「リーダーってさぁ、」
とエッジが自分を話題にするものだから、ブレットは「ん?」と顔を上げてエッジの方を見る。
夜遅く、ブレットの私室。
エッジが訪ねてきたから普通に部屋に招き入れて、コーヒーを出してからの、なんとなく心地良かった沈黙はエッジに破られた。
「男が好きなの?それとも、男もイケる人なの?」
思いがけない言葉がエッジの口から出たものだから、ブレットは飲んでいたコーヒーに噎せる。
「ありゃりゃ。大丈夫?」
「だっ、誰のせい、だっ!……なんだ、男が好きとか、男もイケるとかっ!?」
「まあまあ、クールになれよ、リーダー」
エッジはブレットの口癖を真似ておちゃらける。
「だってさ、リーダー、昔シュミットのことすっごい気にしてたじゃん?あれって、好きだったからなんじゃないのー?」
「違うっ!シュミットはライバルだ、それ以上でも以下でもない」
ブレットが顔を赤くして否定すると、エッジは「ふーん?」と半目で「そんなの信じらんないね!」と言わんばかりの表情を作る。
「どうして急にそんなことを訊くんだ?」
ブレットの問いかけに、エッジは肩を竦めて
「いや、俺にチャンスがあるのかないのか、知りたくてさ」
と答えた。
「チャンス……?」
「リーダーが男と恋愛できる人なら、俺だって恋愛対象に入れるんじゃないのかなって」
エッジはへらっと笑って、避ける間もなくブレットの頬に不意に触れて来た。
「!?」
「……ねぇ、どうなの」
バイザーの奥で瞳が泳ぐ。
それを見透かしたのか、エッジは
「俺の事、好きになってくれる可能性はあんの?」
と口調を和らげて優しく問いかけた。
「……………そんな、の…………分からない、…が、…………俺は…、恋愛には、向いてない……から…」
やっとのことでブレットが言うと、エッジはにっこりと
「そんなことないよ。今、俺の事めちゃくちゃ意識してんじゃん」
と言って触れっぱなしだったブレットの頬を一撫でし、手を離した。
「全然脈ナシじゃなさそうだな。……落としてみせるから、覚悟しろよ、ブレット」
「!」
呼ばれた名前にブレットはぶわぁと頬が熱くなるのを感じた。
「お前、俺で遊ぶのはやめろ。…いつだって女子に囲まれてるくせに」
「ああ、うん。女の子もすきだよ?でも、俺、男もイケるし?………ブレットのことは、遊びじゃないしね?」
ぎらり、エッジの眼が光ったような気がしてブレットは居心地悪く
「名前で呼ぶな……」
とやっとのことでそれだけを言う。
「いいじゃん、人前ではちゃんとリーダーって呼ぶからさ。ふたりきりの時くらい許してくれよ」
ブレットの照れも見透かしたように、エッジはまた柔らかく笑んだ。
「まずは、意識してもらわないと何も始まんねーからさ。ここから先は…………どうしようね?ほら、ふたりきりだよ。密室だよ?」
「………っ、なに、を…」
「なにしようね?ブレットがされたいこと、なんでもするよ。ハグでもキスでも」
言いながらもエッジは笑むばかりで、動こうとはしなかった。
ブレットはそれに少しほっとしながらも、
「あまりからかわないでくれ。………本当に、恋愛には疎いんだ」
とエッジから半歩距離を取った。
エッジは溜息をつくと、
「コーヒーご馳走様。…部屋に帰るわ」
と背を向けた。
残念………なような、なんとも言えない気持ちがブレットの胸に去来する。
いや、落ち着け。エッジのことはなんとも思ってない。なんとも、だ!
ブレットは自分に言い聞かせて、すぅーっ、と大きく息を吸うと、
「お前は結局何しに来たんだ?」
と平静を装って訊ねる。
「ああ、そうだ、忘れてた」
訊かれて振り向いたエッジは、チラッと時計に目をやる。
「……あと5分か。フライングだけど、まあいいか」
「?」
「ハッピーバースデー、ブレット」
言われて、は?とブレットは目を見開く
「バースデー?……俺の?」
「そうだよ。まあ、まだあと5分あるけど。なに、忘れてた?」
「……もう6月か?」
「そうだって言ってんじゃん」
エッジは苦笑する。
忙しくしていて、日付感覚を失っていたブレットは、ぽかんとエッジの顔を見た。
「俺からのプレゼントは、そのドキドキだよ。……大事に育ててよね」
とんっとブレットの胸を突き、エッジは再びブレットの頬に触れる。
「ほんとはキスくらいしたかったけど。思ってたよりずっと初心な反応されちゃったから、キスなんて出来なくなったよ」
つつつ、とエッジの親指が唇をなぞり、ブレットは息を詰めた。
「……そんなに固くならないで。大丈夫だよ。今日は何もしないからさ」
エッジが手を離す。
それと同時に、ブレットの携帯が鳴った。
「ほら、バースデーコールだ。出なよ」
「……あ、ああ」
ブレットが携帯を手に取ったのを見て、エッジは今度こそ、向けた背中越しに手を振って、部屋から出て行った。