強さ、とは 芹が。結崎芹が本命の女の子ができたらしく人間関係を整理しているというのは風の噂で聞いた話だった。芹と遊んでいる一人だった私も、私以外の女も芹が自分を通して誰かを見ているというのは気づいていた。だからとうとうやってきたか。という思いだったがそれとしても私や私以外の芸能界で活躍している数多の女をフってまで選ぶ女なのかと芹の本命が気になってしまうのもまた事実だった。
「どんな子なの」
「はあ?」
別れを切り出された時、そう聞けば芹は怪訝な顔をする。
「言うわけないだろ」
私が何かすると思っているのだろうか。だとしたら傲慢もいいところだ。別に私は芹に対して特別な執着も、何も抱いていないのだから。単純な興味しかない。
「…まあ、いいわ。芹がそれならそれで」
調べようは他にもあるのだから。一般人らしいという噂は聞いている、ただそれ以上の何かがあるのか……――そこに私は興味をそそられたのだった。
***
「あなたが芹の本命の彼女さん?」
詩央ちゃんと待ち合わせをしているときそうやって私に話しかけてきたのは身長が高く綺麗な女の人だった。身長からしてモデルさんかな?と思わせるその人は何かを確かめるように私を見る。
「え、えっと……?」
「ふふ、驚いてる?」
こくこくと頷けば彼女は笑う。話を聞いてみると、以前……私が芹くんに出会う前、芹くんが私のものに。そして私が芹くんのものになる前に芹くんと【遊び相手】として一緒にいた人の一人なのだという。そしてつい先日フられたと嫌味ったらしいわけでもなく淡々と事実を告げるように彼女は語った。
「別にフられたことは気にしていないのよ?本気じゃないのは分かってたし、私も本気じゃない」
「…そうなんですか?」
「当り前よ。本気の恋をするならもっとまともな相手を選ぶわ。だから、芹がご執心であの芹を真正面から愛する女ってどんな人なんだろうと思って、それで今日会いに来たの。この私をフるんだもの、一体どんな子なんだろうと興味が出て…でも、意外だったわ」
「意外?」
「とってもかわいくて、おしとやかに見えるんだもの。だから…芹をどう落としたのか興味がわくわね」
そういって顔が近づく。とてもいい…香水の香りがした。
「ねえ、どんなことをしたの?」
「特別なことはなにも……」
「本当に?」
頷く。
「でも…いろんなことはあったけども、芹くんのいろんなところを私は受け止めるつもりでいます」
そう言えば彼女はおかしそうに笑った。
「それって惚気?」
「そうなるかも…」
「ふふ、可愛い。」
彼女は嫌な感じは全くせず、楽しそうに笑っていた。そして私に連絡先を書いたメモを渡すと台風のように去っていったのだった。
***
「――会ったぁ?」
そんなことがあった後、芹くんの家に泊まることになって思い出したように話せば怪訝な顔を芹くんはした。
「うん、詩央ちゃんと待ち合わせをしている時に」
「…変なこと言われなかったか?」
心配してくれてるのがくすぐったくなって笑ってしまいながら真実を答える。
「俺の…【遊び相手】……」
「話を聞いてやっぱり派手な人が多かったんだなって思ったよ」
「分かってるとは思うけど俺は仁菜一筋だからな!?」
焦ったように言うものだから笑って頷く。
「知ってるし、分かってる。ただ…直接話を聞く機会なんてなかったから興味深くて…」
「妬いたりしないのか?」
「前なら妬いたかもしれないけれど…今は、大丈夫」
隣に芹くんが腰掛ける気配を感じながら言葉を紡ぐ。
「今は…芹くんの一番が私だって分かっているから」
「ちぇ、少しは妬いてくれてもいいんだぜ?」
残念そうに芹くんは言う。
「だって芹くんにいちいち妬いていたら私がもたないもの」
「もたないって…」
「だって芹くんは格好よくって、人気者だから…いちいち妬いていたらキリがないと思うの。だからいいの」
強くなりたいと思う。弱いままの私ではいけない。強くなったと芹くんもみんなも言うけれど私はもっと強くなりたいと思うのだ。そんな私に気づいたのか芹くんはなぜか何も言わず、ただ私を抱きしめた。優しく、けれど隙間なく抱きしめられて私の瞳から涙が零れ声にならない声が漏れる。
「俺ってそんなに頼りない?」
ふるふると首を横に振る。
「強がらなくたっていいのに。俺はありのままの仁菜が好きだよ」
「っ……」
「強くなろうとしなくたっていい、それに好きな女の子には頼ってほしいし甘えられたいって思う…だから、いいんだ」
その優しすぎる言葉に私の涙は止まらず芹くんの肩を濡らしてしまう。わんわんと泣く私を芹くんは背中を撫でてあやし続けてくれていて。そして私はこの日眠りにつくまでずっと泣いていたのだった。
-Fin-