか。

     ―思っていた以上に、深く絆されてしまっている。
    目を瞑ったまま、小さな小石の礫ほどの笑みをこぼした。
     二人分の体重を一気に受けた階段が、ぎいぎい鳴った。
    やがて勇作の視線が二階にひょっこり出る付近で、先程迄なかったものを見つけた。
    「兄様……蚊帳を出してくださっていたのですか。」
    「なに……知らん間にどっかで食われたらあきしまへん、からな。ははっ。」
     海沿いのこの村近辺でも、此処数日で一気に日差しが強まり、いよいよ初夏の足音が聞こえてきた。すると途端に表の細道の脇に在る溝から蚊が登場してきてしまったのだ。
     なので早々に…ということもあるが、それ以上に、二人分の昂りをひっそり収め置く場を求めたくなった。
    「…なんです、もう。冗談なんか仰って。よいしょ……」
     勇作はゆったりと膝をついて、薄く透ける蚊帳の中に兄を隠すように下した。刹那、兄の右手の指が、太い首筋をすうっとなぞらえる。離すまい、とでも言いたそうに、そのまま肩に置いていた左手を勇作の喉元へと遣る。即座に紅い舌で狙いを定め、うなじを甘噛みした。
    「っ……」
     うなじの皮膚が兄の薄い唇に吸い込まれた感覚の後、ぴりりと微かな電気が走る。どうやら、痕が付いたようであった。それも、この箇所に。
    自分の背に居るのは、いつも合理的で必要な事を黙々とこなしていく兄なのだ。無心で何度も何度も働きかけて、漸く奥ゆかしいひとかけらだけを返してくる。その彼が、背中越しに、自ら鮮明な感情を向けた。
    勇作が痕を刻むときは、躊躇いながら、迷いながら――まっすぐ、唯一の兄を見失わない様に漸くひとつ落とす。その気持ちが一思いに返ってきた。半ば夢か現か信じられず、すぐに確かめたくて後ろを向いた。
    「……兄様……」
     兄の背後には、小さなランプと、営みの為の道具。蚊帳の隅に綺麗に並んで揃っているのが目に入った。
    「……!」
    どくん、どくん。蚊帳の薄い帳の中で、昂る鼓動が響く。
     ―こんなふうに、不意打ちで。古屋の隅の、忘れられた小さな宝箱のような此処に手招かれて。きっと今、私は情けのない顔をしているに違いない――なんとかして、我が手に最愛の貴方を捕まえてしまいたい。
    みずからの頬を両の手でぱしぱしっと叩いて、気持ちを切り替える。腹を据え、逃げた兄の目線を無言で呼び戻す。輪郭をぐいっと持ち上げ、蜜をほとばしらせる唇に一心に吸い付いた。
    「…‥…ん、…‥‥‥」
     兄の蜜を残さず飲み干してしまう。乾ききる迄舐めとってしまう様に舌を差し込み、指を絡め合う――ぎし、と胸を合わせると、兄もろとも帳の底へと沈め込んでいった。
    ◇◇◇◇◇

