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    ミ、怪我したら寂しくなってプに電話かけまくりそうだよね、という話(ミラプト、ニューキャッスル登場トレーラーのあとの妄想)

    #ミラプト

    call!call!call!ワンコール、ツーコール、スリーコール。その先は数えるのをやめた。もう何度目だろう。ワークデスクの隅で震える携帯は一向に静まりそうにない。ワールズエッジの亀裂のような見事な皺を眉間に刻んだクリプトは渋々、渋柿どころか渋そのものを食べたような表情で、うるさいそれを手に取った。電話主は画面を見ずともわかる。それでも念のため確認すれば案の定、顎に手を添えていやらしい流し目でこちらを見る胸焼けしそうな面と目があった。
    ミラージュから着信がある度にディスプレイにデカデカと表示されるそれは、連絡先と共に勝手に登録されたものだ。これといったデータも入れていない仕事用の端末とはいえ、ノイズはないに限る。その場で連絡先ごと削除しようとしたら、折角の撮り下ろしのキメ顔が!と大騒ぎされて、結局クリプトが根負けしてそのままになった経緯がある。
    顔がうるさいヤツはしゃべるともっとうるさい。それを身を以て理解していながらも通話ボタンをタップしてしまうのは、謂れのない罪から唯一庇ってくれた恩をいまだに感じているからかも知れない。あの日あの時あの瞬間から、なんだかんだ言ってもクリプトはミラージュのことを憎からず思っていた。
    「……………ハァ。」
    「やっと出たなクリプト!どうせ家でパソコンとにらめっこしてるだけのくせに待たせやがって〜そのうち体からキオナンダケでも生えちまうぞ?っていうか第一声がため息ってなんだよ!おい、聞いてんのか!クリプト〜?クリーピー?クリプちゃ〜ん?」
    もう電話に出たことを後悔しはじめている。思わず出かけた舌打ちを押し留めて、努めて冷静に言葉を続けた。
    「何か用か。腕が痛むのか。病院は時間外だが、どうしてもというならツテがある。連絡しておくからタクシーで…」
    「待て待て待て!腕は大丈夫だ!まだ動かせないが痛みもないし、腕以外もピンピンしてる。ほらこのとおり、って見えねえか。はは!」
    はは、じゃないんだよ。一体一日に何回電話をかけてくるつもりだ。モーニングコールにはじまって、アフタヌーンコールにイブニングコール、挙句の果てにミッドナイトコールまで。体の不調を訴えるものならまだしも、そのほとんどがこれといった用もないのにかけてくるから質が悪い。こんな状況になった原因である巨大蟹は、今頃シンジケートによって跡形もなく片付けられてしまっているだろう。もう恨むべき相手もこの世にいないわけだ。
    ミラージュが怪我をして一週間。ストームポイントで行われたバンガロールの引退および新レジェンドのデビュー試合、そこに未知の巨大生物が現れてセキュリティプロトコルが作動した結果、システムに敵性生物と誤認されたミラージュは、丸腰のままスペクターに撃たれてしまった。診断の結果、全治一ヶ月。ライフラインに自宅で安静に過ごすよう言い渡されて完治までゲームと店を休まざるを得なくなった奴は、何を思ったかクリプトに連絡を寄越して来た。口から先に生まれてきたような奴のことだから、自宅にこもりきりで話し相手のいない生活に耐えられなかったのだろう。それでも他にもっと適当な相手がいるだろうと思ったのだが、奴曰く、どうせおっさん暇だろ?とのことだ。
    レジェンドとして参加しなければならないゲームもあるし、プログラマーとして依頼された仕事もある。今だって作業の手を止めてミラージュの相手をしてやっている忙しい身であるのだが、いかんせん奴の言う暇とは人との予定がないという意味らしい。そういう意味では確かに、奴の交友関係の中で自分が一番暇そうに見えたのかも知れない。失礼で迷惑な話ではあるが。
    「用がないなら切るぞ。俺は暇じゃないんだ。」
    「おいおい、せっかちなおっさんだな!ちょっとくらい話し相手になってくれよ。お前が寄越してくれた映画のことなんだから。」
    言われて耳をすませばかすかに、電話口の向こうで映画音楽らしい壮大なBGMが流れている。オペラのような女性の歌声に、意外性のあるアップテンポの曲がマッチしていて印象的なそれは、かつて人類が地球で犇めき合うように暮らしていた頃、一部でカルト的な人気を誇っていた監督の作品のものだったように記憶している。
