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    seki_shinya2ji

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    角名くん目線
    テーマ:花雲

    【耳北】養花天の下はビッグバンが起こっている明るい曇り空が広がる。雨は降りそうにないのに曇っている。そういう、ちょっと不安定であるのに優しい明るさを感じる日はあるだろうか。
    角名はハラリと落ちた横髪を掻き上げた。何もないことに不安定さを感じる。フラットであることに不安を感じる。起伏が激しいと疲れるのに、平穏にいらだちを感じる。
    ああ静かに乱れる感じが憂鬱でたまらない。一ミリとして理解ができない地学の授業がつまらなくなって、シャーペンを止めた。ふと見上げた空は雲全体が光っているように明るい。前向きにメンヘラ。ゆめかわいいとかエモいとか。そういうのが疲れる性格であるのは角名自身が一番理解している。それでもそういう感情になるときだってある。角名だって人間だ。許されるはずだ。
    「地球は過去、何度も割れて消えて、そんでまた誕生している可能性かてあるいうことや。今私たちが生きている地球は何度の爆発の後に生まれた何代目の地球なんやろか。ロマンあるやろ?」
    アーハイハイ。角名は心で相槌を送る。心底つまらない。でもなぜか不安になる。この感じが一番怠い。
    角名が地学の授業を受けているのは地学室。3棟ある校舎の中でもグラウンドが面している3棟目にある。絶好の窓際の席でも、つまらない授業と浮かない空模様では心も踊らない。桜は咲いているだろうが、この棟からでは見ることは叶わないのでますます気分が落ちていく。五限目だ。見知った銀髪は既に夢の国に旅立っている。なら自分もそうしようか、と思って遂に完全に黒板から目を離すことにした。
    ワーッと歓声が上がった。
    ふと、下を見ると上級生が体育の授業をしているらしい。ジャージの色褪せた感じと、かすかに見えたシューズの色で分かった。今の時期の体育は体力測定をしている。
    ミニチュアのように見える小指ほどの大きさの人間を眺めて時間と不安を潰すことにした。
    するとふと、見知った顔が見えた。
    (あ、大耳さんと北さん)
    新体制にて背番号1と背番号2に選ばれた二人である。仲睦まじく、といっていいのか。笑いながら授業に参加しているのが見えた。その視線の先では100メートル走が行われていた。きっと適当なペアを組んで互いに見合う、みたいな方法が取られているのだろう。男子陸上部の主将と副主将も、名前が全然違うのに一緒にいるのが見えた気がした。
    (あの2人、普段もずっと一緒なんだな)
    ちょっと意外、というか。角名はそう思った。角名に映る二人は部活だけの関係でいわゆるビジネスパートナーなんだと思っていた。進路先も進学と就農、ポジションもミドルブロッカーとウィングスパイカー。クラスが一緒でも部活で嫌というほど顔を合わせているのだから、授業くらいは同じクラスの別々の仲のいい人と一緒にいるもんだと思っていた。軽快且つ見事に角名の予想を裏切ってきた2人に、角名はちょっとした好奇心を覚えた。少しだけそちらに触覚レーダーを伸ばすことにした。
    2人の順番は2組あとだ。そこまでは談笑しているらしい。何を話しているのかさっぱり分からないが、二人はそこそこに破顔して話し込んでいる。それも意外だった。何があの2人を面白いと思わせているのか。角名は今すぐにでもその二人の笑顔をカメラに収めたくなったがあいにく授業中。ぐ、と。グゥゥゥと堪えてその目に焼き付けることにした。
    そしてあっという間に二人の番だ。一組1分もあるか無いかの計測時間だ。それを二本やるにしてもあっという間である。一つの授業でいくつもの計測を行うのだからウカウカなんてしれられない。
    スタートのクラウチングスタートポジションについた2人。こんな時まで姿勢がいいなんて頭が下がる思いだ。ピーッ!と鳴った笛の阿保っぽい音と上げられた旗とともに二人は弾かれたように走りだした。
    北のモーションは無駄がない。コンパクトで余計な力が入っているようなふうには見えない。何となくバレーのプレースタイルに通ずるものがあった。
    一方の大耳はその長すぎる脚を生かした走りだ。一歩一歩が大きくて鬼気迫る。これも何となくバレーのプレースタイルに似ていた。
    時間にして15秒もあったか。角名の心にあった雲の隙間から太陽光が差し込んでくるかのような思いだった。どんどん迫ってくる2人は、ゴールラインが近づくに連れて笑みを浮かべているのに気付いた時、角名は目玉が落ちる思いでシャーペンを落としていた。
    あっという間に小指サイズだった人間が中指くらいになっている。走り切った二人を見ていた角名は、時間差で「大耳さんの方が早かったの、か……?」と、結果を見逃していたことに気が付いた。肩で息をしているが、二人の表情には差がある。大耳は嬉しそうにニヤニヤしている。一方の北は悔しそうに顔を歪めている。どうやら結果は足の長さがある程度比例するらしい。北がその足で大耳の足を小突いている。足癖悪。そういえばあの人普段の言葉遣いもそこそこに悪いんだった、と唐突に主出した。しかし北の攻撃に特に抵抗を見せない大耳はまだニヤニヤと笑っている。流石、侑に老夫婦と言わせるだけのことはある。
    ふいに風が吹き抜けた。春の風は花粉を送り込んでくるので角名はあまり好きじゃない。少し目を細めた。風はすぐに吹き止んだが。その、隙間。

    北の髪を整えてやる大耳の顔が見えてしまった角名は。
    整えられて嬉しそうに目を細める北の表情を見てしまった角名は。

    晴天の霹靂、寝耳に水、違う。えっと、あれだよ。
    「―――それでビッグバンが起こったからやな」

    それじゃん。
    大きな心の声が心で木霊した。衝撃の目の前が真っ白になってしまった角名は、愛の営みを終えて学生に戻った二人にばっちり目撃されてしまい、放課後の部活前に2,3小言を言われる羽目に。しかしそんなことはどうでもいい。こんな曇りか晴れかよくわからない微妙で憂鬱な天気で、愛が育まれている瞬間を目撃してしまうなんて。
    エモい感情を抱けばいいのか、青い春にしびれたらいいのか。
    角名の感情は混沌を極めた。

    ===





    #花雲
    桜の咲くころの、かすかに明るく薄く曇った空模様。空に雲はあっても全体に薄くかかっているため地表まで日差しが届く。雲が花を養うと書いて養花天という同義語もある。
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