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    寿武メイン。イヌ武・ココ武要素もある。
    支部とTwitterにて連載していた「ヒーローになんかさせない」の本編後の番外編。

    ⚠️注意⚠️
    今回の話は「ヒーローになんかさせない」の本にのみ掲載している「番外編 未来の希望」の話を含みます。
    読んでいなくても大丈夫なようには書いていますが、本をお持ちの方は読んでからの方が楽しめるかもしれません。

    #11BD
    #寿武
    shouWu
    #イヌ武
    inuwake
    #ココ武

    【寿武編】ヒーローになんかさせない番外編 アジトの二階、珍しく乾と九井が二人揃って出掛けており、そこにいるのは武道と大寿だけだった。いつもは武道の隣を占領している二人がいないからと隣に大寿が腰掛け、二人並んでアジトに置きっぱなしだった雑誌を眺める。

     のんびりと二人で取り止めもない話をしながら、大寿がペラペラとページを捲っていた。その中でふと、大寿の手が止まる。武道がどうしたのかと疑問を抱きながら、雑誌を覗き込めばそこに書かれていたのは「一人暮らしにオススメな物件、間取り特集」の文字。
     一人暮らしするつもりなのだろう。自分は未来では基本ボロアパート暮らしだったが、大寿はどんな所に住むのだろうとそこまで考えて「あれ?」と武道は首をひねった。

    「大寿くんって一人暮らしじゃないんでしたっけ?」

     聖夜決戦の後、八戒に招かれ何度か柴家にお邪魔したことがある。だがそこに大寿の姿は常になく、深く尋ねることは無かったが家を出たのだろうと察していた。そのイメージが強いのもあり、とうに大寿は一人暮らしをしていると思っていただけに特集ページをジッと見る大寿に疑問を持つ。
     それに大寿は「ああ」と返事をし、雑誌から武道へと視線を移した。

    「前回家を出たのは、お前と戦った後からだからな。今は家を空けることは多いが、まだ一応家にいる」
    「そうだったんスか。……、……あの、八戒と柚葉とは……」

     少し不安げな顔で、武道が大寿を見つめた。その視線の意味を正しく理解し、大寿はフッと笑う。それは今では随分と見慣れた、柔らかい雰囲気の優しい笑みだった。例えば柚葉や八戒、或いは大寿といる時間が短い黒龍隊員であれば目を見張るだろう表情であり、ありえないとまで口にするかもしれない。
     だが、武道は大寿のその笑みに違和感を覚えることはもう無い。なにせその笑みは、誰よりも一番武道に向けられ、一番見慣れているのだから。

    「オレに暴力だけが愛じゃないと教えたのは、他でもないお前だろう」
    「!」

     大寿の言葉に僅かに目を見開くと、嬉しそうに武道は笑う。それに大寿は満足げに鼻を鳴らした。今の大寿は家族を暴力で支配していた頃の大寿ではない。であれば、二人との仲も以前程悪くはないのだろう。
     三人が並んで買い物をしている姿を想像してみて、なんだか微笑ましい気持ちになり、想像の中だけだというのに武道は小さく笑った。

    「何笑ってんだ」
    「いや、大寿くんが八戒たちと並んで買い物してたりするのかなーって思ったら、微笑ましくて」
    「……微笑ましいなんて、オレに言えるのはお前だけだろうな」

     呆れたようにも、おかしそうにも見える顔で大寿はそっと息を吐きながら片腕だけで武道の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。「何すんスか!」と抗議の声を上げながら、楽しげにケラケラ笑う武道に大寿は目を細めて微笑む。

     ――そして、武道には気付かれないように静かに雑誌のページを閉じた。気になってしまったとはいえ、これは悪手だったなと思いながら。

     柴家の仲は、タイムリープする前から比べれば格段に良いものだと言えるだろう。大寿は暴力を振るわなくなった。自分から話し掛ける事は少ないが、八戒と柚葉に声を掛けられれば普通に対話に応じる。

     そうなった理由は分からずとも、以前の大寿とは違うと早々に気付いた柚葉は臆することなく親しげに話し掛けてくるようになり、その様子を見て八戒も徐々に声を掛けてくるようになった。

     まだ母がいた頃の遠い記憶、暴力ではない確かな家族の繋がりがあった頃に少しずつ近付くような感覚。タイムリープする前ではありえなかった夢想の日々。
     それは存外、悪いものでは無かった。
     だが、と大寿は柔らかな武道の髪を撫でながら思う。今の自分が何より優先したいものは、誰かの為に命を懸けてしまう武道だ、と。

