煙草二十歳になったから煙草を吸った。
身近にいた大人はみんな吸っていたからなんとなく。
寂雷先生は害の方が多いって言ってたけど、まぁ左馬刻達の煙草の副流煙吸ってたからとっくに肺は汚れてんだろ。
流石にイケブクロ近辺で吸ったら噂広まっちまって二郎と三郎にも知られちまうだろうから、オオサカでの仕事に行った時にパチンコの喫煙所で吸った。
何か気持ちの変化とかあるかと思ったけど、特に何も感じなかった。
メンソールのスッとした感覚が気道を通ると同時に心も冷えた。
こんなもんかと白けて汚い灰皿スタンドに煙草を押し付けた。
もう帰ろうと顔を上げるとつまらなそうな顔をしながら煙草を吸っている大人が目に入った。
その中で一際感情を失った顔で煙草を咥えている男に目を奪われた。
なんでかその男を置いて帰ってはいけないと感じて、ここに居座る理由としてまた煙草に火をつけた。
しばらく特にうまいとも感じないから浅く吸ってすぐに出す。
その間、男は煙草を咥えたまま微動だにしなかった。
いつ動くのだろうとボーッと眺めているとポロッとその男の口から煙草がこぼれ落ち、太ももの上に落下した。
男はゆっくりと煙草に目を向けた。それをあまりにも興味がなさそうに見るから、俺は危機感を感じずにそれを見ていた。
だが普通の煙草の燃える匂いとは違う種類の焦げ臭さが鼻について、やっと事の重大さに気がついた。
「おいっ…‼︎」
慌てて男の腕を引っ張って立ち上がらせ、床に落ちた煙草を踏んで火を消した。
火が消えたことを確認して大丈夫かと男を見ると思っていたよりも男が大きかったことに驚いた。
まだぼんやりとしている男に話しかける。
「おい足大丈夫か?火傷してるだろ」
「いち、…ろ…?」
「え…?」
見た目も雰囲気も違うから分からなかったが、その声は確かに親父だった。