星空のドレス 「芹くんってこの日の夜、空いてる?」
仁菜が指差す日付を見て「悪い」と芹は首を横に振った。
「その日、前に言ってた事務所の合宿の日なんだよな」
「そ、そっか…じゃあしょうがないね」
そう言って無理したように笑う仁菜を見て芹はその額を指先で弾いた。
「いたっ」
「何かあるんだろ?芹さんに言ってみんさい」
「そんなの…」
「に〜〜な〜〜?」
「うう…ぱ、パーティがあるの…」
そう言って仁菜は芹の家族も出席するパーティであるが父親は用事があって出席できないことを告げる。
「でも芹くんのお兄さんたちもいるから大丈夫だよ!」
(大丈夫じゃないだろ、それ…)
心の狭い男であることを自負している芹は兄たちが仁菜のそばにいて自分がいないことを想像し顔を顰めた。
「…場所、どこだ?」
「えっと…」
教えられた場所は芹たちの宿泊することとなっているホテルに近い高級ホテルでこれならと口角を上げた。
「仁菜、俺参加できるかもしれないぞ」
「え、本当!?」
「ああ、だから楽しみに待ってなさい」
そう言って頭を撫でると仁菜は嬉しそうに笑い芹はそれに愛おしげに目を細めた。
***
「芹、めかし込んでどっか行くのか?」
玲音に尋ねられ芹はいたずらっぽくにやっと笑う。
「ああ、俺今からデートだから」
らしくないと思いつつもこれが今の結崎芹だった。わらわらと集まりだすメンバーにも茶化されつつ待っていると待ち侘びた声がして芹は声がした方へと顔を向けた。
「芹くん、ごめん!おまたせ!」
「ーーー、」
思わず芹は息を呑んだ。いつも仁菜はどちらかといえば清楚系というか上品な感じで仁菜らしいドレスで現れていた。しかし、今日の仁菜はどこか大人っぽさを感じさせていた。それも普段履かないような少し高めのヒール。夜空を散りばめたような真っ青なドレス。髪もアップさせていて露わになっているうなじ。全てが芹を魅了した。
「せ、芹くん?」
何も物を言わない芹を不思議に思い仁菜は顔を覗き込むようにして声をかけると芹は小さく何かを呟く
「え…?」
「いやぁ、さすが仁菜!綺麗だよ、今日も一段と似合ってる」
そう貼り付けた笑顔のまま言うと仁菜の手を取りそそくさとその場を芹は後にするのだった。
「せ、芹くん?」
芹が普段とは違うことを不思議に思いまた声をかけると誰もいないことを確認した後仁菜をきつく抱きしめた。
「わっ…!?」
「ほんと…ずるすぎるだろ、お前」
「ずるいって…似合ってなかった?」
「その逆…似合いすぎて誰にも見せたくない…」
「もうだめだよ!でも、良かった芹くんの好みに合ってたみたいで」
「…俺のため?」
「それ以外でこんな服着ないよ!…私っぽくないでしょ?」
「…そっか、なぁ…キスしていい?」
普段聞かない芹が聞いてくれるのが可愛くて嬉しくて、仁菜はパーティ前だと言うのに思わず頷いてしまう。けれど芹も気を使ったのかただ一度触れるだけのキスをする。
「続きは終わってからな?」
そういたずらっぽく笑う芹の背中を仁菜は顔を真っ赤にして叩いた。
-Fin-