     家族二人と穏やかに過ごせる自分をくれたのは武道であり、未来で二人は自分がいなくても立派な大人になって生きていくことを既に知っている。
     顔を直接合わせることがなくとも、モデルとそのマネージャーとして活躍しているのを、誰にも言わずとも誇らしく思っていた。このままなら、きっとまたその未来に辿り着いてくれるだろう。

     ならば、自分は他人の為にその生を捨てることを厭わない武道に己の全てを懸けても良い筈だ。

     家を出たい理由はたった一つ。あの二人が、武道に興味を持ち始めたからに他ならない。

     柚葉は明確に武道を認識しているわけではないが、黒龍が次の代へ引き継がれていることと、大寿が変わった理由が恐らく今の黒龍の総長であることまでは察しているらしい。
     大寿の態度が変わった最初の頃、変化に耐えきれず何を考えているのか聞かれた際、考えを改めたのは武道のおかげだと口にした。名前は出さず「アイツ」として伝えはしたが、それが今の総長だと分かっているようだった。

     対して、八戒は武道をしっかりと認識している。
     平隊員たちと武道だけで出掛け、幹部の三人がアジトに残っていた時に八戒を含めた東卍の人間と鉢合わせてしまった事があった。――あれは失態だったと、大寿はもちろん乾と九井も思っている。
     平隊員たちに呼ばれて慌てて駆けつけた先、マイキーたちを見て、武道は泣いていた。宝石みたいな瞳をきらめかせてポロポロと。あの瞬間に覚えたのは、東卍連中への憤怒や嫉妬、そして確かな焦燥だった。

     お前たちはもう武道とは関係ない筈だろう。武道は自分たちのなのに、どうしてお前たちが武道からの情を向けられている。このまま流されて、またアイツらの為に命を懸けようと決意したら——また、ヒーローに戻ってしまったらどうすればいい。

     だからこそ、光に焦がれるように武道に手を伸ばすマイキーの手を思い切り弾いて、自分たちの後ろに隠したのだ。

     一触即発の雰囲気になり、大寿たちは敵対心が増したが武道の言葉によって東卍の連中と友人になることもなく離れられた。その後には武道自身の言葉で大寿たちが一番なのだと、当たり前に言ってくれたからこそ溜飲を下げることが出来た。

     あの時を思い出せば思い出すほど、どうしようもない怒りや焦りに飲まれそうになる。
     今の武道はもうヒーローではなく、自分たちだけの物だ。何度も何度もそう自分の中で繰り返し、なんとか抑えるしかない。

     それでも、ふとした時に甦ってしまう。武道にヒーローという役割を押し付けたのも、命を懸けてもいいと思えるほどの存在であったことも、今でも顔を合わせ「タケミっち」なんて呼ばれただけで泣いてしまう程、今もなお武道の心を大きく占めているのも。全部、東卍の人間たちだ。その事実がどうしても気に食わなくて、衝動のまま潰してしまいたくなる。

     だがそんな事をすれば、武道がどう思うか。ここまで積み上げてきた全てを、自分の怒りの感情如きで台無しになんかしてたまるものか。その思いだけで自分を抑制してはいるが、弟の八戒はまさにその憎らしくて仕方ない東卍の人間だ。

     お互い違うチームに所属し、また総長に近い位置にいることもあり暗黙の了解として家でチームの話はしないようにしていた。
     だが武道と顔を合わせたあの日から、大寿が家にいると八戒はソワソワと落ち着きをなくし「兄貴、最近どう?その、黒龍の方でさ、」と下手くそな探りを入れてくるようになった。

     毎度「オレがなんでよそのチームに自分のとこの話をしなきゃならねえんだ」と相手にしないようにしているが、柚葉も「アタシも気になる!大寿が副総長でいるなんて、よっぽど凄い奴が総長なんでしょ?」と好奇心のままに混ざってくるようになった。
     適当にあしらい、武道の話は一切しないようにしているが頭が痛くなる。対策として家に帰る頻度を減らしてみたが、そうなると今度は二人揃って次はいつ会えるか分からないからとばかりに、その話ばかり聞きたがるようになってしまった。

