拝啓 一ノ瀬トキヤ様 お元気ですか。俺は、日々〟
(いや……さすがに堅苦しいか)
打ったばかりの文字を、親指ひとつですべて白紙に戻す。
〝久しぶりだな、元気にしているか? 過ごしやすい陽気になってきたな。もし都合が合えば、近々会えないだろうか。お前とどこかへ出掛け〟
(……これでは、あからさますぎる)
ため息をつき、やれやれと肩を竦めて首を振る。俺は、今夜も携帯電話をベッドに放ってしまった。一ノ瀬トキヤとは、高校時代のクラスメイトであり、気の合う友。他の誰よりも波長が合って、不思議な縁を感じていた。少なくとも、俺は彼が居なければ学校生活を味気なく思ってしまうところだった。そんな恩義を勝手に抱き、あまつさえ、男同士であるというのに下心さえ芽生えてしまった。当然ながら、一ノ瀬には何も告げなかった。否、告げられるわけがなかったのだ。
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