人気アイドルグループ“アイゼンヴォルフ”のメンバーのひとり、エーリッヒ。
歌やダンスはもちろんのこと、繊細な演技でドラマ・映画にも多数出演している彼は今、同じグループのメンバーであり恋人のシュミットと共に、自身が主演を務めたドラマの第1話の放送を見ていた。
エーリッヒはそわそわと、ソファに並んで座るシュミットの横顔を盗み見る。
エーリッヒの初主演ドラマだ。今まで、ヒロインに片想いをする設定の役など務めたことはあったが、こんなにがっつりとラブシーンのあるドラマに出たことはない。故に心配だった。恋人の反応が。
シュミットは、じっとテレビに見入っている。
第1話のクライマックスに差し掛かり、画面の中のエーリッヒは狂おしくヒロインを抱きしめて、切なげなキスをした。
シュミットは何も言わない。
シュミットが拗ねたり怒ったりするかと思っていたエーリッヒは、拍子抜けしてしまった。
アイゼンヴォルフが担当しているエンディングテーマ曲が流れる中で、シュミットは、深い溜息をついた。
「お前は芝居が上手いな。……本当に恋をしているようにしか見えなかった」
「えーと………それは、褒められてるんでしょうか……それとも、恨み言ですか…?」
エーリッヒはシュミットの頬に手を添えて、視線を合わせて訊ねる。
「恨み言ってなんだ。俺が妬くとでも?」
シュミットはふふんと高飛車に、鼻で笑ってみせた。
「だって僕の初めてのキスシーンですよ。妬いてくれないんですか?」
エーリッヒは少し拗ねる。
「僕が誰とキスをしてもいいと、あなたはそう思ってる?」
「そんなこと言ってないだろう?」
シュミットはエーリッヒの頭をくしゃっと撫でて、困ったように眉尻を下げた。
「お前が真面目に役と向き合ってること、分かってるよ。演じてる間は、お前であってお前じゃない。だから、妬かない。役から抜ければ、俺の愛するお前は、俺だけのものだ。そうだろう?」
「………っ、はい」
エーリッヒはシュミットに抱きつき、そのままソファに押し倒す。シュミットがくすくす笑う。
「キスしてもいいですか」
「ああ。してくれ、エーリッヒ」
唇を重ねれば、自分たちにはお互いしかいないと、そう思えて幸福感に胸が熱くなった。
「明日の予定は?」
シュミットがそう訊ねる。
本当は朝からドラマの撮影、それに番宣でバラエティの収録もある。だがエーリッヒは、
「明日のことなんて、考えなくていいんですよ」
とシュミットにもう一度キスをして、誘いを受け入れた。