     しかも八戒越しに武道の名前や容姿を聞いたらしい柚葉は「花垣武道って言うんだって?八戒は会ったのにアタシは会ってないんだけど。一回でいいから、ウチに連れてきてよ」と、ねだって来た。
     その後ろでは八戒が思い切りソワソワしていて、連れてくるなんて言ったらまず八戒はいるだろうし、最悪東卍連中も家に呼ばれるかもしれない。青筋を立てながら「連れてこねえよ」と跳ねのけたが、もうちょっとやそっとでは暴力を振るわないと理解した柚葉は食い下がり続けた。その場は大寿が家を出て終わったが、きっと諦めてはいないだろう。

     前回は早々に家を出てしまったが、今回はせめて八戒が義務教育を終えるまでは家にいて面倒をみてやろうかと最初のうちは思っていたが、武道が絡んでくるとなれば話は別だ。
     自分がいなくても大丈夫と分かっているのもある。家を出る覚悟をしたところで、雑誌の特集が目に入ってつい注視してしまった。

     だが、それを武道には気付かれないようにすべきだった。
     一人暮らしをするんだ、で話が終わればいい。だが、何故今なのかと理由を問われれば、二人の話をする事になってしまう。それは出来れば避けたかった。

     八戒の事を話せば、東卍の人間たちを思い出すだろう。柚葉の事を話せば、懐かしいと思うだろう。それだけならいい。だが――万が一、会いたいなんて言われたら、どうすればいい。

     自分たち黒龍の人間以外を見せたくない。心に住まわせたくない。思うのも、その全て自分たちだけであればいい。他の人間の事なんか、ひとかけらも武道の中になければいい。
     大寿はそれがどれだけ重く暗い執着心と独占欲か理解していた。理解した上で、そう思う事を決してやめなかった。やめられなかった。
     それにこの思いが自分だけでなく、乾と九井も同じだとも知っている。あの二人にこれがどれだけ重く歪んだものか自覚があるのかどうかまでは分からないが。

     武道の頭を撫でながら、大寿は祈るように静かに目を閉じる。
     どうか、どうか、と。

     ――その心が、これから先、永遠に自分たちだけのものであるように。その命を、正しく自分の為だけに使ってくれるように。どうか、他に目を奪われて、もう二度とヒーローになんかならないように。
     自分の命も、人生も。その全てを武道に捧げていいと思いながら、その全てを誰にも渡すなと、大寿も乾も九井も強く思って願って、祈っている。――祈るだけなんて、そんな殊勝さはないのだが。

     武道が悲しむからという理由がなくなれば、今すぐにでも捕まえて囲って大切に大切に仕舞い込むぐらいの事は簡単にする。だってこれは、自分たちの宝物だ。
     古今東西、どんな物語でもドラゴンは自分の宝を奪われたら暴れ回るものだ。ならば先手を打って、奪われないようにするのは当然のこと。宝物は大事に、愛でるものだろう。

    「もー!大寿くん終わり!終わりです!!」

     すっかりぐちゃぐちゃになった頭を庇いながら手を押し返す武道に、大寿は声を出して笑った。上手いこと話しを誤魔化せたらしいな、と乱れた髪を手で直す武道を見ながらひっそりとそう考えていれば「ただいまー」と九井の間延びした声が入口から聞こえてきた。

    「おかえりなさい、ココくん、イヌピーくん」
    「ん、ただいま」
    「ただいま。武道、見ろこれ」

     ふんすと鼻息荒く乾が掲げるのは、やけに大きなクマのぬいぐるみだった。黄色みがかったクリーム色の毛に、青いガラス玉の瞳のそのぬいぐるみをどうしたのかと聞けば「当たった」とだけ短く返される。

     それに武道が反応するより早く、乾は颯爽と武道にそのクマを押し付けて抱かせると満足そうに頷いて携帯を取り出して写真を撮り始めた。
     事態に頭が追い付けない武道はぽかんとクマを抱きしめて固まっている。

    「……いや、もっとちゃんと説明しろ」

     その光景を同じくぽかんと見ていたが、すぐに我に返った大寿が冷静なツッコミを入れた。苦笑しながら「ま、そのままっちゃそのままだよ」と九井が言葉を返す。

    「帰り道の商店街で福引があって。試しに引いたら、そのクマが当たったってわけ」
    「で、大人しく貰って来たのか」
    「イヌピー曰く「武道にちょっと似てる。これ持ったとこ見てぇ」だってよ」

