7月27日じりじりと肌を焼くような日差し。
気が付けば私は夏の真っ只中に居た。
ここ最近の気温の上がり具合は異常だ､なんて毎年のように愚痴を零す。

相変わらず私は畳の上で死んだフリをしている。
何年経っただろうか。

私は死んだ。

そう言うと皆は私を頭がおかしくなったのかと笑った。幽霊が必ずしも誰の目にも止まらず透明だなんて誰が決めたのだろうか。

いや､彼らの言うことは正しかった。彼らから見れば私は生きている。

私には心が無かった。
あの時から心が死んでしまったのだ。

それからの毎日といったら苦しくて堪らない。

目の前に立ちはだかる困難はこの先の不安をかき消す為だと言うが､その困難とやらを乗り越えたとしてもきっと私はこの先も不安なままだ。

人と関わり笑い合うこともあったが､根本が腐ってしまっていたせいでいくら人との関わりを積み重ねようが救われることは無かった。

何度も何度も､私を思う人に出会い､それはそれはありがたい前向きで温かい愛の言葉を頂いた。

感謝はしていた。彼らに恩を返そうと真っ当に生きようと思った。

駄目だった。

壊れた物は接着剤等である程度まともな形に直すことはできる。しかし枯れてしまった花は戻らない。死んでしまった生命は消えるのみだ。

私の心は壊れたのではなく､死んでしまった。

今の私はただの入れ物だ。

空っぽだ､そこには何も無い。


扇風機の風が前髪を揺らした。
鼻先をくすぐる長い前髪がうざったい､不機嫌にまた天井を見つめる。


7月27日

あの時の私は､今の私を見てなんと思うだろうか。

毎日泣いていたくせに､｢明日は良い事がある｣と信じていた狂った日々。

縋るように､彼を追い続けていた。

彼が世界の全てだった。

親しいわけではなかった､話したことなど数えるくらいだ。加えて彼は私のことを良く思っていなかった。

今ではもう上手く思い出せない。
残っているのはただ｢好きだった｣という記憶だけで､彼に対する思いはとうの昔に死んでしまったのだ。

それでもまだ彼が居たことをこう思い出すのは､私にはそれしか無いからだ。

この痛みだけが､私を示す唯一の存在だ。


7月27日

彼は私だった。私は彼だった。

そんな私だが､今では大切な人が沢山増えた。
心は死んだままだけど､大切にしたいという思いだけは確かにそこにある。

私の中で彼は死んだ。彼は永遠になった。


胸が苦しくなり、寝返りを打った。
その時にひやりと冷たいものが鼻先をつたった。
汗かと思ったそれは､どうやら私の目から零れていた。

あまりにも零れてくるその雫がうざったいので、私は瞼を閉じる。

暗闇に包まれた世界で､誰かが立っていた。


あの背中は、


彼が振り返った。

私は彼と向き合う前に蹲った。

震える手を抑え､小さく､小さく縮こまった。


ああ、これは夢か､私の頭の中か。

どちらにせよ､現実ではない。彼はそこにはいない。

｢私は、｣

7月27日

｢心が死んでしまって､痛みを感じなくなった｣

今日は何の日だ

｢ずっと苦しくありたかった｣

7月27日

｢ずっと､貴方の痛みで苦しくありたかった｣

ああそうだ、今日は___

｢ずっと、好きでいたかった｣

そう零した時
懐かしい､黒いセーラー服の匂いがした。


じりじりと夏の音が聞こえる。
私は目を開けていた。

ただ､そこには普段と何ら変わらない7月27日があった。

今のは何だったのだろうか

身体を起こし､ふと空を見た。
いつもの空だ。

いつもと変わらない､痛いくらい優しい夕焼け空だった。














7月27日 神様になってしまった貴方の生まれた日.