同じ香り 「晋様の髪型が変わられて良かったことはこうやってお手入れが出来ることですね」
「雅、好きだよねぇ。僕の髪いじるの」
「ええ、大好きです」
「髪と僕、どっちが!?」
「何拗ねてるんですか、みっともない」
「僕より髪が好きなんて言われたらたまらないだろ!」
「もう、あなたのこと好きじゃなけりゃこんな風に髪をいじりませんよ。だからあと少しだけ我慢してくださいね」
そう言って雅は僕の髪を櫛で梳き、椿油をつけた手で僕の髪の間に指を入れほぐしていく。
「はい、できましたよ」
晋様、そう呼んでふふ、と機嫌が良さそうに雅は笑う。僕はくるりと振り向くと僕の髪と同じ匂いをさせた手を取った。
「晋様?」
「ふふ、僕と同じ匂いだ」
鼻をくっつけ、そして唇をその手の甲に押し付ける。
「僕のために、ありがとうね。僕も君の髪に触れたいな」
「…いつでも、お好きなように」
つん、と唇を尖らせそっぽを向いて言う雅のいじらしいこと。
「じゃあ、そうさせてもらうよ」
「きゃあっ!?」
押し倒し、雅の髪に触れその髪一つ一つに丁寧に口づけを落としていく。押し倒しながら見ると僕の赤い髪と雅の漆色の髪が混ざり合ってとても綺麗だった。
「…君も、赤くなった」
「…う」
頬、額、とわざと避けて唇を落とせば納得していないような顔で僕を見上げる。
かわいい…可愛すぎて、ついついいじわるしてしまう僕だ。
「何?雅」
「…いじわる」
「どこが?」
「うう……」
そろそろ口を吸おうか…なんて思っていると痺れを切らした雅によって体ごと僕は引き寄せられてしまう。
「んっ…」
「………っ……は、ぁ……っ、まさ…きみ、そんな、大胆な…」
「晋様こそ、お顔が紅葉のようですよ?」
「そうもなるだろ!」
「ふふ、あはは……可愛い人!」
「…かわいいのは君だってぇ…」
「ふふ、うふふ…」
「ああ、もう…」
一本取られた僕は顔を赤く染めながら僕の前で無防備に、無邪気に笑う雅に見とれていた。
「ねえ、晋様。口づけ、してくれないの?」
「~~~~~っ……する、するとも!」
思い出を取り返している最中の僕たちはこうやって毎夜、燃え上がるように熱を上げる。それでも熱が膨らむばかりで、そして僕は雅に夢中になってしまう。
「…香りで気づかれてしまうかしら」
「構いやしないよ…いっそ全員気づいてしまえばいい」
そしてこの女が、高杉雅子が僕の女だと知らしめられたら――と欲深い嫉妬を抱きながら、赤い印を執拗に刻んだ。
-Fin-