    クリプトは先日、この状況を打開するためにミラージュのインターネットの検索履歴をハッキングし、興味のありそうな映画やドラマ、アニメ等々、暇つぶしになりそうなコンテンツを手当たり次第、見舞いとして奴に送りつけた。何でもいいから引っかかってくれれば、と願ったそれにまんまと食いついたミラージュは、一時はクリプトの思惑通り静かになったものの、しばらくすると一作品観るたびに電話で感想を報告してくるようになってしまった。この律儀さを何か別のところで発揮してくれたらよかったのに。結局、奴に電話の口実を与えただけの結果となり、クリプトは大いに後悔した。
    「レトロな映画だけど、最高だった!主人公のハゲのおっさんもいいし、ミステリアスだけど可愛げのあるヒロインもいい。世界観も当時のSFファンタジーのよさがあって、なるほど根強いファンがいるわけだな。」
    「気に入ってくれたようでなによりだ。」
    大いに後悔したが、見舞いとしては十分に役割を果たしてくれていることは不幸中の幸いというべきか。興奮冷めやらぬ様子で鼻息荒く語るミラージュは、この映画が自分のインターネットの検索履歴からチョイスされていることに気付いていないらしい。随分昔のものも拾ったため検索したこと自体忘れてしまっている可能性もあるが、完璧すぎるチョイスに違和感を覚える様子のない奴のことが、逆に心配になってくる。
    「一つ気になるのは猫ちゃんだな。宇宙に旅立った主人公の家に置き去りになっちまって、誰かが面倒見てくれてるといいんだが…」
    クリプトがミラージュの心配をする一方、ミラージュは映画の中の猫を心配しているようだ。なんともお気楽なことで、と思わなくもないが、クリプトも正直気になってしまった。猫は嫌いじゃない。橋の下で生活している時に、冷たい体を寄せ合って温め合った仲だ。だからだろう、猫と聞くとつい仲間意識のようなものを感じてしまう。
    「猫が出るのか。」
    「ああ、白くてふわふわで、笑顔がキュートな猫ちゃんだ。」
    「…笑うのか。」
    「あれは間違いなく笑ってたな。金色の目がルンルンと輝いていた。」
    「爛々だバカ。」
    白くてふわふわで、金色の目を輝かせて笑う猫。一体どんな猫なんだろう。話しながらも頭の中で組み立てていたコードを、白い猫が満面の笑みで踏み荒らしていく。残念ながらその顔はカートゥーンのようで、クリプトは自分自身の想像力のなさを呪った。
    「なんだ、観てないのか?クリプちゃん。」
    「お前の好きそうなものをチョイスしただけだからな。観てはいない。」
    「じゃあ今度、家で一緒に観ようぜ!俺ももう一度見たいし。十分なおもてなしはできないかも知れないが…片手でも酒くらいなら作れるしよ。サボっちまってた掃除も…出来る限りする!」
    片手で無理をしてでも客をもてなそうだなんて、ミラージュも相当人に飢えているのだろう。クリプトは同情すると同時に、その客が自分であることにかすかな喜びを感じていることに気が付いた。携帯を持っていない方の手で自らの頬に触れば、口元が笑みに緩んでしまっている。情けない。コイツはただ人に飢えているだけで何も考えちゃいないのに。俺を疑いの目から庇ってくれたあの日と同じだ。誰にでも手を差し伸べるし、誰の手でも取ってしまう。クリプトが上がってしまった口角を手で無理矢理引き下ろしていると、なかなか返事がないことを訝しんだのか、ミラージュが心配そうに声をかけてきた。
    「クリプト?」
    「あ、ああ、わかった。仕事にキリがついたら連絡する。だが無理はするな。必要なものがあれば買って行くから何かあれば言ってくれ。」
    「おう!」
    不安そうな声から一転、弾むような返事に白い歯を出した屈託のない笑顔が目に浮かぶ。そういえばミラージュの顔をしばらく見ていない。着信がある度にキメ顔とやらの画像は見させられていたが、直接本人を見たのはストームポイントの海岸で、下らない話に舌打ちをして別れたあの時が最後だ。勝手に心配して損したと苛立って電話も邪険にしていたのに現金なもので。ミラージュが無理を押して自分のために掃除をし、酒を作り、もてなしてくれる、そう思っただけで胸の内にぽっと喜びと疚しさが入り混じった複雑な温度が宿ってしまう。この温度をどうしたものか。その答えが出ないまま数日後、クリプトはミラージュと会うことになるのだった。



