この歳になって浮いた噂が全くないと、周りが勝手にそういう噂を捏造するものだ。
「聞いた?シュミット。君と僕の噂」
「噂?」
きょとんとするシュミットは、件の噂を耳にしたことがないらしい。まあ、噂の当事者の耳にはなかなかそういうのは届かないものなのかな。
僕は、人より耳がいいから、遠巻きにひそひそされてるのが聞こえちゃうけどね。
「僕が君に夢中で、毎晩君を寝室に呼んでるって、噂になってるみたいだよ」
教えてあげると、シュミットの頬がぱっと紅をはいたように染まった。
「なんですか、その噂。誰がそんなこと」
「でも……あながち的外れでもないじゃない?」
僕はシュミットを、おいでと手招きする。
シュミットは従順に僕のすぐ側まで来て、手をひかれるがままに僕の膝に座った。
そのシュミットの細い顎を掴み、至近距離で僕は美しい菫色に映る自分の姿を見つめる。
「僕が君を寝室に呼ぶのは、本当だよね」
「……毎晩ではないではないですか」
シュミットは眼をとろりとさせる。
その口調は少し拗ねているようでもあった。
「毎晩呼んでもいいの?君の身体がもたないよ」
「あなたになら、抱き潰されて壊されてもいいです……」
シュミットは僕の首に腕を回して甘えてくる。
あははっと僕は声を出して笑った。
噂は、半分は本当。
僕とシュミットがそういう関係だってことは本当のことだけれど、夢中になっているのはシュミットの方。
可愛い僕の飼い犬さんに、僕はキスをひとつ与える。
チュッと音を立てて唇を吸うと、シュミットは強請るように口を少し開き、僕の唇を舐める。
「ダメだよ。夜までお預け」
「そんな…」
「その代わり、このまましばらく膝に抱いていてあげる」
「………はい」
シュミットは僕の肩に頭を凭せかけてきた。
少し身体が震えている。
頑張って誘ったのに、期待を裏切られて、プライドが傷ついたのかもしれない。
可愛いなぁ。
ぎゅう、と抱きしめた身体は、あの頃より随分と収まりよく僕の腕に馴染んだ。