純情の不純今まで対して気にしていなかったが、何をしていても右手人差し指というものはわりかし視界に入るもんなんやなというのが本日の盧笙の気づき。人差し指の先端、絆創膏、鮮やかグリーン。
昨夜盧笙がノートを捲った際、指を切った。体感的に〝あー、痛った。あー、〟程度の話だったのだが、『あー』と声を出していたものだから昨日も”たまたま”横に居た簓がなぁに?と気づいた。
『あー。』
『クーラー効きすぎてるんかなあ、あんま乾燥してるようには…』
『ちょい待って』
『あ?』
簓が雑な仕草で自分の鞄を引き寄せ、ガサゴソと、そして、〝あったあった〟、人差し指を取られ、チロ、そして、ペタッと絆創膏にプリントされた”ぬるさらちゃん”がコンニチワ。
『盧笙紙よう触るからいつかこんな日が来ると思ってて。やからグッズ会議ん時提案したら有り難いことにすんなり通って。盧笙の怪我を汚したい、ってな!』
それを聞いた盧笙はとりあえず緑髪を思いっきり叩いた。
それはそれとして本日。
とにかく目についた。
ベーシックな絆創膏に貼り直そうと盧笙は貼られた数分後から考えていた。が、相手はあの白膠木簓である。
…改めて白膠木簓は天才だと認識せざるおえなかった。
今朝はタクシーで出勤する羽目になって、
『代金気にせんでええよ〜、ええから遅刻遅刻』
思い返せば時間配分が絶妙過ぎて。盧笙が考えるに朝ダラダラしていたのは絆創膏を多分きっと、
『…あれ?センセ?……あ、えっ、』
『あっ、』
『おー!おはようさん!』
『ぬっ…、ぬるさらー!!!』
『あっ』
『ま、っ、ま、マリちゃん!!!!!!!!ぬるさら!!!!!!!』
『ぬっ、ぬるさらーーーーー!!!!』
『ぬるさら!!!!!!!』
……と。いうわけで、絆創膏は変えれず、というか、絆創膏の柄が恥ずかしいとか以上の目にあってしまったものだから、もう変えよう、いっそ取ろうなどという気持ちが盧笙の中でどうでも良くなってしまったのであった。
さて回想終わり。
しげしげと盧笙は自分の右人差し指の先のぬるさら仕様の絆創膏を見て物思いに耽る。
いってもう浴槽に湯が貯まるまであと数分の命、1日限りの相棒である。まだどこか痛いのは痛いが血は止まっただろうし、所詮紙で指を切った程度、
デフォルメで描かれた”ぬるさらちゃん”は可愛らしく、盧笙の1日を見守って、それがまた、なにか、なにか、
昼休みネットで【指輪 心理】と検索する羽目になった。
妙に職場の諸先輩方の左手の薬指の銀色が気になった1日でもあった。
嫌じゃないから困った。
そんな自分が嫌で、この絆創膏さえなければ帰宅即風呂場行きだったのに、汗でベトついた不快感を肌に感じたままだらだらとこの時間まで、やっと覚悟を決め今しがた浴槽を洗った次第で、それでもまだ風呂に入ることに抵抗がある。…右手人差し指、多分取れる。
これ以上考えるとドツボにハマる。というかもうハマっている。
盧笙は簓のことが好きなのだ。そしてとても幸福なことにその恋は成就している。が、その先、その先にまた新たな気持ち感情が待っているとは…絆創膏一つ取るのにも躊躇するようになるとは、見ててほしいとかなにかそんな、自己顕示欲的なそんな、絆創膏一つで、
…──ティロリロリロリロリロリロン、ティロリロリロリロリロリロン 無慈悲なアラームの音。
ため息一つ吐いて盧笙は風呂場に向かった。
案の定取れた。
一瞬少し考えたが、脳内で冷静な自分が『いやカビ生えるわ』と言ったので、結局無駄に丁寧にティッシュにくるんで捨てた。
「……」
「おはようさん!」
「………………おらんかったよな、昨日」
「まあまあ、朝ごはんにしょ〜、目玉焼き食べたい」
「いつ来てん、…たく、」
布団をめくろうとして盧笙は、右手人差し指の先端、絆創膏、鮮やかグリーン。
「……お前なんか嫌いや」
「おっ!朝から嫌い宣言頂きました〜!俺は好きやで!」
簓の言葉は無視して盧笙は右手を上にかざし、指先の絆創膏の”ぬるさらちゃん”をぼぉっと眺めた。すると、手を取られて盧笙は顔を右に向けた。
「本物こっちおんのに、」
そういうことちゃうねんあほ、と思いながら盧笙は右足で思いっきり簓の足を蹴り飛ばした。頭の端ちょっとだけ、それが青あざにでもなればいいと思った。
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タイトル:わくせいちゃん 様