=無限大の琴瑟相和 ついに迎えた十二月二十九日、時刻は午後五時を回ったばかり。
俺は、一ノ瀬と買い物袋を提げて舗道を歩いている。先の逢瀬では少々苦し紛れだったものの、あれから何事もなく当日に至っていた。
張り切って絢爛なレストランや高級料亭を手配しても良かったのだが、やはり最終的には自宅という選択の方が勝った。今回ばかりは、人目に付く場は極力避けなければ後々困ったことにもなりかねない。それに、わざわざ奇をてらうよりも、例年と同様互いに気兼ねなく寛げる場所で過ごしたかったというのも当然大きい。
彼は普段と変わらない様子で他愛ない話をしている。俺もまた平静な顔で相槌を打っていたが、その裏では、着々と脈が速まる自分と闘っていた。万全の想定をしたつもりでも、自宅に近づけば近づくほど緊張感は増すばかり。
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