      夜の潮風に、蚊取り線香の香りが絡め取られていく。湾の向こうから吹き込んでは、室内を蚊帳の中までぐるり一周すると、やがて岬側の窓へと抜けていく。
    「……ああ、窓が開けっぱなしだ……わざと、あけていらしたのですか…?」
    「今日は蒸すから、なっ…風を通そうと思っ…でも閉めねえと……んっ」
    「確かに、幾分蒸しますね…‥ならばいっそ、俺は暑さに乗じてお披露目してしまいたい気持ちになってしまうのですが。……その。俺の愛おしい兄様なのです、と……。」
     兄自ら用意した潤滑剤を菊門から内壁へと隈なく塗り込め、柔らかくほぐしてやる。神経質に整えられた昼間の硬さが緩む隙が覗いては、到底余裕など持てない。
     たまらず、なだらかな稜線が描きだす正絹の背面いっぱいに、貴方こそが一番の宝の在処なのだと、紅い痕跡を落としていく。ひとつ痕を増やす度、無防備な痴態が暴かれる。愛撫を深部で感じ取ろう―なんとか受け入れようと、小さく震える肩が、いじらしい。
    「ひゃっ。それは、いけね……」
    「だめ、ですか…?」
     これほどまでに見せびらかしたくて、仕舞い込みたいとは。相反する欲求は、ぶつかり合っては昂り続けた。そうして、次第に勇作の中心に漲り始める。張り詰めた欲芯ごとはじけ飛んでしまいそうになりながら、宛を探して白桃の双丘を彷徨う。軽く整える程度の手淫だけを施していただけで、随分と飢えている。はしたなく零れる蜜が先端からすうっと銀糸を引いてしまうほどだが―願わくば兄の中で一緒に溶けあいたいが為に、昂りを意識的に抑えている。ただ、そろそろ独りで待つのは切り上げてしまいたいところだが。
    「たりめえだ………何か、口に。ああ、これでいい……俺の後ろで、軽く縛れ――その、出来るだけ声が漏れねえようにしねえと……。」
    「……は、はい……」
     四つん這いで伏せた姿勢から、手拭いを手繰り寄せる。漏れ出る吐息を塞ぐように、百之助自ら口元に当てると、ぎり、と噛み締めた。ちら、と背後で待っている勇作を一瞥し、結ぶように促す。まったく、戸締りをすっかり失念しちまっていた。詰めが甘かった結果、こんな姿をさらすとはうんざりする。
    「…これで、いいでしょうか…あの、息苦しくはないですか?」
     促される儘手拭いを結わえると、はふ、と上気した吐息が漏れた。充血した目元が此方にちらちら見え隠れするのが目に入り、たちまち背に電流が走る。
    「…ふ、だいじょぶ…だ。勇作の、…………もう、中に欲ひい……から……っ」
    「……俺も、です。兄様が欲しいです……!」
    互いの欲求が見合った。やや性急に亀頭を宛がい、深みへと鋭い牙を埋め込む。
    「あっああ…‥…」
    ずぷずぷ、百之助の白い肉を食らう。牙にねっとりまとわりつく肉は、やがて勇作の中枢に迄溶け込んでしまいそうな熱を帯びている。自らだけでは収めきれない仄暗い鋭利が、温かさに飲み込まれていく。
    すっぽり包まれ切った後、暫く動かずにいると、大きな嘆息が自然に漏れた。兄とぴったりひとつながりになっているのがたまらなく嬉しい――二つに分かれた身体と、心が合わさったように感じたから。すると今度は、動き出すことが惜しくてたまらない。
    「ねえ、兄様。俺は……ずっと、こうしていたいです。」
     ほう、と愛おしさを漏らして、百之助を四方から隠すように覆った。他の、自分以外の音もすべて遮ろうと、唇を耳孔に寄せる。ふうふうと嘆息を漏らす合間に、兄の額に散る髪を調えていると、一層愛おしさがこみ上げてくる。
    「……まことに不出来な弟で、申し訳ございません。」
    「ふぁ、か……やろ……!!」
    何もできず、ただ握り込んだ勇作の整った親指の指先を抓る。ぎりぎりと力を込めた途端、百之助の中でひとときの沈黙を守っていた雄が膨張した。
    「あっ……あにさま……」
     ちくちく、ぴりぴりとした無言の暗号が神経に灯りを付けたようだ。自らだけを飲み込み包まれる感覚を惜しむ様に、ゆっくりと動き出す。
    「―――!!!」
     一旦悦楽を貪り始めると、互いが互いの境界を踏み込んだ位置に確実に在るのがよく分かった。
     勇作の魔羅で張り詰めた手前の神経が擦れる度に、くぐもった百之助の嬌声が轡の端から低く漏れる。
    なんにせよ、此れは二人だけの秘め事なのだ。家の―店の表に一切が漏れ得ぬ様、悦楽と共にぎりぎりと緊密に締め上げていく。
    「ふ、ぁっ……あぁぁっ…‥…」
    「……此処が気持ちいいのですか……?なら、もっと、んっ…」
    「ぐっ…」
     熱芯を百之助の奥の蜜壺に当てる度、枕元に灯したランプの灯がゆらゆら揺れる。幻夜の獣の姿かたちが二人の目の前の窓に映し出される――この怜悧な微笑みは、昼の間は何処になりを潜めているのだろう。ほぼ二十四時間を共にしているというのに。まだ知り得ぬ弟の妖艶を見せつけられる度、底知れぬ欲情が百之助の中に滾々とこみ上げてくる。

