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    アシンメトリー/ちはちか

    これまでのあらすじ!
    双子の兄・千春(PLエノコロ)は高校時代に起きた殺人事件を解決して名探偵になったよ!好きな先生が犯人だったみたい!双子の弟・千夏(PL早野)はそれに怒ってついつい兄を刺してしまったよ!それから千夏は千春に異常執着することになったんだ!

     夕飯を食べ終わったあと、皿を洗っている弟の顔を見てふと違和感を覚えた。俯く千夏の頬にかかる髪が鬱陶しそうで、そういえば長らく切ってやれていないなと思い当たる。千夏は俺に気付くと目を合わせたまま作業を続けるので、髪を切ろう、と簡潔な言葉でキッチンから連れ出した。千夏は嬉しそうにスポンジを置いてこちらへやってくる。頬に触れた手が冷たい。
     今日は将人と要が来ていたから、二人きりの時間が足りていなかった。常に同じ時を過ごしているけれど、千夏は人見知りなところがあるので、いくら仲が良くても長い間他人といると疲れてしまう。それくらいは顔つきを見ればわかった。
     そうやって、数年前も気付いたことを辿っていっただけだったな、と思い出す。体調でも悪いのか、トラブルでもあったのか、プライベートの悩みか……そんな好奇心と下心が導いた結末は、俺にとって好ましいものではなかった。尊敬する教師のうろたえる姿を思い出していると、鏡の向こう側で千夏の目が鋭く光っているように見えた。頭を撫でて、誤魔化すようにハサミを入れていく。
    「ねえ千春、今度は何色にしよっか? 前みたいな虹色にする? 気に入ってたもんね」
    「そうだな……でも、あれは面倒だからな……」
     髪を切る時は同時にヘアカラーも入れるようにしている。服装は俺と同じものを共有しているので、髪色で個性を出すしかない。それに、千夏はどんな色でも似合う。七色に染めた時は俺の頭もごちゃごちゃになったけれど達成感もあった。
    「長さはこれくらいでいいか?」
     千夏に話しかけて、左右対称の髪を確認する。
    「うん! 千春の好きにしていいよ」
     千夏は千春のだからね。うっとりした表情でそう言われると、得も言われぬ焦燥感が背筋を震わせた。毛先を整えようと千夏に向けたハサミが鈍く光る。それは千夏の瞳と同じ輝きでこちらを見ているけれど、鏡ほど正確に反射してくれるわけではなかった。
     腹の傷が疼くような気がして、弟の首筋に刃面を当てる。千夏は冷たさにぴくりと体を動かすけれど、何も言わずに俺の決定を待っていた。ピアスなんて生ぬるいものではなく正真正銘の傷を作れば、彼の気持ちももう少し分かるのだろうか。
    「……千春、好きにして」
     見透かすような弟の声で我に返り、肌から刃を離した。俺に千夏を傷つける必要はなかった。
     千夏は千春のだからね、という言葉が脳内で反響して、うっかり切るつもりのない部分を短くしてしまう。
     俺は誰のものだろう?

     髪型を整えるのは難しいけれど、下手であれば自分の髪なんて切らせないだろう。いつも千春の好みに仕上がっているに違いない。
     千夏は俺のことが好きだ。俺も千夏が楽しそうだと嬉しい。世界で一番幸せなのは千夏であってほしいし、その幸福に血塗れの包丁は持ち込まなくて良いのだ。
     左側だけ短くなった髪型を見ながら、俺たちもそうであればいいなんてぼんやりと思った。
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