ブレットの誕生日を祝うパーティー。
ごくごく内輪で、それこそアストロレンジャーズのメンバーくらいしかいないそのパーティーに、何故か招かれたシュミットは、少し緊張しながら主役であるブレットの隣に座っていた。
「皆、飲み物持ったー?」
エッジの明るい声に、アストロレンジャーズの面々はそれぞれのグラスを掲げて応える。
シュミットも、普段はあまり飲む機会のない炭酸飲料の入ったグラスを掲げ、頷いた。
「それじゃ、リーダー!ひとこと!」
「ああ」
促すエッジに、ブレットはひとつ頷いて立ち上がる。
「皆、今日はありがとう。WGP真っ最中にも関わらず祝ってくれて嬉しく思う。より一層の努力で、WGPに優勝し、この一年を最高の年にしよう。……このくらいでいいか?」
「はいっ、リーダーからの挨拶でした!それじゃ皆、カンパーイ!!」
「乾杯!」
わっと場が沸いた。
各々が料理に手を伸ばし、楽しそうに会話を始める。
シュミットが戸惑っていると、ブレットが話しかけてきた。
「シュミット、わざわざ来てくれてありがとうな」
「いや…お招きありがとう。でも、何故?」
シュミットは首を傾げ、疑問を投げかける。
「何故とは?」
「こんな親しい身内の集まりに、どうして私が招かれたんだ?」
「それは………まあ、メンバーからの、俺への誕生日プレゼントさ」
「プレゼント…?私を招くことが?」
「ああ。……誕生日に、好きな相手と過ごしたいと思うのは当然だろう?」
ブレットは、さらりと言って手を伸ばし、シュミットの頬に触れた。
シュミットが、え?と思っているうちに。
「うわーーーー!!!告白したぁ!」
とミラーが叫び、ジョーが「きゃあ、リーダーかっこいい!」と手を叩き、ハマーが何故か涙ぐみ、そしてエッジがクラッカーを鳴らした。
「な、なんだこの騒ぎは」
面食らうシュミットに、ブレットが苦笑する。
「こいつらもお節介でな。俺の恋路を応援してくれているんだよ」
「恋路って……」
なおも混乱するシュミットに、エッジが
「とぼけるなよシュミット。分かってるくせに!」
とブレットの反対隣から投げかける。
「だって………それだと、まるで、……私の事が……」
「ああ、好きだ。シュミット。お前のことが。……気づいていると思っていたんだがな」
ブレットに言われて、シュミットはブレットに触れられっぱなしの頬を一気に真っ赤に染めた。
ブレットが自分を好きだなんて、思ってもみなかった。
……いや、そうであれば良いのにと、夢想したことは何度かあった。
だがまさか、それが現実になるなんて。しかも、こんな大勢の目の前で!
「それで?お前の気持ちを聞かせてくれないか」
ブレットは、じっとシュミットを見つめてそう訊ねてきた。
「私………私、は…………」
シュミットは狼狽え、口をぱくぱくさせる。絡め取られた視線を外したいのに外せない。
なんと答えればいいのか。
確かに、シュミットはブレットが好きだ。
友情ではなく、それは淡い恋だった。
だが、いま想いを伝えてしまえば……両想いになってしまえば、今後に差し支えないだろうか?
自分たちはライバルチームで、そしてWGPが終われば遠く離れなくてはならない。
なにより………両想いということは、交際がスタートしてしまうのでは。
交際する、となれば、手も繋ぐしハグもキスもするし、それ以上だって………、ブレットが、望むとしたら………?