    「……ああ。どうか、兄様の御手でこの檻の中に愚かな俺を留め置いて下さいませんか……俺は、すっかり理性を失ってしまいそうで……どうにか、なってしまいそうです……」
    酔いの気色を浮かべる頬を寄せ、敷布団に逃げ出した兄の手を上からやさしく包み直して、持ち上げる。
    ただ愛おしくて、求めるうちにそのまま狂ってしまいそうだ――勇作は情けなくも、唯一の指先に縋る様に口づけた。
     
     ―ああ、そんな事を口にされたならば。もうこの手を離す選択肢など、すっかり捨てちまいそうだ。どうしてくれようか、と、百之助は再び自らを捉えた手の親指を、ぎゅうっと握った。ふるり、と身震いして、轡を少し緩める。
    「失ったら…ねえ?…お前、は…俺だけの唯一で、弟なんだろう?それ以上、どうにもならん、だろ。それをすっぽり仕舞い込むなら、巣の方がしっくりくるなァ……。はは、なーんにも持ってねえ俺がこんなこと思うなんて、ガラにもねえな……」
     すこしだけでいい。波間でもがくように、白波に融ける声で言葉を返す。
     巣は、血を分けて共に育つ兄弟の為のもので、あるいは番の営みの為のもの。どちらともとれた。
    では檻ならば…にや、と背後の勇作の方をみて微かに口元をゆがめると、空いた手を自らの雄へと伸ばした。
    一気に、勇作を貪欲に咥え込んだ陰門が締まった。さながら、きゅうきゅうと悲鳴を上げる様である――自ら檻と口にするなら、いっそう逃すまい。俺だけのお前なのだから。この巣の中に、俺の中に居てくれろ。そんな言外の狂おしい愛しさで捉えたら最後、密かに独占する手筈が整う。
     こんなあくどい強欲が、執着が、お前が手渡そうとしている浮ついた『唯一』への返事となるのだろうか。或いは、俺だけのお前にするための引導になり得るだろうか。
     空っぽの俺の手を握るのは、ただお前ひとりなのだ。
    「…ああっ、兄様、もう限界です…‥‥!」
    「ん。あっんん、もっと、奥、突けっ……胎に、勇作のが欲し…い……!!」
    「……! 貴方が望まれるなら、どんな俺でも残さず差し上げましょう……!」

     ―夜半の閨に、白い欲が溶けた。
     じりじり燃ゆる線香の香りは、遠い夜明けを遠ざける様に夜の闇を濃く塗り替えた。
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    DONE12/11新刊の昭和の食堂パロ【端境につがう】より、Twitter用サンプルです。
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    その中で、客人を世話していたのですが……
    端境につがう【双手の揺籃-一九四九-前編】抜粋サンプル 一緒に夕食を取った二人が離れへと休みに下がった頃、明日の朝餉の支度を手短に済ませながら、百之助がぽろりと呟いた。

    「しかし勇作さん、短い間に此処はホントに賑やかになりましたな……あんたツバメだったんですかい。みぃーんな、お仲間引き連れて、ねえ?ったく、巣に籠る暇もありもせんな…」
    「えっ、あ、申し訳ございません、そんなつもりじゃないんですが……‥‥」
    「…ほお……じゃあ、確かめてみねえといけませんなあ‥…」
     調理器具をもとの位置に戻して、前掛けで手を拭く。一日使い倒してきて、すっかりくたくたになっている布地は、五分ほどしか水気を拭えない――限界だ。
    まだ水気を含んだ指先がぎゅう、と勇作のシャツを握る。その指から先―掌から、唇迄をじわり沁み込ませてしまう様に、開襟の胸部分に口付けた。すう、と息を吸い込むと、、勇作の過ごしてきた一日が、百之助の知らない分まで肺一杯に広がった。
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