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    忍たま深夜の真剣字書き60分一本勝負

    ■お題 「吹雪」「おしくらまんじゅう」
    ■キャラ  「五年生」

    五年生:ふれふれ ここのところ降り続いていた雪がふと止んで、晴れ間が見えた。あまりの悪天候に、教師から自室待機を指示されていた忍たまたちがこぞって外へ出る。下級生は庭を広々と使って雪合戦をしたり雪だるまを作ったり、上級生は我先にと裏山へ駆けて行ったりむしろ室内に引きこもったままだったり。五年生の五人は連れだって裏山へやってきていた。これも鍛錬だ、といって着の身着のまま駆け出した六年生とは違い、蓑でしっかりと防寒対策を施している。裏山へ出てきたのも鍛錬ではなく一面の銀景色を見物に来ただけなので、どうか鍛錬中の六年生に遭遇しませんように、と八左ヱ門は心のなかで祈っていた。
     新雪に足跡をつけながら裏山を散策する。ただそれだけなのにひどく楽しい。室内にばかりこもっていて、思っていたよりも気が滅入っていたようだ。取り留めのない会話を交わしながら裏山を歩くことに夢中で、頭上の天候が少しずつ傾いていたことに気づかなかった。あっという間に五人は吹雪に飲み込まれてしまった。
     吹雪に視界が遮られるとはいえ、裏山は庭のような場所だ。どこになにがあるかくらいは把握している。八左ヱ門の先導で近くの洞穴に避難した五人は、ともかく吹雪から逃れたことでほと吐息をこぼした。雪は止む気配を見せず、洞穴のなかにも吹き込んでいる。五人は吹き込む雪を避けるように、洞穴の奥で身を寄せ合った。
    「……なぁ、三郎。もっと奥へ行ってくれないか?」
     勘右衛門がぽつりとぼやいた。ずいぶんと奥に入ったつもりだったが、入口側に立つ勘右衛門の体は吹き込む雪にさらされているようだった。ほんの少し機嫌が悪いような、痛みを隠しているような声だ。勘右衛門は三郎の返事も待たずにぐいぐいと体を奥へ押し込もうとしている。
    「……無理。わたしだってもうこれ以上は奥に行けない。」
     押された三郎がむつと押し返す。その通り、確かにそう広いわけではない洞穴の奥はぎゅうぎゅうに詰まっている。三郎につられたのか、勘右衛門もむつと唇を尖らせた。
    ふたりとも冷えと疲労で沸点が低くなっていた。一触即発、というほどではないが一週間くらいは禍根が残るだろう。頭の回転が速い勘右衛門と三郎の嫌味の応酬は聞いていてこちらが疲れる。それならば仲直りをするまで一緒にいなければいいだろう、と八左ヱ門でさえ思うが、五人で過ごすことが好きなふたりはけんかをしようとも別行動はしない。可愛げがあると言えばいいのか、面倒なこだわりと言えばいいのか、悩むところだ。
     本格的な言い争いが始まりそうになって八左ヱ門は勘右衛門に手を伸ばす、と同時に雷蔵が三郎に手を伸ばしていた。互いの行動を察した左ヱ門と雷蔵は顔を見合わせてこくりと頷く。八左ヱ門は勘右衛門の背を、雷蔵は三郎の背を押して立ち位置を交換する。入口近くに身を置いた八左ヱ門と雷蔵が外に背を向けて立つとちょどよく壁になった。
    「ふたりとも、そう喧嘩をするなって。俺たちが入口側に立つから。」
    「雷蔵!だめだ、風邪をひいてしまう!」
    「これくらい平気だよ。」
    「なにそれ。おれなら体調を崩してもいいってこと?」
    「そうは言ってないだろう!」
     雷蔵に対して過保護になりがちな三郎が悲鳴のような声をあげる。雷蔵が三郎の心配を笑っていなすと、今度は勘右衛門が不満そうに頬を膨らませた。雷蔵がこっそりと笑っている。三郎は認めないが、誰が体調を崩してもひどく心配をするのが常だ。勘右衛門ともつい、いつもの応酬をしてしまったが、本当は三郎が入口側に立とうとしていたに違いなかった。そういう三郎も寒さに強いわけではない。それならば、これまでの経験で言えば多少なり体調を崩しても回復の早い八左ヱ門と雷蔵が壁になったほうがいいだろう、という思惑は三郎にたぶんとても叱られるから秘密だ。入口側でぎゃいぎゃいと騒いでいると、洞穴の奥で身を潰されても文句をひとつとして言わなかった兵助がなにか閃いたといったようすで手を打った。
    「皆がもめるくらいなら、俺が入口側で壁になるよ。」
     その言葉を聞いた勘右衛門と三郎が同時に兵助を振り返り、くわりと口を大きく開けた。
    「「兵助は薄っぺらいから、だめ!」」
    「う、薄っぺらい!?」
     八左ヱ門と雷蔵が止める間もなかった。兵助は衝撃を受けたような顔をして、どういう意味だ、と勘右衛門と三郎に詰め寄る。ふたりは口が滑ったと言わんばかりに、もごもごとなにやら必死に言い訳を考えている。
     八左ヱ門からは空笑いしかでない。雷蔵は必死に笑いを堪えている。顔立ちと着やせする見た目から、兵助はどうにも華奢に見える。本人も気にしているから普段はけっして言わないし、態度にも行動にも出さないのに、今日は冷えと疲労のためかつい口にしてしまったようだった。兵助から問い詰められてふたりは必死に話を誤魔化そうとしていたが、これは誤魔化せないだろう。詫びのため、兵助が豆腐の出来に満足するまで味見役をすることになる未来が見えた。
     八左ヱ門はちらりと背後に視線を流す。おそらく雷蔵も気づいている。洞穴の外の吹雪は止んで、雪の降り方はもうだいぶ穏やかになっていた。外に背を向けているため詳細はわからないが、もしかしたら止んでいるのかもしれない。少なくとも洞穴には吹き込んでいない。言葉はなくとも八左ヱ門と雷蔵の考えていることはおなじだ。今、この級友たちを野山に放てば決着をつけようとして雪合戦が始まってしまう。八左ヱ門も雷蔵も、そろそろ忍術学園に戻りたい。世話をしている動物たちの餌やりの時間だからで、読み終えていない本があることを思い出したからだ。八左ヱ門も雷蔵はほんの少しずつ、言い合いを続けるさんにんを奥へ奥へと押し込んでいく。なんだったらもう少しだけもめていてくれてもかまわない。この程度ならば美味しい夕餉を食べれば仲直りするだろう。雪が止んだことを気づかれるには、まだ早い。
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