     九井の言葉に、大寿は振り返って武道とクマを見比べる。言われてみれば、毛色や瞳のカラーリングが武道と同じで、ふわふわとした優しげな雰囲気も似ているような気がしてくる。
     納得して大寿は頷いたが、反対に武道はムッと唇を尖らせてクマを自分の方に向けて睨みつけるように見つめた。

    「……色だけじゃないっスか?」
    「雰囲気が似てる」
    「オレこんな可愛くないでしょ!?女子じゃあるまいし!」

     可愛らしいぬいぐるみに似てると言われるのは、武道としては不服の一言だった。確かに三人と比べれば、抗争でも一番後ろにいるし軽い筋トレぐらいしかしていない武道はひ弱でしかないが。
     唸りながらクマにガンつけるその姿こそが可愛く愛おしく映っているのだが、男らしい男に憧れる気持ちは分かるので三人は何も口にせず武道を見守るだけだ。

    「気に入らないなら返してくるか?」
    「…………それは、なんか違うっていうか……負けた気になるっていうか……。……触り心地いいし、クッション代わりにします」

     拗ねたようにしながらも、乾が大層幸せそうに写真を撮っていたのを思い出せば武道はいらないと無下にする事は出来なかった。ぎゅうと抱きしめ、ふわふわの頭に顎を乗せる武道に乾は満足そうに笑って「そうか」と頷いた。

     後日、サイズ感がちょうど良かったのかソファに座る時はクマを殆ど手放さなくなった武道に「オレの場所なのに」と膝枕してもらいにくくなった乾が憎らしげにクマを睨む事になるのだが、そんな事今はまだ誰も知らなかった。
     閑話休題。

    「そういえば、さっき大寿くんと一人暮らしの話してたんですけど、」

     不意にそう話を切り出した武道に、大寿は内心で頭を抱えた。終わった話題だと油断していたばかりに、咄嗟に言葉が出てこない。
     大寿は二人にも柚葉や八戒の最近の話はしていない。故に、何も思うことなく武道の話を止める事なく続きを待つ。

    「オレ、未来では毎回結構なボロアパートに住んでたんですよね」
    「は?」

     思っていた話の切り口ではなく、ましてまるで予想だしていなかった「結構なボロアパート」の単語に大寿は思い切り武道をガン見した。

    「ボロアパートって、どんな?」
    「まず壁が薄くて、普通にテレビ見てるだけで大家さんにテレビの音がうるさいって怒鳴り込まれます」
    「「「は?」」」
    「目覚ましのアラームがうるさいって隣人に怒られるし、壁越しに会話も出来ます」
    「「「は??」」」

     そこから武道から出るわ出るわ、三人がまるで体験した事もなければ想像すら出来ないとんでもボロアパートエピソード。その上武道本人が貧乏且つだらしなかったものだから、輪をかけて悲惨な話がどんどん飛び出てくる。
     最終的に、山になったTシャツの下から腐った弁当が出て来た話まで聞いたところでストップを掛けた。

    「……なあ、イヌピー、大寿。オレ決めたわ」
    「奇遇だな九井。オレも決めた」
    「オレも」
    「え?何を?」

     深刻な顔で頷き合う三人に、武道は不思議そうに首を傾げた。その事に三人は自分たちの考えを更に深める。

     ――武道に一人暮らしは絶対にさせない。

    「だからといって、誰かと二人ってのも絶対ズルいだなんだ始まるし、四人一緒の方が平等だし色々都合もいいと思うんだけど、どうよ」
    「それが良いだろうな」
    「何が?え、ココくんと大寿くん今なんの話してる?」
    「じゃあオレ武道の隣の部屋がいい」
    「イヌピー、それは平等にじゃんけんとかで決めるべきだろ」
    「オレの隣の部屋って何?何が平等??」

     話の流れが分からず、三人の顔を順に見ていくも全員真剣な表情で何かを話し合っている。さっきまで一緒に和やかに話していたのに何故……と武道は眉を下げて考える。しかし三人が何を決めたのか、武道にはまったく分からなかった。

     何かに盛り上がって話を続ける三人。それを黙って聞いていたが、武道はやがて隣に座る大寿の袖を引っ張って顔を見つめた。それに気付いた大寿が「どうした?」と声を掛ける。少しの逡巡の後、「なんの話っスか」と小さな声で問えば、一瞬の沈黙の後大寿は笑い出した。武道は訳も分からず、突然笑い出した大寿に目を白黒させる。

