どこまでもhigher「なーなー、明後日8ちゃん、俺のやつな、オオサカデパ地下プリン大特集やで」
「…明後日のは歌の特番6時間で無い」
「え、そうなん?……てかプリン大特集がまず嘘やねんけどな」
「やろな、こないだからテコ入れ入ったもんなアレ」
「なかなか痛いとこ突いてくるやん…、…いや、それより自分やっぱ俺ファンやん、今日ダダ漏れやで」
「……。」
「んだ盧笙まだ凹んでんのか?もう決勝も終わったろうよ」
「もしや誰かになんか言われたん?」
「いや別に言われてへんけど、むしろ………ただ、終わったなぁ、って思ったらやっぱり、どうしても、な…」
「はぁ…とりあえずおいちゃんからのありがた〜いアドバイスやるよ」
「なんや」
「凹んで反省するのは別にいいことだ。むしろ立派だ。褒めてやるよ。…ただな、本買うなら事前に本棚のスペース考えてから買おうぜ」
「あ…。すまん盧笙それ俺も思てた…俺の私物置けへん…」
「酒のストックも。」
「ここ誰の家?」
「はぁ…でもまぁ、改めて、んなこと言いたくねえけどよ、アイツらほぼ毎週サイファーしてるんだぜ?一方こっちは、生徒と保護者と職場の人間に愛されてスマホ常にパンクしてる教師」
「あれは大半生徒のグループチャットや。」
「担任でもなんでもない盧笙が全学年各クラスのグルに入れられてる時点でおかしいで」
「みんなええ子やからなぁ…」
「で。ロケで全国中飛び回ってレギュラー番組多数の芸人」
「最近昼の帯、レギュラーでコメンテーターの依頼来たけど流石に断ったわ、忙しすぎて時事まではよう切れん」
「で。超多忙のスーパースペシャルエキスパート詐欺師、俺」
「ダッサ」
「ダッサ」
「……、で、んだ、アイツらも萬屋と学業もあるとはいえ毎週律儀に欠かさずサイファー、そんな相手に初参戦の俺たちが…無茶といえば無茶だし、の割には大奮闘したと思うけどなぁ」
「それなー…俺らもどないする?次のバトル備えてこれから毎週ひっかけ橋でサイファーする?」
「や、なんでよりによってひっかけ橋やねん。キャッチに囲まれてサイファーどころちゃうわ」
「なんでって、どうせやるなら目立ちたいやん。喉乾いたらすぐ前にスタバあるし」
「えーおいちゃん酒がいい〜」
「酒入ったら余計サイファー無理やろが!」
「えー。でもアッチの人ら葉っぱ吸ってトビながらライム刻んでんねんやから、アルコールなんてかわええやん。合法的。」
「あ。アレ、結局スーパーボウルの、どっちだった?」
「あ、アレな、…ステージでは流石に吸わんかった………チッ」
「よっし、5万。」
「でも控室、本番前に吸ったんめっちゃ撮られてたからドローちゃう?」
「ちょう待て…お前ら教師の目の前で堂々賭博すんな!しかも額エグ!」
「?日常茶飯事やでこんなん」
「おいちゃんこないだこいつに負けて10万取られた」
「待て…お前ら俺がおらん時何してんねん…」
「いやいや盧笙が大概酔い潰れとる時にわーわーやっとるからちゃあんとおるで盧笙。俺が盧笙仲間外れするわけ無いやん?この俺やで?」
「ここなら週刊誌の記者も警察の目も届かねえからな」
「あんし〜ん」
「お前ら人聞きの悪いこと言うなや…!」
「まぁそれは置いといてひっかけ橋でサイファーする件やけど」
「そこ蒸し返すんか。」
「盧笙がひっかけ橋ややなら、あ。あっこのメガドンキの駐車場なんてど?」
「更に治安悪くなったな。やだよおいちゃんか弱いからオヤジ狩りされる」
「大丈夫大丈夫〜、こないだ買うたったギンギラギンのジャージ着て盧笙のクロックス履いてったら同族思われるから」
「あれ着心地いいから困る。」
「てかあれなんで回り回って家のタンスにあるんや、お前は家泊まってかへんやろ」
「や、ちゃうあれ俺の」
「お前のかい」
「え、簓クンおいちゃんと双子コーデしたかったのかよ、初耳だぞ」
「自惚れんなカス、盧笙の分もあるわボケが」
「出たよ。はぁ〜あ。」
「は?どこに」
「俺んち」
「なんでやねん。」
「盧笙が着てくれたらええな〜って思いながら着てんねん。おかげでめっちゃネタ捗る」
「それはもうお前の服やろ」
「あ?じゃあ俺が前着たギンギラジャージどこにあんだよ」
「…俺んち」
「ん?てことはお前客観的に見たらサイズ違いの趣味悪いジャージ3着持ってることになるけどいいのか」
「…無いわ、明日ここに2着とも持ってこ…」
「お前の衣装ケースもうパンパンやぞ」
「あー…2個目買うて?」
「嫌や、持ち帰れ、あとそんなスペース無い」
「HEY、れー、ブックオフ買収して」
「お前ポンポン俺に企業買収持ちかけるのやめろ、あと俺に〝おいちゃんはSiriじゃねえ〟って何度言わせんだよ」
「自分らほんまいつもどんな話してんねん…」
「この間は酒コーナーで駄々こね。もうやだこの26歳児。」
「あん時どうしても山崎飲みたい気分やってん」
「山…、それ、こないだインスタで一般人に撮られてたやつか…?」
「わかんねえけど多分ソレ」
