冬になると、シュミットがそわそわとし始める。
「なあ、今年はどうする?」
訊ねてくるのも毎年のこと。
「……さすがにもう、サンタクロースは信じていないのでは?」
こう返すのももう何年目か。毎年恒例のこの台詞に、恒例の返答。
「いいや、ミハエルはまだこどもだ。きっとサンタクロースも信じているし、夢を壊す訳にはいかない」
使命感に燃えているらしきシュミットに、僕が何を言ったって聞く耳など持ってもらえるはずがない。
シュミットはミハエルを敬愛しているが、過保護でもある。シュミットの目には、ミハエルがいまでも可愛い天使のように見えている。
「では、今年もサンタ役としてプレゼントを用意するんですね」
まったく、仕方のないひとだな…まあそこが可愛いのだが。などと思いつつ僕が微笑み訊ねると、
「ああ。だが、何を贈ろうか迷っているんだ」
とシュミットは難しげな顔をしてみせる。
「それとなくミハエルの欲しいものを聞き出せないか?」
シュミットから困ったように言われては、僕に否やはない。
「ええ。探っておきますね」
そう返事をすると、シュミットはほっとした顔で「ありがとう」と答えた。
「ミハエル、サンタクロースがあなた宛のクリスマスプレゼントに悩んでいますよ」
シュミットのいない所で僕はミハエルに言う。
ミハエルははぁと溜息をつき、
「まったく、シュミットは今年もまだ僕のことこども扱いするつもりなの?」
と軽く僕を睨みつけてきた。
「……もう信じてないんですよね、サンタクロース」
「当たり前。僕はとっくに大人だよ」
「そうですか」
僕は苦笑するしかない。可愛い大事なミハエルが、いつの間にやら大人になってしまったとなれば、シュミットはさぞや驚きがっかりすることだろう。しかし、こども扱いされたくないミハエルの気持ちもよく分かる。
「ではどうしますか。シュミットに、ミハエルはもうサンタクロースを信じていないと伝えます?」
「いや。適当に答えておいてよ、シュミットの望む〝清らかな天使〟が欲しがりそうなものをさ」
ミハエルも僕の表情を鏡に映したような何とも言えない顔でそう答えた。
「シュミットの夢を壊したくないからね」
「ええ、シュミットはあなたに夢を見ていますから」
「いいかげんに、僕のことちゃんと見て欲しいんだけどな。……僕もシュミットに甘いなぁ」
ふふ、とミハエルが切なく笑う。僕はどんな顔をすればいいのか分からず、無言になってしまった。
ミハエルはきっとシュミットに恋心を抱いている。
淡く微笑ましい甘酸っぱい感情なのか、ドロドロとした執着を見せる恋なのか、僕には分からない。
だけど、ミハエルにシュミットを取られたくはなかった。
「ミハエルの欲しいもの、分かりましたよ」
シュミットにこっそりと声をかけると、シュミットはぱあっと華やかな笑みを浮かべ、
「さすがだな、エーリッヒ!」
と僕を労ってくれる。
「お前が居てくれてよかった」
そんな言葉を聞きたいばかりに、僕は今日もシュミットを騙す。
ミハエルは無邪気な天使だと。
ミハエルの恋慕も肉欲も理解していながら、それをシュミットには告げない。
もちろんシュミットに危害が及ばないよう細心の注意を払って目を光らせてはいるが。
当分ミハエルにはこどものままでいてもらわねば。そして──シュミットが頼るのは、この先もずっと僕でなければ。
ああ、こんな歪んだ執着、クリスマスには相応しくないのに。
「ところでお前は何がいい?」
シュミットに訊ねられ、物思いに沈んでいた僕は何のことか分からず、「何が、とは?」と訊き返した。
「クリスマスプレゼントだ。……俺からお前への」
シュミットは照れを隠しきれない顔で、視線を伏せた。
………勝ち目はある。の、か?
あの皇帝ミハエルが恋敵だというのに、僕はこの人を射止めることができるのだろうか。
「プレゼント、くれるんですか?」
あなたが欲しい、なんて、とても言えないけれど。