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    lalapapa_kikaku

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    lalapapa_kikaku

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    ライネリオ誕生日 ③11月

    ③11月宿泊旅行だよと聞いた俺は、とてもウキウキした心で飛行機に乗った。

    着いた先は、孤島の山奥にひっそりと佇む、昔ながらの大屋敷。イギリス風にも見えればフランス風にも、どこか東洋の雰囲気もあると思えば、見ようによっては宮殿と称しても過言ではない程立派な建物だった。屋敷ないも豪華で、映画の中でしか見たことのないようなセレブの、こう、ドレスを着たお姫様が出てきそうで、俺はワクワクした。
    確かに先生の仰る通りの宿泊旅行だった。リッチで、今まで体験したことのないような素晴らしい旅だったと言える。

    でも!まさか!

    他にも探偵や助手が大勢と集まった、トンチキな集会だなんて思わないだろ!


    --------------------------------

    最初の夜、俺は先生についていく形でカジノに立ち寄った。

    賭け事はごく限られた友人と、ごくたまに、お小遣いの範囲で楽しんだ程度だったから、これもまたスクリーンでしか見たことのないようなカジノに、俺はおっかなびっくりだった。
    「う、後で見ています」
    ここで一緒に勝負するなり、他でゲームをしてくれば良かった。俺は後悔するハメになる事を、この時は知らずにいた。

    先生はルーレットでどんどんとチップを増やしていた。慣れているのか、運がいいのか、いくらベットをしても倍以上になって返ってくる。いつの間にかギャラリーも増えていて、景気良くチップを掛ければ「おぉ」とどよめきの声が上がった。まあ、その後ろに立ち、忠実な騎士のように仕えているのは悪くなかった。執事のようでカッコいいかな、なんて。

    この言葉が先生から出てくるまでは。

    「ところで気になったんだけれど、リオ君はなんでずっと僕のところにいるのかな?チップを持っていてってお願いしたっけ?」

    ………嘘だろ?

    「いや、そんな…俺は、先生の、助手だから。貴方が困った時に、助けになれたらと」
    「あぁ、助手だからって気を遣ってくれたのか」

    違う!そうじゃない!

    「君と気が合う人もきっといるだろうし、可愛い女の子もいるみたいだよ。」

    確かに素敵な女性もいるけれども!

    「俺は先生と一緒にいたいだけなんだ!!」
    …なんて、言葉は喉のちょっと手前で急停止して、ぐっと飲み込んだ。先生はじっと俺の顔を見つめて、ともすれば冷たくも感じる微笑みを向けるものだから。困ったような、読み取れない感情に、どうにか言葉を濁して、また「チップ持ちの助手」としての仕事に俺は戻った。
    それも段々と居心地が悪くなり、先生に二言三言話をして、この場を離れる事にした。後ろに集まった人の間を潜り抜け、大きなカジノの中をぶらりと歩く。数あるゲームの中から目についたのは、比較的自分でも見覚えのあった、故郷のバーで触ったことのあるスロットだった。
    「こんな古めかしいものまで用意されている。すごいな、ここの館の主は」
    腰をかけて、コインを入れ、レバーを回す。
    「なぜずっと僕といるの?」その言葉が、その時の先生の眼差しが、頭の中でぐるぐる、ぐるぐると回る。
    記憶をかき消すように、がむしゃらにボタンを押して、レバーを引く。
    「助手だから気を遣ってくれたのか」
    俺がこの恋愛感情を伝えたら、先生はどんな反応をするのだろう。先生は嫌がるかな。考えてもいなかった。でも、先生のためなら何でもしたいし、先生とずっと一緒にいたいし、先生は俺を理解してくれて、褒めてくれて……
    揃わない、何もかもがぐちゃぐちゃだ。

    ボロ負けした。

    それを見計らったように、先生が帰ろうとする姿が見えてしまい、俺は焦りながらカジノを出て、先生と合流した。

    「賭け事がこんなに面白いなんて知らなかったな…久々に本気で楽しんでしまったよ。」
    先生はいつもよりか少し気分が高揚しているようで、頬がほんのりと赤らんでいた。
    「かわい…」
    「あれ、なにか言った?」
    にこり、と微笑む先生。さっきのカジノで見た、他所行きの笑顔。
    「かわい……楽器の……ピアノがありましたね」
    スタンウェイの、大きいピアノも。時間によっては、生楽器のセッションがあったりするのかもしれない。違う。そうじゃない。

    でもここでへこたれるのか?
    いいや。
    生憎、俺はブレーキを持ち合わせていない人間だから。まだ、諦めない。

    ------------------------------------

    <「そんなんだから振り向いてもらえないんじゃないか〜〜〜〜????wwwwww」
    <「m9(^Д^)」
    <「あなた本当に、いや、こう…多くは言いません。僕は甘味を食べに行きます」
    <「……」
    <「昔から、変わらないですねー」

