花盛りの地獄はー、と零がニコチンたっぷりの息を吐いているとガチャと玄関ドアが開いて珍しいお客さんが来た。いや、違う、珍しいというか、シチュエーションが珍しいのか。あまりないことである。今日はベランダに洗濯物があるので玄関。
安っぽいサンダルを履いた盧笙が零の隣に立った。
「相変わらず簓が情緒不安定なんやけど」
「おいおいどんな切り出し方だよ」
「もうええやろ。」
すぱっと言い切るスタイルに零ももうどうでも良くなってしまった。お坊ちゃん達は今日もイカれてて元気。
ちなみにもう1人のお坊ちゃんはパーを出したので現在買い出し中。最近負け続きでもう俺ほんまに駄目かもしれん…と本人談。
なのでまあ珍しいシチュエーションである。特に零がタバコを吸っている時なんか。副流煙の方が体に害らしいから。
「一昨日二人で散歩してたらツツジの蜜吸い始めて」
「小学生?」
「俺は吸わんかった」
ムッとした顔されてもだからなんだよと零は思ったが黙った。手っ取り早く適度に話をスキップしないと放火犯が帰ってくる。
先日ベランダで零が盧笙から聞いた話。
最近妙に零の子供たちと縁がある盧笙である。三男とか次男とか。
こんな事ってあんだねえ、まあ人口ガッツリ減ったからそういうこともあるか、シランケドー、と、いうのが零のスタンスだが、ご長男は誰かさんに似て零とは違うスタンス。しっかりとお礼の電話を盧笙にしたらしい。忙しいやろうにわざわざええ子やな、と、でも、
『でも、心配もしてくれて、一郎君』
『何に』
『お前と簓とつるんでることや、俺が。』
『俺はセーフ』
『客観的に見ればお前のがアウトや。嫌味とか言われてませんか、って聞いてくれたわ』
『泣きそう』
『何に対してや。てか、俺も悪い人間やと思ってたらしいで。スンマセン…、ってええ子やなあ一郎君』
『…。』
『まあ、そこはおいおいな。本題そこちゃうくて』
『簓と似てきたな言動』
『あそこまでネチネチしてへんやろ、まあ、そのネチネチの話やねんけど、俺の知らん東都の話してくれて、それがまたなぁ…』
『ヤンチャしてたのは知ってんだろそこそこ』
『いや、それもあんま知らんねんで、実は。まぁ、過去の話なんて楽しない言うてたし、俺もそう思うからええねんけど。…一郎君が教えてくれた話が引っかかってなあ、……あいつ意味無く放火したことあるらしい。』
『とんでもないヤンチャ武勇伝出てきたな。流石に初耳〜』
『あの人、ああ見えてヤバいとこ、…って、告げ口、陰口みたいッスね…、て……改めてええ子』
『スキッ、あ、ちげ』
『いやわかる。スキップな。ストップもバックも知っとるわ。…いやすまん、スキップな。〝うじゃうじゃ咲いててキモない?〟って急に垣根に火点けたらしい』
『こっわ…』
『ヨコハマの碧棺君がお説教したらしいけどヘラヘラしててキモかったって言うてた、』
『気持ち悪いのは今も変わんねえな、垣根?まあ、若気の至りってやつだろ、シランケドー』
『オオサカ人以外と、……あ、スキップな、すまん、…ま、それだけやったら俺が1人で抱える話なんかなあって思ってたんやけど、ちょっと一郎君気になること言うてて、やから知恵貸して欲しくて』
『知恵』
『〝いつもの寒いギャグ言いながらいきなりでライターで火点けたからそれがまた怖くて〟。』
『ギャグ。』
『放火しながら言うギャグってどんなギャグやねん…』
『そこ?』
『あいつの壊滅的に終わってるギャグは…、………待て、これが嫉妬ってやつか…?』
『いや知らねえよどうしてそうなったんだよ、……ま、いいや。……ギャグ……垣根、あ。』
『あ?』
『〝ツツジ満開、って自慢かい?〟』
『……ア?』
『うじゃうじゃ咲いてるだろ、垣根、町中にあるだろ』
『…………やったとしたらキショイなあいつ…』
『あいつが気持ち悪いのなんていつものことだろ。あとお前ぐらいは倫理観しっかりしてくれセンセ』
「──最初は順調やってんけどな」
「順調。」
「桜の蜜ってイソジンの味するらしいで」
「知らねえよ」
「ホトケノザは甘い」
「ドヤ顔で言われても吸わねえよ」
「ツツジの蜜には毒がある。」
「知らなかった」
「街でよう見かけるピンクのやつは大丈夫らしいで、アカンのは赤色のやって」
「はあ、」
「蜜、10mg摂取で痙攣、嘔吐、呼吸困難で死ぬらしい」
「ウィズダム」
「今回はウィズダムやないねん」
「……情緒不安定と。」
「脅された。」
はー、とため息を吐く盧笙に零はつい煙草を差し出しそうになって止めた。先日もそう、ちょいちょい間違いが増えてきた。加齢故の痴呆ならいっそよかったのに。
躑躅森盧笙は出自家庭環境影響トラウマ、熱く染まりやすく、利用しやすそう、容易い、丁度良いと思った過去の意図はどこへやら。
善とか悪とかそんなラベリングすら最早どうでもいいと思っている零である。
ここらで一度簓をシメようと零は思った。盧笙まで仄暗くなればオオサカはオシマイだ。……シランケドー。
「あ、」
と盧笙が間抜けな声を出したので零は外を見た。見慣れた緑髪がブンブンとこっちに向かって手を振っていた。
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タイトル:わくせいちゃん 様