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    とわこ

    @towako71

    レツゴ(主にエリシュミ、シュミ右)とかレツゴストDKとか

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    とわこ

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    2024年1月のイベントのコピー無配本のやつ
    付き合ってないエリシュミ
    片想い可愛いね

    練習走行を終え、残した事務仕事を片付けようと、シュミットはミーティングルームに戻る。
    ミーティングルームはもう薄暗くなっていて、カーテンの隙間から赤い西日が差し込んでいる。
    電気を点け、パソコンに向かおうとした時、部屋の真ん中のソファに人影が見えた。
    見ると、エーリッヒがソファに凭れかかって眠っている。座面に投げ出した手と、向かいのローテーブルには書類が。彼もまた、事務仕事の為にここに来て、疲れのあまり居眠りをしてしまったのだろう。
    シュミットは、そっと物音を立てないようにエーリッヒに近寄った。
    いつもの香水の代わりにふわりとシャクヤクが優しく香る。練習の後風呂に入ったようだ。前髪はいつものように上げられてはいるが、少しまだ濡れているように見えた。髪を乾かす時間も惜しんで仕事をしていたのだろう。
    「まったく……頑張りすぎだ」
    シュミットはやれやれと溜息混じりに微笑し、エーリッヒの頬にそっと触れた。
    伏せられた銀色の睫毛が上がる気配はない。
    そっと、繊細な硝子細工を扱うような慎重さで、額に唇で軽く触れる。
    さっと掠めるような一瞬のキスだった。
    シュミットは口を手で覆い、じっとエーリッヒを見詰めた。
    こんなことをされても起きないなんて。もっと大胆なことをしても、分からないのでは無いだろうか。
    どきどきと心臓がうるさく鳴っている。
    「エーリッヒ………」
    小さく、震える声で名を呼ぶ。
    聞こえていないといい、と願いながら。
    すぅすぅと聞こえる寝息に乱れはない。
    寝込みを襲うなんて最低だ。
    そう思いながらも、シュミットは再び手を伸ばしてしまった。今度は頬ではなく薄く開かれた唇に触れる。
    「エーリッヒ………お前とキスがしたいよ、エーリッヒ…」
    片膝でソファに乗り上げる。ぎし、とソファが軋む音が大きく響いたように思えて、シュミットはぎくりとした。
    しばらくその体勢のまま、息を殺してエーリッヒの様子を窺う。
    このままさっとキスをして、立ち去ってしまえ!
    頭の中の悪魔が唆してくる。
    だがしかし、シュミットがそっと上体を倒したその時に、エーリッヒはうっすらと目を開いてしまった。
    「!」
    シュミットはぎくりとした。覆い被さるようにしてエーリッヒの唇に触れている自分は、どう考えたって寝込みを襲っているようにしか思えないし実際そのつもりだった。言い訳が咄嗟には思いつかずフリーズしてしまう。
    「エ、エーリッヒ…………」
    謝ろうとしたのか、なんなのか、自分でも分からずシュミットはエーリッヒの名を呼ぶ。
    するとエーリッヒは眠たげなとろんとした顔のまま、ふんわり微笑むと、シュミットの項に手を添えてそのまま下からキスをしてきた。
    「………!」
    「ふふ、可愛い」
    驚いて真っ赤になるシュミットを見て、エーリッヒは満足気にそう言うと笑みを深くする。
    「なん、で………エーリッヒ?」
    しかしシュミットの呼び掛けに返事はなかった。
    エーリッヒは再び眠りの淵に落ちていた。
    「は?うそだろ、寝ぼけてたのか?エーリッヒ!起きろ!ばか!」
    シュミットは声を荒らげ、エーリッヒの襟首を掴んでがくがく揺さぶる。
    「ぅ、……っうぅん、シュミット……?待って、起きました、起きましたから!手を離して…!」
    エーリッヒの上擦った声に、シュミットは不機嫌な顔をしてぱっと手と身体を離した。
    「あぁ、居眠りしてたのか、僕…………」
    「こんなところで、信じられないくらいよく寝てたな」
    「すみません、昨夜ちょっと夜更かしをしてしまって」
    エーリッヒはシュミットが何をしようとしていたのか、自分がシュミットに何をしたのか、全く知らない様子で、ははと笑った。
    「……なにか夢を見ていたろう」
    シュミットが睨むと、エーリッヒは「うーん?」と顎に手を当てて思い出そうとする素振りを見せた。
    「……ああ、見ました。幸せな夢を」
    「どんな夢だ?」
    「よく覚えてないんです。でも、ただ幸せな気持ちはしっかり覚えていて」
    「そうか」
    シュミットはそれ以上何も言わず、パソコンの前の椅子を引き、そこに腰を下ろす。
    「これから仕事ですか?」
    「ああ。練習走行のデータの解析を今日中にしておきたい」
    「では、コーヒーでもいれてきますね」
    エーリッヒは自分の持ち込んだ資料をトントンと纏めて、すっと立ち上がった。
    「あまり仕事を抱え込まないでくださいね。僕もサポートしますから」
    背後から肩に手を置かれ、顔を近づけて耳元でそう言ってくるエーリッヒ。
    「お互い様だ。お前こそ、無理するなよ」
    シュミットは視線を合わせず答えた。
    エーリッヒは、仕方のない人だとでも言うようにふっと吐息で笑い、そして離れて行った。
    ギィ……パタン。
    扉が閉まる音を背中で聞いて、シュミットはデスクに突っ伏した。
    顔どころか耳も首筋も真っ赤だ。
    エーリッヒに、キスをされてしまった!寝ぼけていたとはいえ………キスを!!
    エーリッヒは誰と間違えてキスをしたのだろうか。誰の夢を見ていたのだろうか。きっと、自分ではない誰かなのだろう。
    「……馬鹿。私の気持ちはどこにぶつければいいんだ」
    キスをした事実が嬉しい以上に、エーリッヒにはあんな風にキスしたい誰かが居るんだろうという憶測で胸が苦しくなり、シュミットは涙ぐんだ。
    エーリッヒに、好きだと告げる勇気なんて、湧きそうになかった。
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