誕生日の数日前のこと。
エッジはブレットに呼び止められ、振り向いた。
「なに?リーダー?」
「エッジ、お前もうすぐ誕生日だろう。何か欲しいものはあるか?」
腕を組み、壁にもたれてブレットはそう訊ねてくる。
「欲しいもの………」
エッジは思考を巡らせた。
エッジの言葉をブレットは促すでもなく待っている。
「………リーダーが欲しい、かな」
へらっと笑い、そう答えたエッジ。
しかし紛れもない本心である。
「俺が?」
ブレットは少し驚いた顔をして見せた。
「そ。リーダーとえっちなことがしたいなーって」
だめ?と上目遣いに可愛子ぶって、エッジはねだってみる。
「……駄目だ、そういうのは」
はぁ、とブレットは溜息をついた。
「真面目に考えておいてくれよ」
そう言うと、ブレットはひらりと手を振って立ち去ってしまった。
「………大真面目だったんだけどなぁ」
エッジは苦笑し、そして顔を歪めた。
ブレットにとって自分はいつまでも弟のような存在なのだろう。ちっとも本気にして貰えない。
いや、本気にはしてもらえてるのかもしれないが、応えて貰える気配もない。
代わりになにをリクエストしようか、とエッジは思考をめぐらせながら、また歩き始めた。
そして、誕生日当日。
チームメイトに祝ってもらい、それなりに良い誕生日になった。
夜遅くエッジは機嫌よく自室に帰る。
シャワーを済ませ、寝ようとベッドに入った時だった。
コンコン、と部屋のドアがノックされる。
こんな時間に誰だ?
と不審に思いながらもエッジがドアを開けると、ブレットがそこに立っていた。
「リーダー!どうしたの?」
「日付が変わるまで、お前と一緒に居ようと思ってな」
「え、なにそれ大歓迎!」
エッジはありもしない尻尾をぶんぶんと振ってブレットを部屋に招き入れる。
「嬉しいな、リーダーが俺の部屋に遊びに来てくれるの」
「誕生日のカウントダウンはできなかったから、せめて誕生日の最後は一緒に居てやろうと思ってな」
そう言って笑うブレットは、いつもよりリラックスした雰囲気だ。エッジはどきんどきんと心臓が高鳴るのを感じる。
「もしかして……さ?俺が、プレゼントはリーダーが欲しいって言ったから、来てくれた?」
エッジが訊ねると、ブレットは軽やかに笑い、
「自惚れるな」
とエッジの額をぴんと弾いた。
「いたっ!ひでぇ、リーダー」
「ははは。………なぁ、お前、本当に俺が欲しいのか?」
急に真剣なトーンになり、ブレットが訊く。
「欲しいよ。前から言ってるじゃん、好きだって」
エッジも真剣に、即座に答える。
じり、と距離を詰めたがブレットは逃げなかった。
そっとブレットの身体に腕を回し、柔らかく抱きしめてみる。
やはり抵抗らしい抵抗はない。
「リーダー………好きだよ」
切なく狂おしい思いを口にしたら、ブレットが小さく息を飲んだのが伝わってきた。
と、突然。
ピピピピピピッ!と、電子音が鳴り響く。
「え、なに?」
「俺が掛けたアラームだ。あと1分で日付が変わる」
「えー!?」
つまりブレットは、あと1分でエッジの部屋を去るということだろう。
「……改めて。誕生日おめでとう、エッジ」
ちゅっ。と、聞こえたリップ音。
「……え?」
柔らかく温かいものが触れた頬を、エッジは押さえた。
「俺はまだ、覚悟が出来ていないんだ。すまない、今年はこれで我慢してくれ」
ブレットはまた笑い、まだ抱きついたままのエッジの腕から逃れた。
「じゃあな、おやすみ」
「ま、待って!リーダー!」
「何だ?」
必死なエッジに、ブレットはドアの前で立ち止まる。
「来年の誕生日も、リーダーをリクエストするから!」
「……来年までお前が俺の事を好きだったら、考えておいてやる」
「ありがと。次はもっと、えっちなキスしてよ」
「それはどうかな?」
ははっと笑ってブレットは部屋を出ていった。
残されたエッジは、暫し呆然と頬を押さえ、それから真っ赤になってベッドにダイブすると、じたばたとひとりで身悶えて誕生日を終えた。