例えばあの子は透明少女
暑い空気を吸い込み熱を倍にした息を吐く
上手く馴染まないボール
やたらと眩しく感じる照明
聞こえてくるのは暑苦しい掛け声
耳につく黄色い歓声
滴る汗 張り付く練習着 100%の不快
ポンコツから浴びせられる怒声も全て
夏のせいだと思った
ピリ、と響く絶対零度の指示に大人しく退き
今日はいつもより息苦しい体育館を呪った
しゃがみこんで壁に頬を寄せた
いくらか冷たい気がした
ふと目に入った女子バレーボール部の練習に
お遊びか、楽そうで羨ましいと最悪な感想が口から出て行った
夏のせいで姿を見せた本性
なんとなく、気づいたら口から出ていたと
最悪を重ねて突き放す
見覚えのある姿が目に入り 追った
ひときわ目立つ長身 冷たそうな目線
教室で目が合ったことは多分一度もない
瞬間、ぶわ、と風が吹き彼女は飛んだ
細く長い脚は軽快に地面を蹴る
身体は良くしなって 腕は真っ直ぐに伸び
まるで重力が存在しない
怒声も歓声も熱も一瞬で全て奪われ透き通る空気
彼女は透明の中にいた
あるのはコートに叩きつけられたボールの、心地良い音だけ
ミートの感触が自分と繋がり未だ汗ばむ掌を見る
ただただ気持ちよさそうだ
上がる口角を抑えきれない
仲間の声に振り返る彼女
涼しげに笑った口の中に見えた赤
嘘みたいな赤色は
やっと冷え始めた血液を再沸騰させて
鬱陶しかった天井を輝かせた