クリスマスに、「一緒に住もう」とシュミットに持ちかけられた。
シュミットに言わせればそれは痺れを切らしたプロポーズだったらしい。
プロポーズは自分からしたかった、とエーリッヒは少々──いや、かなり残念に思いながらも、やはり嬉しく、来る新生活に胸を躍らせていた。
そして今日。
エーリッヒの誕生日。
当然シュミットとデートの約束をしているエーリッヒは、待ち合わせ場所に指定されたカフェへ早々と向かった。
シュミットを、人の多いところでひとりで待たせるのは嫌だった。
大きな窓から眺める街行く人々は、皆寒そうにしていて、カップルなんかはそれをいい事に手を繋いだり腕を組んだりとくっついて歩いている。
羨ましい、と思った。
しかし今後は一緒に住むのだから、人目を気にせずシュミットとくっつくことの出来る時間も増えるだろう。
エーリッヒは幼なじみ兼恋人の、花も恥じらう美しいかんばせを思い浮かべて、微かに口角を上げた。
それから程なくして、シュミットがカフェへやってきた。
「待たせたか?」
「いいえ、僕もちょうど今来ました」
にっこり笑いかけると、シュミットも微笑む。
ああやはり、シュミットは今日も綺麗だ。
「これ。誕生日プレゼントだ」
席に着くなりシュミットが綺麗に包装された小箱をテーブルに置く。
「誕生日おめでとう、エーリッヒ」
「…ありがとうございます。シュミット」
日付が変わった瞬間に電話で既に行ったやり取りをもう一度行い、しばし見つめ合う。
先に目を逸らしたのはシュミットの方だった。
「そんなにじっと見るな。照れるだろう」
「あなたの瞳があまりに美しくて。目を離せませんでした」
「またお前はそういうことを…」
赤くなったシュミットの頬を食みたい、とエーリッヒは思った。
「いいから、これを開けてみてくれ。気に入るといいんだが」
シュミットはずいとプレゼントをエーリッヒの目の前に押しやる。
エーリッヒは、リボンを解きながら
「あなたからの贈り物なら、なんだって嬉しいですよ」
と軽口をたたいた。
「お前は私を甘やかすのが本当に好きだな」
シュミットは苦笑し、そう言った。
さて、箱を開けると、シュミットが気に入っているハイブランドのキーケースが出てきた。
「キーケースですね。嬉しいです」
「お前は実用品の方が喜ぶからな。それともうひとつ。サプライズプレゼントがある」
シュミットはいたずらっ子のような笑みを浮かべて、エーリッヒに手を出させた。
その手の上に白い手が重なり、離れて行く。
エーリッヒの手の上には、鍵がひとつ残った。
「………なんの鍵でしょう」
「マンションだ。私とお前の」
シュミットはふふんと答えた。
「マンション?え、まさかシュミット」
「クリスマスの後買った。一緒に住んでくれるんだろう?」
「………たしかに、Jaとは言いましたが。行動が早すぎます」
エーリッヒは嬉しさと、驚きと、複雑な気持ちを素直に表情に浮かべる。
「嬉しいですが、一緒に物件選びがしたかったです」
「う。すまない、浮かれてしまって……」
シュミットが視線を落としてしまったので、エーリッヒはそれ以上責めることは出来なくなってしまった。
腕を伸ばし、シュミットの髪に触れ、それから頭を優しく撫でる。
「今日は、このマンションで過ごすんですか?」
「……お前さえ良ければ、そうしたい」
「僕もそうしたいです」
笑いかけると、シュミットはほっとしたように表情を緩ませた。
「では、早く向かいましょう」
一刻も早く二人きりになれるところに行かないと。
でないとエーリッヒは、人目もはばからず、シュミットを抱きしめてキスをしてしまいそうだった。