    「そういえばクリプちゃん、見舞いの品はありがたいんだが、その…アレはちょっと…」
    「アレ?」
    「アレだよアレ!」
    「何の話だ、ハッキリ言え。」
    「だーっ!ハメンジャーズだよ!エーチチ・モム・ウルトロン!」
    「いっ、いきなり何を言い出すんだ!」
    「何じゃねえよ!お前が寄越したディスクの中に入ってたんだ!」
    「は?」
    「いくら見舞いとはいえ、あんなものまで提供してくれなくていいからな!全く、変なところまで気を回しやがって…」
    「お、お、お…お前が変なもの検索するからだ!!!!!バカ!!!!!」








    ※話に出てきた映画はフィフス・工レメントのつもり。フ"ルース・ウィリス大好き。猫ちゃんも可愛い。有名な映画ですがおすすめです。
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    x_Bambini_x

    MAIKINGクリプトがミラージュ宅にお世話になる話
    帰るまで終われまてん
    なんとしても書き終わらせたいなぁ

    #ミラプト
    懐かしい気持ちだった。
    熱にうなされて、苦しくて・・・
    もやもやする意識の中で、時折優しく触れる手が好きだった。
    額に触れて、撫でられて冷たくて、優しい手を俺は知ってる。






    抱き上げられるように現実に引き上げられると、そこは知らない天井だった。
    『奴らにつかまったのか?』
    反射ビクッと体を動かせば全身に激痛が走る。
    「っ!!くそっ・・・、ハック?」
    無理に体を起こせば、サイドテーブルに置いてあるハックが目に入る。
    『ハックがあれば逃げられるか?』
    部屋を見渡し、ハックを抱え扉と反対側のベッドに身を隠すように座り込む。
    外装の確認をして起動スイッチを押せば、すんなりと電源が入ることを確認する。
    『休止モードに入っていた・・・?』


    ーカチャリー


    「!!!!」
    「あ・・・。目、覚めたのか?」
    この声は聞き覚えがある・・・
    「ウィット・・・?」
    「・・・全く心配させやがって。動けるならこっちの部屋に来い。服はその・・・着てこいよ。その辺のヤツ、使っていいからな。」
    そういって、またカチャリと音がする。どうやら部屋の扉を閉めていったらしい。
    『逃げるなら逃げろということか』
    2052

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    MOURNING「ただいま。」「気付いているか?」「俺は騙されたりしない。」の指定台詞3つでミラプト企画話
    purgatorium「ただいま。」
    帰宅を知らせるミラージュの声とチリチリと玄関のタイルが擦れる音。耳を擽る愛らしいその音は次第に激しさを増して、慌てたようにミラージュが声を上げる。
    「おい、待て!お前らその足で家の中に入るんじゃない!」
    一体今日はどんな有り様なのか。小さく笑ったクリプトはラップトップを閉じて書斎から玄関に向かう。ペタペタと裸足の足音を廊下に響かせながら途中の洗面所でタオルを二、三枚拾って行けば案の定、脚を真っ黒に汚した二匹の獣が飼い主の静止を振り切らんと暴れていた。
    「今日はまた一段とはしゃいで来たんだな。」
    ステイ、と一声。クリプトが手の平を見せて短く、しかし鋭く発すれば、たちまち二匹の獣は従順な犬に戻って大人しくなった。本来賢いはずのゴールデンレトリバーとダックスフンドだ。正しくコマンドを出せば指示に従ってくれるものなのだが、いかんせんミラージュは彼らに舐められている節がある。同じように犬たちに接しているはずなのになぜなのか。犬を飼うにあたり二人でいろいろ調べた時に見た情報と照らし合わせてもその理由は謎のままだ。
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