お互いの誕生日や記念日には、示し合わせて休みを取ることにしているエーリッヒとシュミット。
今日はシュミットの誕生日なので、二人とも休みだ。
前夜、カウントダウンをして、日付が変わった瞬間にキスをして、それからシュミットが生まれたこと、二人出会えたことに感謝をしながら抱き合って眠った。
そして今日は、どちらかが起きればもう片方の寝顔を眺め、戯れにキスなどしてまた寝て、を繰り返して、午前中いっぱいだらだら過ごして。
「…さすがに起きるか?」
昼になりシュミットが苦笑して言った。
「そうですね」
そうは言っても名残惜しい。
エーリッヒはシュミットが腕の中から抜け出したのを、残念に思った。
「腹が減ったな」
「なにか作りましょうか。それとも、食べに行きますか?」
「出掛けよう。せっかくの休みで誕生日なんだ、デートがしたい」
シュミットはにっこりと笑ってそう誘ってくる。エーリッヒは「そうですね」と笑い返す。
身支度を整え、手を繋いで家を出て、抜けるような青空の下を歩く。
「なにが食べたいですか?」
「うん?そうだなぁ」
他愛ない話をしながら、エーリッヒはひとつひとつのショーウィンドウを見るともなしに眺めていた。
シュミットへのプレゼントに相応しいものがあれば買うつもりでいた。(シュミットは、プレゼントはいらないから休みを取って一緒に居て欲しい、としか言わないが)
「……なあ、聞いてるのかエーリッヒ?さっきからよそ見ばかりして!」
シュミットがぷんとしてエーリッヒの腕を引っ張る。
「すみません。聞いていますよ。……いえ、あなたにプレゼントできるものが何かないかなぁと考えていて」
エーリッヒは眉を下げて返事をした。
シュミットはなおもぷんぷんと
「私が欲しいのはお前との時間なのに、お前がよそ見や考え事でその時間を奪うつもりか」
とむくれている。
「はいはい。すみません。でも、形に残るものを贈りたいじゃないですか」
「形に残るもの?………じゃあ、服がいい」
シュミットがそのようにリクエストをしてくれたので、エーリッヒはおっと思う。
「服ですか!いいですよ。でも珍しいですね。なにか欲しい服があるんですか?」
「いや。特になにか考えているわけではないが。………お前に贈られた服を着るのは、お前に包まれているように錯覚できそうだなと思って」
照れたようにシュミットは微笑んだ。
あまりに可愛くてエーリッヒは口元が緩むのを抑えられない。
「錯覚なんて欲しがらなくても、僕がいつでも抱き締めてあげるのに」
「仕事中や人前ではそうもいかないだろう?」
「仕事中も僕に包まれていたい?」
「ああ」
ふふっとエーリッヒは嬉しさを隠さず笑った。
「では、スーツを仕立てましょうか。その前に、食事ですね」
「うん」
繋いだ手をぎゅっと握り直して、五月の太陽の下、二人は幸せいっぱいに歩く。
「来年も祝わせてくださいね」
「ああもちろん。来年と言わずずっと祝ってくれ」
「光栄です」
街中の人やものや動植物や、風や日差しまでもがシュミットの誕生日を祝福しているようにエーリッヒには思えた。