「まぁ!キャラ、あなたったら」
キッチンから漏れ聞こえてきた声にボクはふと足を止めた。今日はウォーターフェルのあたりまで遊びに行こうと誘うためにキャラを探しているところだったんだけど。
かあさんの声が固くて咎めるような雰囲気があったから。なんとなく物陰に隠れてキッチンの方へ耳を澄ませた。あたりには良い匂いが漂っている。バターと砂糖が焦げる匂い。
「…これはみんなで食べるために焼いたのよ。こんな風にしなくても、あなたの分はちゃんとある。分かっているでしょう?」
ゆっくりと噛み砕くように言うかあさんの言葉に返ったのはキャラの冷たい笑い声だった。
「分からない。何を教えた気になっているの?」
「キャラ…」
「さっさと追い出したら良い」
ドキンとした。追い出す?つまり、キャラがこの家から居なくなるっていうことだ。
まさか!とうさんかあさんがそんな事するはずがない。キャラが何を言おうと納得するはずがない。そう確信しているのに、ボクの嫌なドキドキはおさまらなかった。
そもそも地上から落ちてきたキャラを家族に迎え入れると決めた時だって、実は古くから付き合いのあるひと達の中には反対していたひともいたんだ。
キャラが、ニンゲンだから。
「可哀想だから可愛がろう。そうすればいずれ懐くだろう。そう考えて始めたんだろうけど」
キャラの声は、小さな鋭い棘があるみたいだった。ボクに向けられているわけじゃないのに、その棘がチクチク心に刺さってくるみたいに痛む。
「放り出すのは気が引けるから、扱いにくくても我慢してるんだろう?ただの自己満足だ。ご立派だね」
かあさんが小さく息を呑んだのがわかった。
「…あんた達がやってるのはペットの躾だ」