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    bar928_kuzuha

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    キスブラ版ワンドロライ(+20min)
    第68回『正義』『愚痴』

    「なぁーにが、鉄壁だ絶対君主だ」
    一気に飲み干したジョッキをテーブルに置く。
    冷えたビールが喉元をすぎて胃に落ちていく感覚がたまらない。いつもであればその心地良さに気分も上がり吐息が漏れるが、今日はそれだけでは気が収まらず口からは愚痴が溢れる。
    「自分が正義だと言わんばかりに小言を言いやがって…」
    空のジョッキが回収されて、泡が波打つ新しいビールが出てきたから、それをまた半分まで一気に喉に流し込む。
    ふー、と息を吐けば同席の同僚が苦笑いを向けてくる。
    「そうは言ってもなぁ、キース…」
    「…んだよディノ、ブラッドの味方する気かぁ?」
    オレと同じペースで呑んでも顔色ひとつ変わらないディノがビールを飲み干して追加と共にピザをオーダーする。
    「味方もなにも、何があったか聞いてないしなぁ」
    だいたい想像はつくけど、と先に注文していたピザの最後のひときれを口に含む。
    「あん?そうだったか?」
    「ブラッドと何かあったんだろうなぁとは思ってたけどね」
    何があったの、と促されて今日1日を振り返る事を始める。
    「今日は午前中はパトロールだっただろ?」



    午前にパトロールを終えてダイナーで軽く昼飯を済ませながら午後の予定を頭で整理する。
    午後からは空き時間を挟んでメンター会議がひとつ、会議前に提出の報告書がひとつ。未完成。
    報告書は空き時間に適当に作ればいいか、と先送りにしたまま気が付けば締切を迎えていたが、幸いには会議前に空き時間があったことに胸を撫で下ろした。
    さっさとタワーに戻って形ばかりの報告書を作るか、と店を出たところでクンッと足元に違和感。
    スラックスを握る小さな手。
    「……………ぱぱ?」
    「……………はぁ?」
    ぎゅーっと皺が跡に残りそうなほど強く握る手に潤んだ見上げる瞳。ぷっくりと膨らんだ目に寄せられた眉。
    「……ぱぱ、ない」
    ひっくり返りそうな高い声に慌てて目線を合わせる為にしゃがむ。
    「まてまてまて頼むから泣くな…!」
    んぐっ、と喉を詰まらせながら涙を我慢する少女…いや、幼女は2歳くらいだろうか。
    「父お…パパがどこか分からねぇのか?」
    「…ない」
    「まじかー…」
    ぎゅうぎゅうとスラックスを握る手は離れる気配がない。
    脳裏に中途半端な報告書と鬼の面相がチラつくが、それを除いたとしてもこの状況で幼女を放置するのは胸が痛む。
    「…よし、パパ探すか」
    幼女を腕に抱えて立ち上がると、周囲の聞き込みに足を動かした。
    カタコトではあるが幼女は意思疎通はできるようで周囲への聞き込みの成果もあり、どうやら父親も娘を探して奔走しているみたいですれ違っているようだった。娘の体力が尽きてきたのかうつらうつらと眠気に反応が鈍くなってきた為これ以上時間をかけては本人からの父親確認が出来なくなってしまうのは面倒だ。
    多少怖い思いをさせてしまうかもしれないが高い場所から一望して父親を探すことに作戦変更する。もしかしたら父親側からこちらを確認出来るかもしれない。
    能力で体を浮かせて、人探しをしている素振りの男を確認する。
    腕の中の幼女は体験したことのない高さに怯える事無く、目を輝かせて周囲を見回しているようで安心した。
    「どうだ?パパはいたか?」
    「…あっかい!」
    「…あっかい…?もう1回ってことか?遊んでんじゃないんだぞ〜」
    キラキラと輝く目がなんとも擽ったくて、顎をひと掻きして再度体を宙に浮かせる。
    「…ぱぱ!」
    幼女が1人の男を指差すのと、汗だくで空を見上げる男が目を見開くのは同時だった。
    男に幼女を引渡し、男の感謝の言葉と娘の輝く笑顔に見送られてタワーへと走り出す。時刻はメンター会議にギリギリ間に合うか、といった時間だった。

    何とか街から直接会議室に向かい数分遅れで駆け込む。遅刻と報告書不所持の理由を述べて着席するがブラッドは半信半疑の眼差しを向けてくる。
    会議が終わる頃に、先程の親子からお礼の電話があったことから何とか誤解は解けた。
    「遅刻の言い訳にしては雑だろ」
    「フン、普段の素行の問題だろう」
    「ぐ…」
    「延長した提出期間までには報告書を提出するように」
    「時間外にお仕事したんだから免除でもよくねぇ?」
    「ヒーローとしては当然の行為だ。時間ギリギリに仕事を残すから不測の事態に調整が効かなくなるんだ。そもそも貴様は普段の素行から直すべきだ。そうすれば感謝の電話がなくとも」
    「もーなんで小言になると饒舌になるんだよお前はよ〜」
    「貴様の為を思えばこそ…」
    「そう思うなら今日は業務終了だから小言はやめてくれ〜そんじゃおつかれさん!」
    「キース…!」
    話はまだ、と続けるブラッドの声を遮るようにドアを閉める。今日は1人で飲む気分じゃなくなってしまったので、ディノへと連絡を入れて足早にバーへと向かう。



    ゆさゆさと体を揺さぶられるが、上手く意識が浮上しない。どうやらいつの間にか寝ていたようだ。それは理解出来たが瞼は開かなかった。
    「うーん、だめか。じゃあ俺はタワーに戻るけどキースのこと頼むな」
    「あぁ」
    この声はブラッドか?いつの間に…ディノが呼んだのか?あーだめだ、意識が沈む…。
    「キースってば、呼び出しておきながらブラッドが俺の隣に居るの忘れるんだもんな」
    「いつものことだ。酒を飲んだキースに期待はするな」
    「酒を飲んでないキースには普段から期待と信頼を寄せてるけどな!ニヒッ」
    「……」
    「キースも分かってると思うけどな、ブラッドもたまには素直に気持ちを口に出したらもっとラブアンドピースだと思うぞっ」
    「…善処する」
    ディノの足音が遠ざかり、隣に人の体温が寄り添ったと思ったら肩を担がれる。
    もたつかせながら何とか足を動かす。意識は相変わらず浮上しないが体がなんとなく動きを覚えている。
    店を出て、ブラッドの車へと向かう。
    「…キース」
    ブラッドが囁くように呟く。
    「どうせ覚えていないだろうが…今日だけではない、いつも感謝しているし…信頼している」
    オレだって悪態は本心じゃねぇよ、と口を開いたが声は掠れていてブラッドに届いたかどうか確認出来ないまま意識が沈んでいった。
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