ハイパーうまうま餃子 とある飲食店。多くの客と店員の掛け声で賑わう店内に小手指高校野球部の清峰、要、藤堂、千早、山田の五人がいた。腹を空かせた彼らは、多くの強豪校が列を成すと噂の店にやって来て看板メニューの餃子を堪能している最中である。
無駄遣いをして所持金が残り少ない要と財布を持ち歩かない清峰のために餃子一皿分(六個入り)だけ頼み、一つずつ分け合って食べていた。そして残り一つをかけてジャンケンをする。そんな青い春を謳歌する様子の五人組を見て膝から崩れ落ちる者がいた。帝徳高校の岩崎監督だ。
「ふぁーーーッ」
「か……監督!?」
突然の中年男性の奇声と困惑した青年の声に反応して振り向いた山田は岩崎監督の隣にいた人物に頬を引き攣らせた。
帝徳の天才バッター国都英一郎だ。彼は甘いマスクの優等生で人気者なのだが、少々無神経な面も持っている。と、言うのも中学時代から清峰と要バッテリーへの憧れを拗らせた結果、アホの方の要にうっかり恋をしてしまい、勢い余って小手指メンバーの前で公開告白をしてしまったのである。この一件以降、清峰は国都を毛嫌いしているし、二遊間からはトンチキロマンチスト野郎と評され要注意人物扱いをされていた。
「およ? 国都っちじゃん。久しぶり〜」
「要くん、久しぶり。元気そうだね。会えて嬉しいよ」
「わだじも会いだかっだぁ」
要に存在を気付いてもらった国都が頬を染めて喜びを露わにする隣で岩崎監督が泣き出す。清峰がむっと顰めっ面をした。
国都は清峰の様子に気付いているにも関わらず「折角だし相席したいんだけど、いいかな?」と言う。その申し出に露骨に面倒くさそうな顔をする二遊間。山田を含めた三人は男同士の修羅場なんぞに巻き込まれたくなかったが岩崎監督の「流石国都! 好き! みんなで仲良くご飯しよ! わたしが奢ってあげるから、ね!?」という圧とタダ飯が食えるという条件に負け、彼らと相席することになった。
千早が山田から受け取ったメニュー表を藤堂へ渡しながら帝徳の二人へ質問する。
「今日は二人でここへ? 他の方はいらっしゃらないんですか?」
「うん。貸し切りする前の下見なんだ。帝徳は人数が多いからね」
国都が答えると藤堂が「貸し切って何すんだよ」と聞く。
「飛高先輩の誕生日祝いだよ」
それを聞いた要が目を輝かせて「めっちゃいいじゃ〜ん!」と言う。
「帝徳は厳しいイメージだったからそゆことすんの意外! 楽しそ〜!」
「ここだと全員入り切らなそうだから別の店になると思うけど、良かったら要くんも来るかい? ちょっとした催しもあるよ」
「えっ、おれ部外者なのにいいの? パーティーの主役のことよく知らないやつがいたら邪魔じゃない?」
国都と岩崎監督が口を揃えて『邪魔じゃないよ』とニッコリ笑う。岩崎監督は「君たちもどうかな」と他の四人にも声をかけたが微妙な反応を返されていた。
「圭は行きたいのか? オレは圭が行くなら行くし、行かないならオレも行かない」
「ん〜? 葉流ちゃん的にはどっちでもいいってことぉ? どうしよっかねぇ……」
ついでで誘われただけだろう自分が率先して断るべきだろうかと考えていた山田は未だ誰のものか決まっていない残りの餃子の存在を思い出して提案する。
「……とりあえず食べてから考えない?」
「そうだな、奢りだし」
「ですね、奢りですし」
それに藤堂と千早が同意し、要が藤堂が持つメニュー表を覗き込む。
「だったらさ、メニュー制覇してみたくない? 今ならお腹ぺこぺこだし出来る気がする!」
「流石にそれは……」
山田は要の思い付きを止めるため岩崎監督の方を見て、ご迷惑ですよね?という視線を送った。が、岩崎監督は「いっぱい食べる君が好き♡」と要にキュンとしている。
岩崎監督は重度のハイつよ箱推しヲタクである。推したちに貢ぐ機会など早々ないので彼は今幸せを噛み締めていた。
「きちんと食べ切るというルールなら、制覇への挑戦は賛成だ。僕も参加するよ」
国都が店員を呼ぶ。喜ぶ要を見た清峰がいつもの負けず嫌いを発揮した。
「負けない。オレが一番だ」
「おや、勝ち負けなのかい? なら、僕も負けられないな」
「どうやって勝敗つける気だよ、大食い勝負じゃねぇぞ」
「もうやる流れになってますねこれ」
「いいじゃん、みんなでやろ♪ あ、ドリンク来た。じゃ、カンパーイ!」
コツンッとジュースが入ったジョッキ六つとビール一つを合わせて乾杯をする。岩崎監督は終始デレデレしながら、推しをつまみにビールを煽った。彼にとって過去最高に美味い酒である。
【終】