「あんな、お前らが変な事する度に生徒の子らに報告されんねん、俺恥ずかしいわ…」
「目ざといもんなぁ。JKちゃん達」
「…簓、お前な、真夜中にストーリーで意味深な投稿すんのやめぇ」
「…夜ってセンシティブなんねん…」
「〝センセぬるさらまた〜〟って報告される俺の身にもなれ、だんだん呆れながら報告してくる子も増えてきたで」
「てかせーとちゃん、そんなん見てる暇あったら寝えや」
「急に正論吐くな、同意見やけど…、あー…お前ほんといい加減にせえ、お前のリアコ、特にC組の冬川さんに敵対されとんねん俺、ほんま…」
「リア、…え。冬川サンって『ムテライ』貸してくれた冬川サン?」
「むて、ってどんなんやっけ…あ、でもこないだ漫画貸してくれたんは合ってるわ。うーん…あの子ようわからんわ…出席取ると頑なに挙手やし、お前のグッズ出る度毎回 買うた!って怒りながら見せに来るし、でも漫画貸してくれるしたまに変わったお菓子くれるし」
「いや…してやられたわ…」
「何が。」
「その『ムテライ』…あれやねん、イケメン芸人と女子高生の恋愛マンガでな、…あー…そういう……やられた、雑誌のコラムで 今月のマイブームって紹介してもうた『ムテライ』…」
「はぁ、なるほどな。賢いねェ〜女子高生」
「ア?…どういう事や?」
「つまりそのフユカワって子はろしょーセンセを介してこのバカに求愛したんだよ、」
「してやられたわマリちゃん…」
「なんで下の名前知っとんねん」
「ニオワセとかとんだファンサービスやわ…罪な男すぎる俺」
「中身コレなのにな」
「はぁ、…落ち込んどるの恥ずかしくなってきた」
「盧笙な、これだけは言いたなかったけど、今回の結果自分のせいや…って思ってるやろ。」
「…。」
「ソレ、シンジュクの人とキャラ被ってるで。」
「ッ!!」
「え?何?どういう事?」
「芸人の世界ではな、キャラ被りはご法度やねん。」
「あー…まぁ確かにそうかもな?あんまそういうの詳しくねえが特に養成所?がかなり厳しいんだろ?」
「んー…いや養成所時代は盧笙、結構講師の教え跳ね除けるたくましい子やってんけどな…その後、卒業してすぐ出さしてもろた番組でな…」
「思い出したない…」
「結構有名なネタ見せ番組に呼ばれたんやけど、そん時俺らのキャッチコピー決める会議がとにかく揉めに揉めてな…」
「キャッチコピーで?」
「俺らコッテコテのド王道の正統派漫才、いかにも関西の漫才師やから、キャッチコピーがほんま決まらんくて、もう兄さんらが大概カッコエエの持ってって…、盧笙あれ結局決まんの何時間掛かったっけ」
「…6」
「キャッチコピーだけで?」
「キャッチコピーだけで。番組のPがもう途中から泣きそうな顔でな〝これもなんか似とる…!〟って…。俺ドッキリか?思ってたわ途中から」
「改めて思い出したない…」
「結局ソレは何になったんだ?」
「〝もうかりまっか本舗の再来〟」
「ッハ!6時間の意味!」
「今思えばめっちゃ光栄やし、実際撮る時はもう嬉しかったけど、PもADも作家もあの会議最後みんな悲しい目しとったな…あん時若手も若手やからこっちもあんま言えんくて…、終わった後全員疲労困憊。しかもそのキャッチコピー使われたんその番組一回こっきり。みんな誰っれも悪ないねん、悪ないねんけどな……」
「あ〜なるほどな。」
「あれから俺らキャラ被り言われんのちょいトラウマ」
「………確かに、キャラ被っとる…かもな…」
「やろ。それでも気になるんならアレや、零のせいや。零のマスタープラン的にオオサカ負けなアカンかったんやろ、そういうことやって思っとき?」
「おいおい、聞き捨てなんねえなそれは〜。お前だって酒飲んでるか盧笙に引っ付いてぐうぐう寝てるかなとこあったろ。」
「ア?常に疲労困憊やねんこっち、どんだけ俺の知らんうちに事務所に全国ロケの仕事入れられとる思とんねん。しかも盧笙にくっついて寝とったのに目覚したらいっつもお前の腕ン中。なんでなん。俺が何したって言うねん」
「お前邪魔やねん」
「お前も起きろよ。」
「あ。結局あん時のレイ子は上手くいったん?」
「おーがっぽり。無事ちゃんと結納直前まで行ってしっかり示談金貰って破局したぜ。中身アラフィフのオッサンだっての」
「おめっとう。その儲かった金で山崎50年買うて」
「重いからヤダ」
「や、待て…ほんま、俺の知らんうちにここの家の中で何が起きてんねん…」
「いやいやいつも通り俺らここでサイファーしとるやん。大丈夫やで」
「早々に全員酔ってラップも何も無いけどな」
「…もしかしてひっかけ橋でサイファーした方が俺ら…優勝狙えるかもしれん…?」
「おーう、あの辺だと近くにとっておきの店あるぜ」
「俺も」
「アカンわ。もう次のバトル決勝まで全員禁酒や」
「無理や死ぬ」
「おいちゃんも無理」
「どないしたら…」
「とりあえず乾杯?」
「今日何回目の乾杯やねん」
「次も頑張ろー、ハイかんぱーい」
「カンパーイ」