     一通り笑うと、大寿は武道の脇の下に手を入れると、抱えたままのクマごと抱き上げて自分の膝の上に乗せた。

    「えっ!?た、大寿くん!?」
    「そんな除け者にされて拗ねた子供みたいな顔するな。ちゃんと構ってやるから」
    「っは、べ、別に拗ねてないですけど!?」

     嘘だった。一緒にいるのに、自分だけ除け者にされたような寂しさを確かに覚えていた。だがそんな的確に指摘されるとも思っていなければ、構ってやるなんて言われるとも思っておらず、図星を突かれた恥ずかしさから大寿の言葉を全力で否定するも、それすらお見通しのようで大寿は喉の奥で笑うだけだ。
     顔が赤くなるのを自覚する。

     そもそも、大寿が普段してくるスキンシップと言えば頭を撫でたり肩や背をぽんと軽く叩くぐらいの物で、こんな膝の上に乗せられることはまず無かった。それがまた武道の羞恥心を煽る。
     大寿は反対にご機嫌な様子で、膝の上に乗せた武道の髪を指に巻き付けたり頭を撫でたりしている。

    「大寿ズルい!オレもやる!」
    「乾はいつもいつも、武道の膝を独占してんだろ。たまには譲れ」
    「じゃあオレ」
    「九井は武道のスタイリング担当してんだろ。つうか、ソファだっていつもお前らに隣譲ってやってるんだ。こんぐらいできゃんきゃん鳴くな」

     自分たちもやりたいと文句を言う乾と九井を軽くあしらい、武道を離そうとしない大寿。二人に向けて投げられた言葉に武道は思わず大寿の顔を見つめる。それに気付いた大寿が目を合わせる。
     その瞳が柔らかく微笑んでいるのを見て、武道は思わず口を開いた。

    「オレ、大寿くんってそんなにスキンシップ好きじゃないと思ってたんですけど、もしかしていつもはココくんとイヌピーくんに譲ってるだけで、普通にスキンシップ好きだったりします?」

     沈黙。

    「……大寿がぁ?」
    「まさか」

     ありえない、そんなまさかと言わんばかりに眉を顰める乾と九井。そんな二人に確かにと頷き「オレの勘違いっスよね」と武道は笑った。だが大寿は沈黙を貫いている。そんな様子に「ハハハ」と笑っていた声は徐々に小さくなり、乾と九井の目が丸く見開かれていく。

    「……え、」
    「…………まじ?」

     大寿はどこまでも沈黙を貫き、ひたすらに武道の髪をいじり続けている。ソッと武道が顔を上げ、大寿の顔を伺えば大寿は笑っていた。——いつもの優しい微笑みではなく、抗争の時によく見せる悪どい笑顔で。

    「そうだと言ったら、何かしてくれるのか?」

     まさかの回答に武道は言葉を失い、口を何度も開閉させ、それから勢いよく乾と九井へ顔を向けた。

    「こ、これがサラッと言えるようになったらオレもモテモテになりますかね!?」
    「んぐ、っふ……!」
    「武道、別に大寿はモテないぞ」
    「おい乾」
    「ふっふふ、ふ……ん、ふっふふっ」
    「九井も何笑ってやがる」

     武道のまさかの反応に思わず吹き出した九井。冷静にツッコミを入れる乾と、別にモテたいわけでも何でもないが、実際言葉にされると面白くない大寿が顔を顰める。それに九井の笑いのツボがさらに刺激され、肩を震わせながらソファに沈んでいった。

     そのまま「ココくんって笑いのツボちょっと浅いよね」「ちょっとどころか結構だろ」と話は続いていく。いつもと変わらぬ、四人だけの穏やかで平和な時間だ。いつもと違うのは、隣を独占している乾と九井が向かいのソファにいる事と、いつもは向かいにいる大寿が、自身の膝に武道を乗せている事だ。

     大寿の口から直接はスキンシップが好きとは言われなかったが、否定もせず武道を膝から下ろさないままでいるのが何よりの証明だろう。
     その日は大寿の気がすむまで、武道の居場所は大寿の膝の上だった。

     それ以降、大寿はアジトにいる時は時折武道を膝に乗せるようになった。武道は気恥ずかしいと思いながらも、これまでは乾と九井に遠慮していたのだろうかと思うと拒否できず、膝の上に大人しく収まった。

