嫌がらせでデートに誘う本歌と卑屈な写しの話配属してからまともに国広と顔を合わせていない長義。挨拶もない、内番や出撃で一緒になった時も会話らしい会話もない。ただ近侍のときは最低限の引継ぎをするだけでそれだけ。
「俺が本歌だというのに?俺をないがしろにするなんてあいつは何を考えているのかな」
いい加減腹に据えかねた長義はある嫌がらせを思いついた。気に食わない偽物を嫌な目に遭わせてやろうと思った。どうせ嫌われているならば地の底にいくほど嫌われてやろうと自暴自棄になっていた。
「今日の手合わせで俺が勝ったら言うことを何でも聞いてもらう」
そんな罰ゲームをかけた手合わせを申し込まれた国広は困ったようにチラッと長義を見るだけで何も言わなかった。手合わせは長義が勝ち、明日一日は長義の言うことを聞くことになってしまった国広は「俺なんかに何をさせようって言うんだ」と不服そうにしている。
次の日国広は朝から長義にたたき起こされた。言われるがまま支度をしてついていくと現代に飛ばされた。
「偽物くんには今日一日俺とでぇとをしてもらおう」
「で……ぇ……と……?」
「偽物くんはでぇとも知らないのかな?まあ無理はないか」
「写しは偽物ではない」
「約束は約束だ。今日一日は俺に付き合ってもらう。いいな?」
そう、嫌いな相手とずっと一緒に行動しなければならない。これほどの苦痛はないだろう。そう思った長義は国広に対してデートという名の嫌がらせをすることに決めた。隣を歩かせ、時には手を繋がせ、向かい合って食事をし、買い物に付き合わせた。国広はパーカーを目深に被って視線を落としたまま何も言わない。おそらく嫌がっているのだろうと思った。ざまあみろ。内心でそう思った。そうして一日過ごして、最後にもっと心に残る嫌がらせをしてやろうと思い立つ。何が良いだろうかと考えを巡らせ、ここまで恋人同士のようなことをしたのだから口づけのひとつでもしてやればトラウマ級の嫌がらせになるのではないかと閃いた。長義は国広を路地裏に連れ込んで壁に追い込み無理矢理口付けをする。突然のことに目を見開く国広を見て「俺の言う事、なんでも聞くって約束だろう?」と意地悪く笑う長義。
「いくらなんでもやりすぎだ」
「はぁ?偽物くんの癖に口答えするのかな」
「写しは…偽物と違う!」
「え」
突然顎を掴まれてしまった長義は反論した国広に言い返そうとしたが、その唇を強引に奪われてしまう。先ほどの長義の口付けとは違い、国広は舌を挿入してくる。意味が分からずされるがままに舌を絡め合うことになった長義は情けないことに腰が抜けてしまった。国広にしがみ付き凭れ掛かる。そんな長義を見て国広は何も言わず、無理矢理腕を引っ張り路地裏を後にする。向かったのはホテル街、その中から適当な建物を選び国広は長義を連れて勝手にチェックインした。流されるまま部屋に押し込まれてベッドに押し倒される。
「偽物くん、話が違…」
「あんた、何のつもりなんだ」
「は?」
「あんたは俺になんて興味がないだろ?嫌いな奴と一日過ごすなんて、気でも狂ったのか?」
「……はぁ?」
「写しの気も知らないで酔狂なことだな」
「喧嘩なら買うよ偽物くん」
「先に売ってきたのはそっちだろ」
「偽物くんの癖に生意気なこと」
売り言葉に買い言葉で反論する長義に顔を近付けて再び深い口づけをする国広。二振りで一つのベッドにいる、この状況を不味いと理解するも抵抗もままならない。酸欠で身体に力が入らず思考もおぼつかない。折れるんじゃないかと思うくらいに深く長い口づけを交わし、国広は長義の上でネクタイを緩める。
「腹に据えかねた」
「は……?」
「今日という今日は許さない」
「……お前こそ、本歌たる俺をないがしろにしていたくせに」
今日のデートは嫌がらせと言い聞かせていたがただの八つ当たりだった。いつまで経っても視線も合わせようとしない不愛想な写しに苛立ちを覚えた。本歌たる自分を見て欲しかった。ただそれだけの事だったはずなのに、気付けば二振りは身体を重ねてしまっていた。