君の名を呼ぶ 「呼び方を変えませんか!?」
それは、俺が雪村君の実家にて共に診療所を営み始め落ち着き始めた頃のことだった。
「呼び方、というとーー…」
「私は…山崎さんの何ですか」
「何って、…君は俺の大切な人だ。君を誰よりも愛していると自負できる」
「!だ、だったら…その…千鶴って呼んで欲しいです!…私も山崎さんのことは大好きです。でも、いずれ夫婦になるんだとしたら、そうした方がいい気がして…」
自分自身、変える時期を逃したと思っていた。だからこそ雪村君に言わせたのは申し訳ないと思いつつそう思っていたのは自分だけではないのかと喜びが俺の中に広がる。
「雪村君……いや、千鶴」
「!」
「君に言わせてしまってすまない。だが…俺は嬉しい。君が同じように思っていてくれて…」
「山崎さん…」
「ん?」
そう小首を傾げて見せると顔を赤くして千鶴はゆっくりと俺の名前を呼んだ。
「…す、烝さん…」
「ははっ、なんか不思議だな」
「え?」
「君に呼ばれただけなのに嬉しくてどうにかなりそうだ。…ダメだな、慣れるまで君に名前を呼ばれるだけでにやけてしまいそうだ」
そう言ってそっと手のひらで顔を隠すがその手を千鶴に掴まれてしまう。
「…千鶴?」
「隠しちゃ、いや、です…。新撰組にいた頃の名残りなのかもしれませんが、私はどんな烝さんの表情も知っていたいし、見ていたいです」
「…そうだな、つい癖で隠してしまいそうだが…うん、俺も君になら見られたって嫌な気は…いや、違うな。君に知っていて欲しい、千鶴にだけ向ける俺を」
「…はい、烝さん!」
そして屈託な笑みを君は俺に向けるものだからたまらなくなって俺はその小さな唇に口付けを落とす。
千鶴には言わなかったがまだ恋仲期間を満喫していたいと思うのが小さな俺の本音だった。
-了-