         「みんな、全然優しくない」>

    面白がられているのか?人の恋路がうまくいかないのを見るのはそんなに楽しいか?いや、全員が馬鹿にしてきた訳ではないが。

    カジノを出た後、まだ割り当てられた宿泊部屋に戻るには少し時間も早いし、屋敷内を散策していた間に、俺はこっそり探偵助手友達にチャットを送っていた。

    「バーがあるじゃん。そこで口説けばいいんだよ」
    パン屋の息子よ、君が俺のアミーゴ。
    それだ!と思った俺は、それとなくバーに行きたい事を先生に伝えると、

    「いいね、一緒に行こうか。僕も行きたかったんだ。」

    よし。心の中で少しだけガッツポーズをした。

    そして携帯でダウンロードした恋愛コラムアプリをチラリと見てから、意気揚々とバーに向かった。

    『好きな人に意識してもらいたいなら、彼/彼女の左側に座るべし!』


    ------------------------------------

    薄暗い中、天井から吊るされたなんかお洒落な照明に、なんかお洒落で複雑な形をした光るオブジェ……木造だけれども綺麗にコーティングされたカウンター、あと椅子が…少なくとも形や色違いで10種類以上ある。
    「せっかくだから、飲んでいこうよ!」
    断らない理由なんてなかった。あわよくば…なんていう下世話な気持ちもありながら。
    そうして他探偵助手の方と時々お喋りを交えながら、俺たちはお酒を楽しんだ。全く見慣れない言葉だらけのお酒に戸惑いながらも、名前がカッコよくて気になったものを頼んでいた。

    「サブマリン…ってなんでしょう?」
    「ほう、ビールの中にテキーラを落とすのか。
    いってみよう!」
    この時点で俺は、覚悟を決めるべきだったのだ。

    「先生。先ほどから同じものばかり飲まれている、だから…こちらのカクテルなど一緒に飲んでみませんか?」
    「へえ、ありがとう。これは飲んだことがない…わあ、美味しい!マスター、もう一杯頂ける?」

    「先生、これスペインのワインで、シェリー酒って言って、美味しいんですよ」
    「リオくんのおすすめか、気になるな。どれどれ……ふふっ本当だ、少しパチパチしてる感じで、でもほんのり甘くて、スゥッと飲みやすい。美味しいね。でもこれ、ワインなんだ?言われなかったら気付かなかったかも。

    …ボトルで頼んじゃおうかな!」

    酒言葉で相手をその気にさせよう?そんな次元の話ではない。あれよあれよという間に、グラスが、ボトルが空になっていく。

    「…せんせい。これ、日本の酒は嗜まれたことはありますか?」
    「この風味は、今までとちょっと違うね。けれど、とても甘くて飲みやすい。ガラスに枡…風流だ。

    マスター、大きいグラスで頂けるかな?」

    「……せ、せんせ。テキーラ、俺色々と飲んでみたいな」
    「いいね…ふむ…銃弾の形をした弾丸テキーラ、面白そうだ」

    あれと、これと、それと…先生の飲む勢いはなかなか止まらず、カジノで勝ちまくったからか、俺の杞憂はどこへやら、優しい雰囲気の眼差しで
    「リオくんもいいお酒の味、覚えてみない?なかなかこんな機会ないんだから、遠慮しないで。ほら、ね」
    などと、俺が先生に飲まされている事態だった。

    最後の方は躍起になってあれこれ挑戦してしまうものだから、普段より饒舌になって、今までの事件を振り返ったりした。
    まぁ……酔っ払いながらも楽しい時間を過ごせたかな。探偵とその助手しかいないこの空間は少し異質だけれど、この空気は学生時代よりよっぽど吸いやすかった。

    少し席を立ち、見知った顔の人間と話をした後にカウンターに戻れば、明らかに酔いが回って耳まで赤くなった先生がいた。
    自分のスマートウォッチのヘルスケアを見れば、いつもよりも上昇している心拍数。これ以上はお互いバーで夜を過ごす事になってしまいそうだ。

    「せんせ、おへや行きましょうか」
    「うーん…そうだね…でも、まだ飲んでないお酒が……」
    「おへやに戻りましょう」

    母さん、父さん………は会ったことがないけど、俺の身体を丈夫に産んでくれてありがとう。肝臓はどうやら世界選手権に出れそうなくらいに俺は強かったよ。

    バーから屋敷内の部屋に戻る途中、先生は珍しくフラフラとおぼつかない足取りだった。
    「先生、足取りがやや不安定な様子です。か、か……エヘン。肩を…お貸ししましょうか?」
    「…ありがとう。今日は…大人しく……助手くんに甘えることにするよ。」
    「はい、それでは少し失礼します…」

    やったぁ…?
    ヤッッッッッターーーー?
    天国にいる母さん聞いてくれ!!俺は今、初めて!!好きな人と肩を組めました!!!
    マッマ!!!俺、先生と肩を組んだんだよ!!

    そうすると、まあ俺も酔っていたから、幻聴が聴こえてくる。

    「アンタねぇ、そういう時は肩を貸して腰を支えてあげるもんでしょう」
    マッマ…!