そこまで考えてシュミットはオーバーヒートしてしまった。
「っ、ずるいぞ、ブレット……」
シュミットは、情けない声でブレットを責めた。
「そんなこと言われて、私は何と答えればいいんだ。正解が分からない」
「俺のことを好きか、そうじゃないか、素直に答えてくれればいい」
「そんな単純な問題じゃない」
俯き、イヤイヤと首を振って、シュミットはブレットの手から逃れる。
楽しいはずのバースデーパーティーが、自分のせいで台無しだ、と思って少し泣きそうになった。
「……そうか。困らせて悪かったな」
しかしブレットは、あっさり引き下がった。
大人の対応だ。
と、シュミットはきゅうんとした。
「すまない、ブレット」
詫びて、縋り付きたくなる気持ちを必死に抑えるシュミット。
「あれれー?リーダー、フラれちゃった?」
エッジが、場の空気を変えようとしてか、軽い調子で言う。
「ああ、そのようだ」
ブレットは肩を竦めた。エッジはにやにやとした顔で、
「じゃあ俺がリーダーと付き合ってあげよっか♡慰めてあげるよ」
と軽口を叩いた。
「遠慮しておくよ。今日のところは確かに振られたが………まだ巻き返せると思ってるんでね」
ブレットは、ふっと口元を笑ませた。
「変な空気にして悪かった。皆、食べて飲んで騒ごう!」
ブレットに言われて、その場の一同は、気を取り直したようにまたそれぞれのお喋りを始めた。
「ブレット………本当にすまない」
シュミットはいたたまれず、ブレットの袖をくいと引く。
「いいんだ。悪いのは、お前に好きと言って貰えるだけの魅力がなかった俺だから」
「ていうか、リーダーのどこがダメなの?シュミット見る目なさすぎ!」
向こうからまたエッジが茶化してくるのを、ブレットが小突く。
「お前は黙ってろ」
「黙ってらんないよー。愛しのリーダーが傷心なんだから」
「本当に軽いヤツだな、お前は」
ふふ、とブレットは笑う。
「シュミット、今日は引き下がる。が、俺はお前を諦めないからな」
「ブレット……」
シュミットだって、本当はブレットが好きだ。
だが、ブレットに愛される歓喜を知ってしまっては、離れ離れにされることに耐えられないだろう。
そう素直に言えればいくらかマシなのだろうか。
「そんな複雑そうなカオしなくても、リーダーは俺と幸せになります!大丈夫!心配しないで!」
エッジがブレットの肩をぐいと抱き寄せた。
「こら、エッジ」
ブレットはそうは言うものの、嫌がってはいない。
ああ、取られてしまう。
シュミットは切なさで胸をいっぱいにしながら、
「……案外、お似合いだな。エッジと」
と無理矢理笑って見せた。
「嬉しくないな」
ブレットは溜息をつき、エッジは
「俺は嬉しいけど?」
とブレットの肩に頭を凭せ掛ける。
いつもこんな風にじゃれているのだろうな、とシュミットは思い、そして苦しさのあまり、もうブレットのことを考えるのを放棄した。
「料理を頂こうかな」
「ああ、たくさん食べてくれ」
「ありがとう」
勧められるままに、色々食べたような気はするが、何の味もしなくて何の満足感もなかった。
その後、どのようにパーティーがお開きとなったのか………もはや、シュミットは覚えていない。
心ここに在らずな時間を過ごし、逃げるようにして宿舎の自室に帰った。
「お帰りなさい、シュミット」
エーリッヒに出迎えられ、シュミットはやっと息が出来たような気がした。
「エーリッヒ………私は…どうしたら、」
「え?……何かあったんですか」
険しくなるエーリッヒの表情。
自分をいつだって大切にしてくれているエーリッヒ。
彼に心配をかけるのは心苦しい。
だけど、心に秘めておくのはあまりに苦しくて。
シュミットは、エーリッヒに抱きしめられながら、ほろほろと涙を零し経緯を話した。
「……つまり、あなたは、まだブレットと付き合う覚悟がないんですね」
「ああ。意気地のないことで、情けないよ」
泣くシュミットの背中を優しく撫でながら、エーリッヒは全てを受け止めてくれた。
エーリッヒに抱きしめられるのはこんなにも簡単なのに、何故自分はブレットに臆したのか…………苦い後悔が、シュミットの胸に拡がった。
自分に「振られた」時のブレットの顔を思い出して、シュミットはエーリッヒに縋ってまた泣いた。