     そしてまた、二人ともそれをからかう事も止めることもしなければ、奪って自分たちの隣に置くような事もしなかった。武道はそれが少し不思議だった。
     特にくっつくのが大好きな乾が不満を口にしないのは意外でしかない。多少拗ねたような表情の時はあるが。

     ――だが、他の三人からすれば特段不思議な事ではなかった。
     こうして武道が自分たちが傍にいる事が当たり前になって、逆にいない時にもの足りなさを覚えればいい。
     東卍の人間と出会っても、自分たちを選んでくれた。一番と言ってくれた。ああそれでも、足りない。もっともっとと求めてしまう。

     今だけ隣にいるのでは足りない。未来でも、それこそ「あの未来」のそのずっとずっと先も、武道の隣は自分たちだけのものであってほしい。いいや、そんな曖昧な願望ではない。
     それは確固たる意志。これから先、例え未来で東卍の人間たちと友達になるような事があったとしても。自分たちの立場は絶対に揺るがせない。

     ――彼らは気付いていない。
     最初は武道を絶対に死なせない、ヒーローになんかさせない。ただそれだけが望みだった筈なのに、それはいつの間にか形を変え、より貪欲なものになっていることに。
     自分たちにとっての武道がそうであるように、武道にとっての自分たちが一番であり世界の中心であり、絶対的なものになるように。
     遠い遠い未来でも、その隣が自分たちのものだけであるように。そう願うようになっている事に。

     いいや、きっと気付いたとしても、だからなんだと開き直ることだろう。
     だって彼らの全ては武道だ。それ以外は全てが些事でしかない。
     今日も四人はアジトでくっつき、笑いあって過ごす。時に抗争をし、隊員たちとも笑い合いながら、ただ笑って日々を享受する。

     ああそれは、かつての彼らが望んだあまりにも幸せな時間。
     ようやく手にした幸福に、彼らは穏やかに微笑んで息を吐く。この時間を続かせる為に、出来ることは全てしようと強く思いながら。
     黒き龍たちはただ幸せそうに笑うのだった。
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    asagi_bd

    DONEココ武メイン。イヌ武・寿武要素もある。
    支部とTwitterにて連載していた「ヒーローになんかさせない」の本編後の番外編。
    仲良し(執着)11BD。ちょっぴり不穏です。
    支部の本編→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16773536
    イベント後、数日したら支部にも載せます。
    【ココ武編】ヒーローになんかさせない番外編 黒龍の人間に九井一がどういう人間かを聞くと、誰もが一瞬口を閉ざす。それは口に出すのを憚られるような恐ろしさがあるからなどではない。皆どう答えたものかを悩み、それから言うだろう。
     ――どれが本当か分からない、と。

     11代目黒龍の幹部である、柴大寿、乾青宗、九井一。この三人の中では、九井は一番話しかけやすい人間ではある。

     大寿は武道が総長になってからは、まるで人が変わったように落ち着きのある人間になった。とはいえ、十代目総長だった時の記憶は鮮明に残っている。いつどうキレるか分からず、圧倒的な力がある存在であるという認識は変わらず、軽々しく話しかけられる相手ではない。
     乾はあからさまに武道とそれ以外とで態度が違う。話の内容が武道関連だとかぶりつきでくるものの、そうでない時はこちらから話しかけない限り口を開かなければ目も合わせない。武道以外ではバイクなんかは話が盛り上がることもあるが、まあ話しかけやすい相手かと言えば答えは否。
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     ――どれが本当か分からない、と。

     11代目黒龍の幹部である、柴大寿、乾青宗、九井一。この三人の中では、九井は一番話しかけやすい人間ではある。

     大寿は武道が総長になってからは、まるで人が変わったように落ち着きのある人間になった。とはいえ、十代目総長だった時の記憶は鮮明に残っている。いつどうキレるか分からず、圧倒的な力がある存在であるという認識は変わらず、軽々しく話しかけられる相手ではない。
     乾はあからさまに武道とそれ以外とで態度が違う。話の内容が武道関連だとかぶりつきでくるものの、そうでない時はこちらから話しかけない限り口を開かなければ目も合わせない。武道以外ではバイクなんかは話が盛り上がることもあるが、まあ話しかけやすい相手かと言えば答えは否。
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