ツバメの話今年も本丸の軒下に燕が巣を作っていた。それを見つけた長義は興味深そうにそれを観察している。気付いた国広が近づいた。「あんたは燕の巣を見るのは初めてか?」「そうだね……あれが雛か。小さいね」「ああ。ここは毎年燕が巣を作りに来るんだ。そうして毎年ここから巣立っていく。それを見ていると、とてもいい気持ちになる」「偽物くんもそういう感性を持ち合わせているんだね」「当たり前だ」
燕は毎日せっせと餌を運び雛に与えていた。それを毎日見るのが長義と国広の日課になっていた。「毎年六月ごろになると巣立ちするんだ」「そう。それは寂しくなるな」燕の泣き声を聞いていると、ふいに懐かしい記憶がよみがえった。
「ちょぉぎ、あれなに?」「こら国広。まだ打たれたばかりなのだから勝手に動き回ってはいけないよ」「あれ、あのくろいやつ!」「……あれは燕だよ。ツバメ」「つばめ?」「そう。今の季節になるとね、人の近くで巣を作って、数か月で巣立ちするんだ」「かっこいいねぇ、ちょぉぎ」「国広、俺のことは本歌と呼べとあれほど」「おれもすだちするのかなあ」「……そうだね、いずれはね」
「本歌?」顔を覗き込まれて長義はびくっと肩を震わせた。「どうした?ぼーっとしていたが」「いや、なんでもないよ」「そうか……なんだかあんた、優しい顔をしていたから」「……冗談はやめてくれるかな」
それから数日、巣はもぬけの殻になっていた。「無事に巣立ったのかな」「ああ、そうだろう」「来年も、再来年も……あの子たちはきてくれるだろうか」「ああ、勿論。ずっと来てくれるさ」口元を緩める国広を横目に見て、長義は「そうだね」と小さく笑った。