    俺はそっと、開いた右手を先生の腰に手を当てた。
    「せんせいって、意外と身体、しっかりしてる…ますね」
    「うん、そうだねぇ。これでも僕、ストーカーたちを何度も返り討ちにしてきたくらいには、体力あるからね」

    いい感じに殴るとみんな動けなくなるから、そのまま警察に回収してもらうのが先生のスタイルだったらしい。俺の先生は暴漢にも屈しない、強くてカッコよくて可愛い最強の先生だ。
    そして、身体が密着する事で分かるバルドル先生の身体つきが、俺に無限の妄想を与え始める。
    ダブルスーツの中には引き締まった先生の身体が…先生の素肌は…いやこれ以上考えるのはウッ…いや……でも致し方ない。

    「さて」
    酔っ払っていたという理由で俺はどこまで先生に何をしていいんだろう?ベッドに連れて行くのは、仕方がない。
    もし先生が途中で睡魔に負けてしまった場合…?スーツとベストとスラックス、いや、大事な仕立てられたスーツは大事なので、ちゃんとハンガーにかける必要があって、つまり
    俺は…

    おれは……

    オレは………!!!!?



    屋敷って意外と小さかったのだな。あっという間に部屋に着いてしまった。

    「せんせ、おへや着きましたよ」
    屋敷の部屋といっても豪華なホテルのようで、部屋の中に更に寝室が2人分用意されていた。
    「向かって左が、俺の…」
    本能が大きく叫んでいる。
    『自分の部屋に連れ込んじまえ』

    寸でのところで、俺の善なる理性が勝ったようだった。気が付いたら俺は部屋から出て、廊下で携帯と睨み合っていた。
    先生を寝室に先生を寝かせれば、ほにゃほにゃと何か喋り、やはりスーツのまま寝ているように見えた。




    -------------------------------



    「それで君は、携帯で何をしようとしていたんだい?」
    「この後の俺の…恥ずかしいな、“為すべきこと”って表現、合っている?それを友人に相談しようとしたんだ」

    そう。ついこの前の、11月の話をしていた。

    「それで次に何があったのかな?」
    「俺は、そう、恋愛経験豊富な友人に急いで電話をしたんだ。でも、電話には出てくれなくて、直ぐに、怒り混じりのメッセージが飛んできた」

    今までにあった、色んな事件。たった一年にも満たない間に、俺の世界は一層鮮やかに色付いていく毎日だった。

    「良き友達が出来たんだね。その友達はどんな子だい?」
    「同じ助手仲間で、一緒に、トースト一斤のパフェを食べたりした友達。早くちゃんと思いの丈伝えたり、手を出したり、後悔する生き方をするなって…」
    「あー、いらないいらない。それ以上はいいよもう。」
    ふわふわと、全身の血がゆっくりと流れて、心地よいはずなのに、声の主に違和感を感じ始める。

    一体俺は誰と喋っているんだ?

    「うーん、これ以上は流石に私も聞きたくないかな。いくら可愛い弟子といっても、汚い欲に塗れた感情の話は聞きたくないね」
    「汚い欲?」
    「そう、恋や愛だなんて、ましてや性欲!
    君を至高の存在にする邪魔にしかならないと思っていたのだよ」
    「でも、俺は、先生と出会ったことで、リオ君すごいねって褒めてもらえて、今までよりももっと賢くなったよ。」
    「ふむ、その先生の元にいることで君の才能が芽生えていったのは認め難い事実だ。私ももう少し若くて魅力的だったら、バルドル・エリクセンの代わりになれたのかねぇ。姿形、声、似せてあげようか?」
    「違う、おじさん、俺はね、今までおかしいおかしいって言われてきたところを否定せずに、受け入れてくれたバルドル先生が好きなんだ」

    パチン。

    筋張った大きな手がヒラヒラと視界を行き来する。
    「やあやあ、お久しぶり!」
    靄の中にいた意識が急速に戻ってくる。眼前の白衣を着た大柄な男は、オフィスチェアに腰掛けた。
    「混乱しているようだね。まあ仕方ない。君は私の催眠が、まるで魔法のように効いてしまうものだからねぇ、ハ、ハハハ!」

    そうだ、俺はさっきまでマッマと夕飯を食べて。違う、それも嘘で。

    「更にまた時間を跨いで、君の記憶を垣間見せてもらったよ!いやぁ、面白いね。
    大事に大事に、良きものを与えて。
    大事に大事に、面白いものを用意したのに。
    まったく思い通りに動いてくれないのはお父さんそっくり!そこがいいんだなぁ!」



    目が覚めると俺は、どこかの研究室の椅子の上に、縛られて座っていた。
    ワーキングチェアに乗ってグルグルと身体を忙しなく動かす初老の男は、俺の家族ともいえる1人だった。

    俺の“おじさん”だ。

    「その例の先生君が来るまで、もう少しお喋りしよう!」


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