ざあざあと降る雨がスカートを濡らす。傘は上半身についていくけれど、踏み出す足を守ってはくれなかった。濡れるのは嫌だ。重くなったスカートは足に纏わりついて不快だし、視界に雫が映ると前が見えない。
だけど、雨は嫌いじゃなかった。濡れた体を放っておけない人が俺のために存在する。そんなことも有り得るのだと最近は知っていた。扉を開けて出迎えてくれたその人を見ると、温かい湯船に浸かっているような気分になる。全てを曝け出す心許なさに、それを覆うほどの安心感だ。
「わー、びっしょびしょ」
目を丸くした秋先輩がばたばたと忙しなく動く。これくらい大丈夫です、と言って中に入れば、彼はすかさず口を挟む。
「風邪引くから駄目だってば。そうやってすぐ意地張る……」
おいで、と大きなバスタオルを広げこちらを向く秋先輩は、なんだか恐ろしいほどに柔和な笑みを浮かべている。踏み出すのを躊躇していても関係なく向こうから近付いてくるから、俺はすぐに包み込まれてしまった。ぎゅうと抱きしめられながら体を拭かれて、風呂上がりの匂いがするな、と思う。ちょうど近くにあった鎖骨を口に含めば「うわ」と色気のない声が頭上から降ってきた。
「嫌ですか」
「んーん、嫌じゃないよ」
「えっ、誘ってます?」
思わず顔を上げて表情を確認するけれど、あっけらかんとしていて感情が分からない。
「そういうわけじゃないけど……」
熱が逃げていきそうでぐっと腰を寄せた。喉仏も食べてしまおうかと考えながら、もう一度だけ確認する。
「じゃあ、本当にしますよ。いいんですね?」
目を見ると秋先輩は突然くすくすと笑い出した。笑い事じゃない。大事なところで笑うなよ、と言いそうになるほど、なにもかもがうやむやになる気配がする。そんなのはおかしい。
「嫌なら言うのに。信用ないな〜俺」
「……信用、あると思ってたんですか」
背伸びをして近付くと、すぐに後頭部に回された彼の手が頭をぐいと押して、そのまま唇が触れ合った。この人はなんだかんだ俺が逃げられないように捕まえてくれる。俺は身を任せているだけで勝手に愛を注がれるから、こっちも同じように閉じ込めてしまいたくなる。
「鼻冷たい」
笑う先輩の首筋に顔を埋める。
「お風呂入ったほうがいいね」
「秋先輩も一緒に入ります?」
「いいよ、髪洗ったげる」
ボディソープの匂いをまとったままそんなことを言うから、狂ってしまいそうだった。