春雷魏無羨は旅の空を東へ進んでいた。
彼は生まれてこの方自由奔放で、養父母や義姉弟のいる地元を離れて笛を吹き、日銭を稼ぎながら旅をしている。彼は一人、街の広場で笛を吹くこともあれば、笛吹きが足りない地元の楽団に加わることもあった。
この間までは酒場でチェロ弾きたちと演奏して随分稼いだ上、酒もたんまり飲むことができたのだが、彼は街での定住の誘いを断って再び旅に出た。実は、会いたい誰かがいるのだが、幼き日の記憶を辿っても思い出せないし、街中で美しい女性に出会ってもその人ではないこと以外全く分からない。魏無羨は、今日も誰だか分からない、ものすごく懐かしい人に会いたい気がして、当てのない旅の空にいるのだった。
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