卒業写真残業、残業、残業。
先輩からのお小言。お客様からのクレーム。
毎日降り積もる、目に見えない何か。
私、何のために働いているんだろう。
誰もいない更衣室でふう、とため息を吐いた。
ロッカーに脱いだ制服を掛け、のろのろと駅への道を歩く。
繁華街は人で溢れていて、私が家へ帰るのを妨げる。
早く帰ってただ眠りたい。何も考えないでひたすら。
階段を上がったら改札まであと少し。すれ違う人の波に飲まれて、なかなか辿り着けない。
目線の先に、人並みからぴょこりと飛び出したものが目に入った。
(竹刀だ……)
男性の背負った荷物から、紺色の竹刀袋が飛び出しているのだった。
「懐かしいな……」
竹刀から、それを背負った人に目線を落とす。
「……!! 鯉……登くん?」
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